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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【本編再開】 ( No.180 )
日時: 2011/05/15 21:02
名前: だいこん大魔法 (ID: OkVLMN/u)

その声には・・・若干の寂しさが宿っているような気がした。・・・そうだ、こいつは今はこんななりでも・・・元は人間の世界に生み出され、自分の力、魔術師の力に気づくことなく、人の世界で生きてきたはずだ。そして・・・その翼は、その・・・こいつが生きてきた人間としての世界を———崩壊させたのだろう。魔術師としての力を目覚めさせてしまったそのとき———必ず人は代償を払う。それが孤独であったり、破壊であったり———いろいろなものが存在する。たとえば、エルとリーなんかでは孤独だ。ローラはよくわからないが、おそらく破壊、蛍とレイはおそらく———孤独。そう、契約者ではない、生粋の魔術師は誰しもが一度、悲しい思いをしているのだ。契約者である俺にはその感じを理解することはできない———だけども、エルたちはその孤独に打ち勝った。その代償に打ち勝った・・・そして、こいつは———その代償に、償いきれていないのだ。自分が翼をだすことでその全てが消える———それは・・・こいつの人間としたの心が、その翼に恐怖しているのだ。少しだけ残る、人間として生きてきたこいつの時間が・・・その翼をだすことを拒んでいるのだ。だから———完全に人間の心を捨て切れていないこの男は———恐怖するのだ。自分の力に。

「だから———消してやろう。お前ら全員だ。お前らが生きてきたこの街も世界もすべて破壊しつくしてやろう。かつて俺が味わった悲しみを———テメェら全員に味合わせてやる!!」

・・・思えば、昔不自然なニュースを見たことがある。今から丁度十年ぐらい前で・・・俺は、そのときのことをほとんど覚えていないが、ひとつだけそのニュースのことを覚えていた。・・・そう、ある街が、未知の力によって破壊された———これは宇宙人の仕業か、それとも人為てきに行われたものなのか———というニュースだ。そして・・・その中心人物が———おそらく、こいつなのだ。いや違う。こい
つなんじゃないかと———思う。
・・・【氷翼の魔術師】、言い換えるなら———【氷欲魔術師】。感情を凍らせてなにも欲さなくなってしまった魔術師。魔術という力の理不尽さに抗うために強くなり、なにものにも負けないように強くなり———やがてその目的が狂い———自らの悲しみを他人に背負わせるためだけの存在となってしまった———孤独な魔術師。それはエルやリーとなんら変わらない・・・だけども、道をはずしてしまった———こいつの、末路。
辺り一体がさらに凍てつく。空気は氷の膜の侵攻を抑えきれず、速度をまして凍り付いていく。だが、まだ終わらない。グレンが両腕を広げ、まるで閉じていた翼を広げるようにして———水色の、凍てついた、竜のような、蝙蝠のような翼を広げた瞬間———氷の衝撃が、俺たちにむかって放たれた。
それを俺はかわしきれない。というか、辺り一帯に広がったそれは、まるで獲物を逃がさないといわんばかりにでかい。いわばグレンを中心に円柱が広がっていっているかのようで、まず最初に屋上のフェンスが壊れる。いや・・・違う、氷りつく。次に、錆び付いたドア、給水タンク、コンクリートの床———辺り一帯のものがすべて凍りついて、距離を置いていた俺に、迫ってくる。
・・・ここで、俺がもしも逃げ出してしまった場合、エルは・・・リーは、ローラは、蛍は、レイは、ルミは・・・どうなってしまう?そんなの———

「わかりきってることだ!!」

そう小さく叫び、大きくうねりを上げ始めた紅蓮の炎を円柱にぶつけるように、刀を思い切り振り下ろす、その次に、振り下ろした刀を斜め上に持ち上げ、横薙ぎに一閃———人の大きさより少し大きな十字型の炎が衝撃波となり、円柱に真正面からぶつかる。

「よそ見してていいのか?」

「———っ!!」

十字の炎を放った瞬間、真後ろから声が聞こえる。感情のこもらない、完全に集中しきったグレンの声が・・・後ろから聞こえる。その声を聞いた瞬間、俺は刀を振り向き様に振り・・・真上にせまっていたグレンのロンギヌスの切っ先を、受け止める。
だが・・・そこで安心はできなかった。さきほど力を放ったばかりであまり紅蓮の炎をその刀身に宿していなかった刀が、グレンのロンギヌスの氷に侵蝕されていっている。それに気がついた俺は、すぐさま刀に意識を集中しても炎を噴き荒らす。その炎はロンギヌスの氷を溶かしつくし、さらにグレンをも飲み込まんばかりに広がっていく。だが・・・グレンはそこで一度ロンギヌスに思い切り力を入れて後ろに跳躍する。———まずい!!まだエルの【禁呪】の準備は終わってねぇ!!

「———我今『アバロンの劫剣』の誓約に従い、主に仇名す者を焼き尽くす!!」

焦ったのと同時に頭に思い浮かんだ言葉を俺はそのまま口にだす。すると、紅蓮の炎はさきほどと比では無いぐらいに肥大化し・・・それは何かを形造るかのように姿を変えていき———人間の数倍以上の大きさの、巨大な炎の手になる。それは俺の言葉に従ってエルたちの目の前に着地したグレンにむかって一直線にせまっていく。グレンを握りつぶさんばかりに———せまっていく。
いける———と思ったのも束の間だった。グレンはすでにそれに気づいていたみたいだった。グレンはエルに力を放つのをやめると、こちらに振り向いて翼を広げる。すると、再び円柱が広がる。いや・・・違う。今度は前、つまり俺の方向に氷の障壁が迫ってくる。その障壁と『アバロンの炎拳』がグレンと俺の間・・・つまり中間あたりでぶつかり合ったかと思うと、互いに———その力を、打ち消しあう。

「・・・まずはお前から殺した方が楽だな」

それを見守っていた俺の後ろから、再びグレンの声が聞こえる。・・・その瞬間、本能で感じ取る。背後でグレンがロンギヌスを振るうのを、・・・そのロンギヌスの狙いが、俺の首だということを、本能で感じ取る。
その瞬間に俺は動いていた。人間っていう生き物は危機を感じ取ったときに、普段の数倍の力を発揮することが出来る生き物だ。俺はその本能の動きにすべてをまかせて———刀を持っていない、左手を首の横に持ってきて・・・ロンギヌスを、素手でつかむ。

「なにっ!?」

その俺の行動に、グレンが驚きを隠せない声を上げる。だが俺はそれどころではなかった。左腕に走ったロンギヌスの衝撃、グレンの近くにいるだけで感じる怖気、体の中に侵蝕してくる氷の粒子———そのすべてを打ち消すために俺は、意識を集中させる。