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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【本編再開】 ( No.183 )
日時: 2011/05/23 06:56
名前: だいこん大魔法 (ID: OkVLMN/u)

「ぬううううぅぅああぁぁ!!」

再びすんでのところで———グレンのロンギヌスが、劫剣と自身の頭の中間に、割り込んできた。

「・・・テメェごときが・・・俺のことを・・・殺せると思ってんじゃ・・・ねぇ!!」

わりこませただけでは終わらなかった。グレンは、ロンギヌスに力をこめて、俺の劫剣を侵蝕していく。グレンのロンギヌスの力と・・・氷翼の力。その二つがまざりあうと、一つの町を滅ぼしてしまうほどの実力がある。だから、グレンが力を暴走させたとき、俺のこの炎ではおさえつけることができないだろう。そして・・・今、俺の劫剣は、さっきまでグレンのロンギヌスの力に勝っていた炎は、侵蝕され始める。・・・ということはもう、グレンの力は———暴走寸前まで達していた。

「くぁっ・・・」

そして俺は、自身の生み出す炎、【禁呪】の片割れ・・・自分の力の片割れを蝕まれていくことによって、普通の生活では感じることのないような、ありえないような痛みに襲われる。その痛みは、氷の侵蝕とともにすすんでいき、やがて俺の体全体へと行き渡る。だがしかし、それだけではない。その痛みは氷の侵蝕によって次々と力をましていき・・・俺の体が、骨が———軋み始めた。

「そのまま・・・くだけちまいなぁ!!」

そうグレンがさけび、氷の勢いが一気に増す。その氷ははもう、俺の劫剣を完全に包み込み、俺の腕を這い始める。
俺の神経を伝い、俺の腕を形作るものすべてを侵蝕していく。その感覚に、俺は再び恐怖を覚える。このまま・・・俺は死んでしまうのか?
このまま俺は・・・誰かを残して消えてしまうのか?家族を、幼馴染を、友達を残して・・・消えてしまうのか?
怖い・・・怖い怖い。自分のことを、みんなが忘れてしまうことが怖い。自分自身が築き上げてきた、人間としてのつながりが、絶たれてし
まうのが怖い。そしてなによりも・・・自分自身という存在が、なくなってしまうということが———怖い。
・・・そう考えた瞬間に、俺の体はもう・・・凍り付いてしまったかのように・・・動かなくなってしまう。ロンギヌスの侵蝕に対抗する力が一気になくなり、侵蝕のスピードが速まっていく。俺の右腕全体はもう、ロンギヌスの氷によって侵蝕されつくした。だけども、抗うすべを失ってしまった俺は———ただそれを、見守ることしか出来なかった。
どんな人間でも・・・心のどこかでは、生を望んでいるはずだ。もちろん、俺だってそうだ。こんなところでは死にたくないし・・・なによりも、自分が消えてしまうことによって、築き上げた絆がくずれるのが、怖い。俺が死ぬことによって———誰かが———エルが、悲しむのが・・・すごく・・・すごく、つらい。
俺は決めたはずだ、自分の命がどうなろうと、エルを護るんだ、と。自分が囮になってでも、エルを護るんだ———と。そうすることによって、エルのこれからの道は開かれる。そう・・・エルの道を切り開くと決めたのに———俺は、こんなところで怯えて、なにもできずに・・・死んでいいのか?こんなところで、無様に、なにもできずに、踏み台になることもできずに———死んでいいのか?
そう思った瞬間に、俺の体に、再び炎が宿る。

「あ・・・ぐあぁっ・・・」

その間にも氷の侵蝕は進んでいく。俺の体は半分以上氷に侵蝕され、ついには口もとにまで氷の侵蝕が進む。それでも・・・それでも・・・俺は、エルの契約者だ。あの、魔術師の世界で名を轟かせる、最強の魔術師の契約者だ。そんな俺が・・・そんな、最強の魔術師の契約者が・・・主のためになにもできずに死ぬなんてのは———信じねぇ!!相手の力がなんだ、力の差がなんだ・・・っ!!そんなくだらないもので勝敗を支配できると思ってんじゃねぇ!!俺は紅蓮の契約者だ・・・!!紅の魔術師の契約者だ!!だから・・・こんなところで———なにもできないまま死ぬなんてのは・・・信じねぇ!!力の差がおおきければ、狂ってでも埋めればいい。相手がどんなに強かろうが、仲間の力を借りればいい。どんな手段を用いてでも———俺は・・・こんなところでは、やられなんかしない!!

「———・・・ぐ・・・がああぁぁ・・・うおおぉぉぉああぁぁ!!」

灼熱の炎が、俺の体を奮い立たせる。まだ氷に侵蝕されておらず、それでも使えなくなってしまっていた左手から、深紅の炎がうねりをあげながら暴れ狂う。その炎はロンギヌスの氷を引き裂き、溶かし、俺の体を束縛しているそれを、消しつくしていく。

「なんなんだ・・・お前、なんで俺のロンギヌスの呪縛がきかない・・・?どうなっているんだ・・・炎は氷よりも弱い・・・それが【禁呪】同士の場合は、圧倒的に氷のほうが強いはずなのに・・・なぜ・・・なぜお前にはきかない!?」

うまくいっていたはずなのに、突然俺が抗い始めたのを見て、グレンが怒りの色を露にさせる。だがそこには・・・今までグレンが見せなかった表情、恐怖が・・・宿っていた。
俺は、自身にはりつく氷を、溶かしつくす。そのまま、復活した劫剣を消し、ロンギヌスを素手でつかむ。当然、俺の手は再び侵蝕され始めるが、そのたびにその氷を左手から荒れ狂う炎が溶かしつくしていき、さらに———ロンギヌスの先端まで、溶かし始めた。

「・・・なぁ、【氷翼の魔術師】・・・」

「なんなんだよ・・・お前、ただの契約者が・・・たかが契約者が・・・魔法を扱えるようになったばっかりのごみ契約者ごときが・・・ロンギヌスの力に勝る・・・っ!?テメェはなんなんだよっ!?なんなんだよ化物おおおぉぉっ!!」

左手の炎が、右手にも宿り、その炎がロンギヌスを逆に蝕んでいく。今まで、圧倒的なまでの力を振るっていたはずのロンギヌスは・・・、見るも無残な姿にまで、溶かされ始める。
それに、グレンの表情が、恐怖だけに染まる。
化物・・・という言葉に、俺はフッ・・・と笑う。本当は、今だって俺は、【氷翼の魔術師】のことが怖い。ちょっと前まで、普通の、平凡な人間だった俺にとって、いきなりこんな強い奴と戦ったらそれはもうびびるに決まっている。だが・・・今俺がこう平気でいられるのは・・・単純なことだ。俺を動かしているもの、俺を、こっちの世界に移させる理由となったものを———護るという俺の信念が・・・それに、勝っただけのことなのだから。
だから、俺はいってやる。ロンギヌスを手放し、それはもう、本当にこの街ひとつくらい容易く吹き飛ばしてしまえるぐらいの魔力を翼から吹き荒らし始めたグレンにむかって俺は———

「忘れてないか?」

その瞬間———

「・・・あ?」

グレンの胸を、深紅の炎で作られた巨大な剣が———貫いていた。
その剣を投げた本人・・・、今まで離れた場所にいて、【禁呪】を用意していたその人、俺の愛しい人であり・・・俺が、この世界に移った理由になる人。そして———俺が、護りたいと誓った———エルシャロン・ユアハーツその人が、にっこりと笑って———

「I fundi Glen kreu Yuri【終わりよ、グレン・ユーリッド】」

閉ざされた空間———結界が、グレンが作り上げた結界が———崩れ去る音とともに、俺はその声を聞いたのだった。