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- Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 【七章終 】 ( No.186 )
- 日時: 2011/06/10 22:20
- 名前: だいこん大魔法 (ID: OkVLMN/u)
エピローグ、勝利を喜ぶ者
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「終わった・・・んだよな?」
結界が完全に崩れ去り、グレンの体が、エルの【禁呪】に焼かれ、消滅した屋上で、俺はそうつぶやく。
空は快晴だった。雲ひとつない、澄み渡った空だった。さきほどまで、その空との間に、水色の、氷の結界がはられていたはずなのに、そこにはもう、なにもない。屋上の、いろいろと壊れていたはずのフェンスだのなんだのは、結界が無くなった瞬間になぜか修復されていて、俺の体に残る傷以外、何事もなかったかのように、戻ってしまっていた。
・・・さっきまでの出来事は———夢、だったのか?
「・・・ちがう、夢じゃ、ねぇ、な」
夢、と思ってから、自身に残る傷を見直し、夢ではないと実感する。
・・・体はもう、ボロボロだった。体のあちこちが悲鳴をあげ、折れた左手にかぎってはもう、今にでも俺のことを喰らい尽くさんばかりの痛みと悲鳴を発している。だけども、俺にとってそれは・・・勝利の証で、自分達が生き残ったんだ———ということを示しているように思えて———むしろ逆に、心地のよいものになっていたりもしていた。
・・・恐怖から、俺は一度逃げた。なにもないけれど、平穏でいられる、普通の人生に戻ろうとした。だけども、俺は戻って・・・戦った。
あのまま逃げていれば、俺はもう二度とエルたちと会うこともなく、普通の人生を遅れていたはずだ。だけど・・・俺はその選択権を、断ち切ってまでも、戻ってきた。それは・・・なんでだったのだろうか?いまになっては、そんなことすらどうでもよくなってきてしまっている。なぜなら———なぜなら———
エルが・・・生きているから、な。
・・・エルは、こっちを見て、強大な【禁呪】を突発的に使ったからなのだろうか、少々息切れをしながら、俺にむかって・・・ピースをしていた。エルだけではない。俺が逃げている間に、グレンと戦ったことによって傷ついた仲間・・・ローラたちも、それぞれが俺のことを見て・・・笑顔と、ピースを、むけてきた。
・・・それに俺は、右腕をあげるだけのしぐさで答える。グッと強く握った拳は震えていて、今にでも力が抜けて倒れてしまいそうだけども・・・俺は全力で笑顔を作り、戦いの勝利を喜んだ。———グレンを倒すことによって、一時的な危機はだっした。だけどすぐに、魔術師たちは、≪企業≫と≪機関≫と・・・≪結社≫は、エルを狙ってくるだろう。世界的に有名な魔術師であり、魔術犯罪者であるエルをねらって———そいつらは、俺たちの前に立ちふさがるだろう。だけども———今はそんなことは関係ない。今は・・・目の前から消えた、俺たちが仲間になって、初めて倒した敵———グレンの死と、自分たちの勝利を、讃えるだけだ。
・・・グレンには、グレンの人生があったことは、たしかだ。それを俺は忘れてはいない。人が死ぬことによって、必ず誰かが悲しむ。だけども・・・、俺は、そんなことで弱音を吐いて入られない。さきほど人生といったが・・・まぁそれは間違っていたな。グレンでも、人生とはいえない、俺が今生きるこの場所・・・化物の道で築き上げた絆があったはずだ。だけど、俺たちはそれをぶち壊した。それがどういう意味をさしていて、どんな恨みを買うか分からない。だけども・・・そんなのは、関係ない。関係ないといってしまえばそれで終わりなのだが、俺はそれを気にして入られない。エルは、今までに何人の人を殺めた?魔術犯罪者であるエルは、なにをして、何人人を殺した?
それわ比べようとは思わない。だけども・・・この世界では、命のやり取りは———日常茶飯事だっていうことだ。
———だから、早く慣れるんだな、俺
——————そう思った瞬間——————
俺は、涙を流して、叫んだ。
大声を上げて、自身の体に宿る痛みと人を殺したという絶望、グレンにたいして感じていた恐怖を今ここですべてぶちまけるようにして———叫んだ。
そう・・・俺だった死ぬのは怖い。なのに、そんな自分を棚にあげて、俺たちは人を殺した。それが許されるわけもなく、それは、永遠と俺の心に付きまとうだろう。人を殺めたという真実は絶対に覆せない。覆してはならない。覆すことによって自分は———本物の、化物になってしまうから———
だから俺は、悲しむ、人を殺めたことを、グレンがこの世界から消えたことを悲しむ。自分が本当にこの世界にはいってきてしまったんだなと、人間の心で泣く、単純に痛みで泣く。・・・色々な思いが俺の脳をえぐり、痛めつけ、その痛みにも俺は反応して、赤ん坊のように、ただただ大声をあげて———泣き叫ぶ。
エルを護ると誓った。たとえそれがどんな道でも、人を殺めようがなんどろうが、俺はエルを護ると誓った。自身の力が足りなければ、自身の命を捨ててまでもエルのことを守り抜くと誓った。そう誓ったからこそ・・・俺はここまでこれた。グレンから一度逃げ出した俺は、そう誓うことによって、道を見つけ出した。だけども・・・人の命を奪うということは———ひどく、つらく、悲しく・・・絶望しきってしまうぐらいに・・・苦しかった。
グレンと戦っていたときに燃え盛っていたはずの俺の心の中の炎はもう、完全にその灯火を失っていた。さきほどまでもっていた劫剣ももうない。左手から暴れ狂っていた業火もない。ただの人間となってしまった俺は———もう、泣くことしか、頭になかった。
ただ情けなく、ただただ泣き叫ぶ。そんな俺を見てエルは、どう思うだろうか?こんな俺を見て、ローラたちはどう思うか?そんなことはもう、今はどうでもいい。とりあえず、悲しめるときに悲しんでおくのだ。泣きたいときに、泣いておくのだ———そうしないと・・・この先延々と———俺は人を殺したことを後悔する。だからこそ・・・泣くのだ。
ふとした瞬間、俺の頬に、滑らかな感触が伝わる。それは仄かな熱を宿していて・・・とても・・・とても安らぐような心地のものだった。
涙で視界がなくなってしまっている俺だが、それが・・・エルの手だということはわかる。自分の大切な・・・大事な・・・愛する少女のものだということが、わかる。だから俺は、エルの手をぐいって引き寄せて———その勢いで迫ってきたエルの体を思いっきり———覆いかぶさるようにして、抱きしめて・・・泣いた。
そうだ・・・俺は・・・護りきったんだ・・・自身の命よりも大切で・・・愛しいこの少女のことを。それだけでも・・・誇っても・・・
いいじゃないか。
そうして・・・俺の本当の最初の戦いは・・・エルに頭を撫でられながら、やさしく・・・やさしくなでられながら———終わったのだった。