コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【紅の魔法】 ( No.3 )
- 日時: 2011/03/28 03:44
- 名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)
「いや、怒ってねーよ。そりゃお前は可愛いし、彼氏の一人や二人できたっておかしくないからな。嫉妬したってしょうがないさ」
「・・・そ、そう、ならいいんだけど」
「・・・なぁ、お前、なにかあったのか?」
・・・しまったぁぁぁぁ、なにやってんだ俺!?深いところにはつっこまないといったばっかりな気がするんだけど!?あぁちくしょう!
こいつとは幼馴染以外の関係にはなりたくないんだよ!!ほっとけよちくしょう!と心の中で自分を罵倒してももう遅い。昌子はひどく悲しそうな顔でこちらを見る。いつのまにか俺たちは———立ち止まっていた。
「・・・」
「あ、あんさ、いいたくないことなら言わなくていいぜ?ほら、なんか話長そうだし、今聞いてたら学校に間に合わなくなるだろ?よ、よっし、ほら、急ごうぜ!!」
昌子が今にでもなにか話しそうな雰囲気だったので、とにかく俺はその場かぎりのごまかしを使うことにした。・・・これからこいつが俺の家にたずねてきたりしたら絶対に無視しよう。今日の帰りも一人でちゃっちゃと帰っちまおう。そうすりゃこいつと秘密を共有したりする必要もなくなるだろう。
「う、うん、そうだね」
納得がいかないような表情をしながらも、昌子は俺の後ろをついてくる。俺は歩きながらあたりの様子を見回してみる。えーと・・・よし、今のは誰にも見られていないようだな。丁度いいところで通学者がとぎれてくれて助かったぜ。
若干テンションが反転してしまった俺たちは、そのまま五分間、なにもしゃべることなく無言で学校までの道のりを歩いたのである。
俺と昌子は違うクラスなので、俺は下駄箱についてすぐに昌子から逃げるようにして素早く上履きに履き替え、早歩きで一階にある自分の教室、1—Bクラスに入る。ガラッちょっとだけ勢いよくスライド式のドアをあけた俺は、まだあまり人のいないクラスを眺め回し、自分の席にむかって歩き始める。
「お、鎖牙じゃん、今日は早いんだな」
すると、朝早く学校にきているご苦労様なやつらの一人が俺をみて声をかけてくる。そいつに俺は目をむけて、言う。
「西野・・・お前はいっつもこんな早くからきてんのか?」
西野と言われたクラスメイトは、俺のゲーム仲間だ。高校に入ってから一ヶ月でできたカズ少ない友人の一人である。本名は西野勉。名前とは裏腹に頭の悪い馬鹿だが、俺と妙に馬が合うのだ。若干茶色がかった角刈りで、身長は俺より小さく、小太りな男だ。
「おうよ、家じゃ親が勉強勉強しろうるさいからな。いっつも早く学校きてゲームしてんだよ」
「そりゃしらなかった・・・」
西野の当たり前だといわんばかりの発言に呆れたような声を俺は出す。自分の机に教科書類がなにもはいっておらず、携帯ゲーム機しかはいっていないというカバンを置き、俺は席に座る。俺の席は男女隣同士で一列と数えると、二列目の丁度真ん中だ。悪くもないし良くもない席だな。
俺はなるべく昌子のことを考えないようにしようとPSPをとりだして、それを起動する。実際この学校はゲーム機とかそういった類はもってきちゃいけないのだが、先生にバレさえしなければいいのだ。
「お、モ○ハンじゃん。なぁなぁ、一緒にやろうぜ?」
実をいうと、西野は俺の目の前の席なのだ。椅子を反対側に座った西野がモ○ハンのカセットとPSPを取り出し、起動する。それに俺はニヤリと笑い、こういってやる。
「いっとくけど、俺はやりこんでるぜ?」
「はっ・・・、オタクの力をみせてやるさ」
そういって俺たちはゲームをやろうとするが————
「あー、ゴホン、残念ながら鎖牙、西野。お前たちはモンスターを狩る前に先生にゲームを没収されるぞ?」
「なっ・・・雉田のハゲ野郎、いつのまに教室に入ってやがったんだ・・・」
「なぁ鎖牙、お前は生徒、私は先生。わかる?生徒は先生にそんな口をきいちゃいけないんだよ」
いつのまにかあらわれていた長身でハゲでマル眼鏡のおっさん、雉田信之助が俺の机の横にたっていた。雉田はこめかみに血管をうかべて、さらに拳にも血管をうかべる。だが俺たちに何言っても無駄だと悟ったのか、突如拳を緩めて、長年の教師生活からへたスキルなのか、俺たちの手にあったゲーム機がいつのまにかうばわれており、雉田は得意げな顔をみせていた。
「どうだ鎖牙、西野。これが私の長年の教師人生で覚えたスキル、秘儀・ボッシュートだ!!」
得意げに勝ち誇る子持ちの五十五歳のおっさん。そんな担任をもってしまったことに俺は脱力しながらも、小声でそっと・・・思ったことを呟いてみる。
「・・・いいから人生定年退職しろよ。ハゲ」
すると、西野も俺と同じ考えだったのか、小さな声でそっと呟く。
「・・・そんなんだから皮膚に毛が生えないで脳に毛がはえんだよ万年ハゲ野郎」
「ねぇ、お前たち生徒だよね!?先生にそんな口きいていいと思ってるの!?てか鎖牙!!なにが人生定年退職だ!?それまじめに死ねっていわれるのより傷つくんだけど!?西野も西野だ!!私はたしかに皮膚に毛は生えてないけど脳にも生えてないよ!!」
「あ、ハゲってのみとめたな?」
「てかさ、俺前みたんだよね、教員トイレで必死に育毛剤を使ってた雉田を———」
「わーわー!!ゲーム機は返すからそれ以上いうでない西野おぉぉぉぉ!!」
「朝からむちゃくちゃテンション高いな・・・こいつ」
「ああ・・・正直相手にするのめんどくさいし、今はおとなしくしとくか」
「了解っす・・・」
雉田のテンションについていけなくなった俺たちは、ゲーム機をしまい、それぞれ暇つぶしをするために元の席に戻る。
・・・俺たちが適当なことをやっているうちに五分がたっていたらしく、教室にはいってくる生徒がちらほら見え始めてくる。そんな光景をみながらやはり俺は———平凡だなぁ・・・と思う。
毎日馬鹿みたいに学校に通い。有益ともいえない授業をうけて。友達と騒いで、また明日なといって帰って、家では勉強かゲームをして、寝る・・・。毎日平々凡々で過ごせたらいいなぁと思う人は、どこかにいるかもしれない。だけど平凡なひびを過ごすものにとっては、それは退屈でしかない。
せめて———せめて、この世界に魔法とか非科学的なものがあれば———ちょっとはかわるのかもしれないな。と、俺は小さく、誰にも聞こえないように呟いた。
その言葉は、ほんの思いつきだったのかもしれない。だがしかし、その言葉がどんな意味をもっていて、どんなに恐ろしいものなのかは———そのときの俺には、検討もつかなかった。