コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【紅蓮の契約者】※オリキャラ募集 ( No.32 )
- 日時: 2011/01/28 23:50
- 名前: だいこん大魔法 (ID: AEu.ecsA)
「ん、じゃぁやってみて?」
首をかしげながらエルがいってくる。そういいながらもなぜか俺の体のあちこちを手で触ってくる。俺はそれが少し恥ずかしくなり、一歩だけ後ろに下がって頷く。
「ん・・・わかった。たぶんできないと思うけどやってみるわ」
俺が一歩後ろに下がっておさわり攻撃をよけたことに、エルが少しだけ頬を膨らませるが、俺がそういうとエルはニッコリと笑う。正直にいうと、エルの笑っている顔はとてつもなく美しい。見とれてしまってもおかしくないほどに美しい。だから、この笑っている表情を見るだけで健全な男子高校生である俺は、見入ってしまいそうになる。つまりだ、なにがいいたいのかというと、魔法に集中とかできないってことだ。
いや———それでも、この笑顔を守るために、悲しそうな顔をさせないように、寂しいと感じさせないように・・・、俺は強くならなければならない。俺がいない九年間、俺が忘れていた九年間の間に、エルが俺のことをどう考えていたかなんてすぐにわかる。俺を探していたのだろう。なんらかの理由で離れ離れになり、記憶を忘れた俺はダラダラと人生をおくり、エルは———≪企業≫という連中と≪機関≫という連中から逃げて、そのうえで俺のことを探していてくれたのだろう———。そんな彼女に再び一人ぼっちの戦いをさせるわけにはいかないのだ。
俺は数歩前にでる。さきほどエルが立っていた場所まできた俺は、ドアの方向をむいて、【魔法】という、具体的な形がなにもない、どんな構成で出来ているかもわからない、非科学的なものを頭の中で考える。子供の少ない知識をかき集め、ゲームの中でみた【魔法】を想像し、漫画やアニメでみた【魔法】を想像し、さらに自分がそれを手から出していることも想像する———。色は紅蓮、形は炎、役は破壊———力の使い道、それは———大切な人を守るため。
そう思った瞬間、俺俺の頭の中に一つの言葉が浮かび上がる。それは英語のようで英語ではない。何語か分からない文字。だが、その言葉は不思議なことに、始めてみた言葉のはずなのに、読み方が———わかる。
俺はそれを自然と口にする。まるで日常の会話をするかのように、誰かに気軽に挨拶するかのように、滑らかに、言葉を口から吐き出す。そう・・・それはまさしく———
「・・・Dhe forcen tone, drita skuqem dhe per te mbrojtur kryesor『我の力となり、その紅蓮は主を守る光となる』」
【魔法】だった。
その言葉を俺が吐き出すと同時に、勝手に腕が持ち上がる。俺の腕は真っ直ぐにドアのほうにつきだされ、そこで固定される。固定されたかと思ったら次は、突然拳を握り始める。強く、強く。自分自身の力の限界を超えるかのようにして強く、拳を握る。すると、握った拳の間から、赤い、紅い、紅蓮の色、緋色の色をした炎があふれだす。それは瞬く間に俺の腕全体を包み込んでしまう。だがその炎は熱くなくて、むしろ心地よいぐらいだ。長袖の制服だから、それは炎に触れただけで燃えてしまうかと思ったが、予想外なことに、炎は主とその持ち物には一切ダメージを与えないようだった。
俺はその炎を見て、顔を歓喜の表情に染める。だが次にやってきたのは困惑だった。腕に炎はだしたものの、それをどうやって扱ったらいいのかわからない。まぁ悩んでも仕方が無かったので、俺はとりあえず適当に腕を引き、喧嘩の時によく使っていた技、右のストレートパンチを空中にはなってみる。そして・・・その腕が完全に伸びきって、手が空中に静止した瞬間・・・、炎が大きな獣の咆哮のような音をたてながら、不安定な形をとりながら目にも留まらぬ速さでドアに向かって伸びていく。その大きさは俺の体積の五倍ぐらいあり、瞬く間にドアを破壊して校舎に———
「———Frenim『制止』」
そのとき、エルが【魔法】を唱えた。だが俺にはその言葉を解読することはできなかった。だけど、次の瞬間に空中に複雑な形を描いて制止している炎を見て、それがなにかを止める【魔法】であることがわかった。
炎はまるで、進む術をなくしたかのように、それともそこに進むべき場所を見つけられなかったかのようにして止まっている。俺の初めて使った魔法———『フレイヤバースト』は自分でいうのもあれだが、相当の威力があったと思う。俺がエルを守りたいと思ったことによって生まれたこの魔法は、俺が『一番大切にしている思い』によって生まれたも同然だからだ。それを———エルはあっさりと、たった一言の『詠唱』によって止めて見せた。つまり———俺とエルとの力の差は、かけ離れているということだ。
最初から・・・最初からエルより強くなって、守ろうとは思っていない。だがしかし、力の差を見せ付けられると男としてはなんとなくあれだ、いやな感じだな。
「これが・・・魔法?」
だが、今はそんなことはどうでもいい、俺は魔法を使えたのだ。この手で、日常から非日常に移ったのだ。それが自分にとってなんのためになるかなんてわからないが、今はそれはどうでもいい。俺は———力を手に入れたのだ。エルのような『契約者』を探している人と出会わない限り人間では使えない、非科学的な【魔法】を使うことが出来たのだ。そんな思いが爆発しかけて・・・、俺はどういった顔をしていいかわからずにエルのほうを見た。
エルは笑っていた。その微笑は息子の成長を見守る母親のあれにも似ているし、慈愛に満ちた表情で子羊を見守る女神『マリア』のようにもとれた。そんなエルが俺のほうに歩いてきて、ギュッと・・・手をにぎる。そして彼女は・・・、涙を目じりに溜めながら、美しく、この世のすべてを愛しているかのような笑顔をみせた。
「・・・これであなたは本当の『契約者』になった。名前は・・・『紅蓮の契約者』。『紅の魔術師』の僕、相棒・・・そして愛しい人。そうなったことによって裕介の【人生】は完全に閉ざされ、【化物の道】が開いた。それでも———あなたは私についてくる覚悟はある?」
そしてそう聞いてきた。それはまだ契約の段階なのだと俺は悟った。『好きだ』という言葉をお互いに言い合うのは、第一段階の契約なのだと、俺は悟る。そして今・・・、第一段階の契約、つまり力の受け渡しの契約を終わらせた契約者が魔法を使ったことによって、第二段階の扉が開いた・・・。それは、『魔術師』から『名前』をうけとり、覚悟を———再び問うこと。
「さぁ・・・聞かせて?あなたの、裕介の本当の気持ちを・・・。私が好きだっていってくれてうれしかった———でも、今ならまだ、引き返せるのよ?【魔法】という得体の知れないものを見て、まだ日常を捨てたくないと思ったのなら、引き返していいんだよ?私はそれでも———、裕介と会えただけでうれしいから」
その言葉には、裏があることを俺は見抜いた。いくら鈍感な俺でも、その言葉の裏にある意味を・・・理解することはたやすかった。