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Re: 【紅の魔法】 ( No.4 )
日時: 2011/01/23 22:48
名前: だいこん大魔法 (ID: AEu.ecsA)

「えー、今日は転校生がこのクラスにやってきている」

朝のHRが始まった直後、雉田が突然そんなことを言う。クラスの男はおぉーと歓喜の声を、女はその転校生は男?そしてイケメン?という視線を先生におくる。雉田はそれに困ったような反応をしたものの、見れば分かるという言葉を残し、教室をでていった。おそらく、呼びにいったのだろう。
俺も興味がないといえば嘘になる。だがしかし、俺の頭の中で警告の鐘が何度も何度もやかましくなりひびく。その転校生に会うな、会うな、と俺の頭の中で、鳴り響く。

「なぁ、転校生だってよ。どんなやつがくるか楽しみだなっ」

「あ・・・ああ」

突然頭の中で鳴り響きだした警告に戸惑っていた俺は、西野の言葉に反応するのが少しだけおくれた。だが西野は転校生がどんなやつなのか興味深々で、俺の異変には気がつかず、前を向いてその転校生が入ってくるのを待つ。
その間にも、頭の中で警告は鳴り響く。会うな、会うな。そいつと会うな。絶対に会うな。あってはならない。会ったらお終いだ・・・と、鳴り響く。俺はそれが気持ち悪く思った。嫌な予感はたしかにする・・・。警告の通りに、逃げた方がいいのかもしれない、だけど———

【どうしてこんなにもハッキリと頭の中に声が響くのだろう?】

普通、人間はおぼろげな意識の時にすさまじい直感をはたらかせることができるという。それをいった学者の言葉が本当かどうかはしらないが、とにかくそういうことらしい。だがどうだろう、俺の場合これはカンというものではなく、誰かが俺に直接話しかけてきているような———そんな感じがするのだ。・・・実に馬鹿げているとは思わないか?
ガラッと勢い欲ドアが開く。まず先生が入ってきて、転校生が気持ちよく入ってこれるようにするためにあれこれいらない説明をする。俺はそれを聞いていなかった。このままだとまずい。まずいまずいまずい———頭の中に響く声が除々にでかくなっていき、吐き気を覚えてきた。椅子から一度転げ落ちそうになるが、先生のはいたギャグにみんな笑っていたからそれに気がつかない。なんとか椅子から落ちないように踏ん張った俺は、机に突っ伏するような形にとどまった。

「な・・・なんなんだよ、これ。この声はなんなんだよ・・・」

突っ伏しながら片方の手で頭を押さえる。だけど、まだ声はでかくなっていく。クラスメイトの笑い声が消え、先生がはいってこい———という。それに俺は、頭の中の声にしたがって、待てといおうとするが———そのとき、一瞬だけ、さきほどの声とは違う。幼い少女の、透き通った綺麗な声が、頭の中に響いた。

【私は———裕介のことが好きだよ———】

その声を聞いた瞬間、俺が今まで思い出せなかった、小学一年生の時の記憶が少しだけよみがえる。事故で完全になくしたと思っていた記憶がほんの少しだけよみがえる。美しい少女の顔。風になびいている美しく、長い、深紅の髪の毛。自分と同じぐらいの少女の身長。なめらかな体。とても同い年とは思えない。美しい少女の姿と俺の子供の頃の姿。夢で見るあの光景にどことなく似ているよみがえった記憶。それを思い出した瞬間、俺の顔は恐怖に歪んだ。
あの夢・・・。いつも見ているあの夢は、現実にあったことなのだと実感させられた。内容を覚えていないため核心をつくことはできないが。本能が、俺の中心にあるなにかが、そういっている。あれは夢なんかではない。幼い頃のお前の記憶なのだ———と。

「・・・ざっけんなよ。あれは俺の記憶なんかじゃない・・・絶対に違う」

そう心の中で言っても、自分でももうわかっているのだ。あれが俺の記憶の中のできごとで、さきほど響いた声も———知っているのだと。わかっているのだ。

「でも違う・・・違うんだ。絶対にあれは俺の記憶じゃない。もしも本当に夢の中のできごとが現実だとしたら———」

俺は小さく呟く。誰にいうまでもなく、高鳴っている自分の心を落ち着かせるために、暗示の言葉をかけるようにして呟く。そうあってはならない。あんな記憶があってはならない。記憶ということはそれはもう終わった出来事、もしくはすぎた出来事だ。そうなると———もしもあれがすぎた出来事ならば———


      【俺は死んでいるということになってしまう】