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Re: 【紅蓮の契約者】※オリキャラ募集 ( No.44 )
日時: 2011/01/31 01:13
名前: だいこん大魔法 (ID: AEu.ecsA)

「なに見てたんだ?」

単刀直入に俺は聞いてみる。するとエルは、なんでもないよ〜といいながら、口を開く。

「少し懐かしい『力』を感じただけだよ〜」

そう、エルは笑って言う。だが、その『力』というのがどういうものなのか知ってしまった俺にとっては、笑い事ではすまされなかった。

「そ・・・それってエルを狙う≪企業≫とか≪機関≫とかの連中ってことじゃないのか!?」

世界中にいる【魔法】を使う奴のほとんどが『契約者』だと教えてくれた後、エルはその『契約者』が集まって出来た組織、≪結社≫があることを教えてくれた。なんでも≪結社≫という組織は、自分達から動くことは一切なく、その≪結社≫が動いているときは裏に≪企業≫か≪機関≫が絡んでいるのだという。あとたしか、三年ぐらい前に≪結社≫本体が正式に≪企業≫に雇われたのだという。そうするのに≪企業≫がでれだけ莫大な金をつぎ込んだかは知らないが、おそらく俺達の敵は、≪企業≫という組織だけだろう。
つまり、そのエルの感じた『力』は、その組織の連中によるものなのではないのだろうか?と俺は心配しているのだ。
小声で叫ぶというすこし難易度の高い技をやってのけた俺に対してエルは、やはり笑う。大丈夫だよ〜と、笑う。

「心配しなくても大丈夫。さっき感じた『力』はたぶん、私達の味方だから」

「はへ?」

そのエルの言葉に、まぬけな声をだしてしまう俺。そんな俺をやはりエルは愛しそうに見つめる。その視線は・・・嫌いではないのだが、どうも恥ずかしくなってしまう。
そういえば、朝の出来事のせいで俺達がどんな関係かと一度問いただされたな。それは例によって知り合いだったんだ、ですませてあるが、そんな小説とか漫画とかアニメとかでよく使われている手でだませたとも思えない。まぁそれは今のところ誰も聞いてこないからいいんだけども。それよりも・・・だ。

「・・・味方?」

俺はそれが気になった。『力』つまり『魔術師』か『契約者』の場合、そのほとんどが≪結社≫に入っていて、今はしかもエルを狙う≪企業≫に雇われている。だから、その≪結社≫にいる【魔法】を使う奴は、敵なのだ。ということはつまり———

「それはつまり・・・≪結社≫の連中じゃないってことか?」

「あたり〜。今≪結社≫に所属していない『力』の持ち主はほとんどいないんだけど、さっき感じた『力』はその少数の中でも私と一度面識がある者ね」

ふーむ・・・昔馴染みというやつか?
ま・・・心配いらないってことはたしかだな。あとはエルの判断次第ってことで俺は屋上で寝てくるか・・・。

「んじゃね俺はちょっくら昼寝してくるわ、なんかあったら・・・なにもできないだろうけど、呼びにきてくれ」

「え〜、私も一緒に行く〜」

「いや・・・寝るだけだぞ?」

「ん〜、だって帰ったら明日まで裕介と会えないじゃん」

・・・ああ、そうだったな。今日久しぶりに会ったとは思えないエルの態度のせいで、再会したのが今日だということを俺は忘れかけていた。エルはここに来る前、俺がこの学校に通っているのを知った後に、住人募集をしていたマンションの一室を借りている。本当のことをいえば、エルは俺が見つかったら一緒に住もうと考えていたらしい。だが、俺には家族がいることを伝えると、寂しい顔をしながら、しょうがないなぁ・・・と言ってあきらめてくれた。・・・本当のところ、俺だってエルと一緒に住みたいとは思う。これからどんなことがおこるかわからないし、いつどこでエルが襲われても守れるように、一緒に住みたいとは思う。だがしかし、まだ日常のどこかに残っている俺の心が、それを拒絶している。エルが転校してきたときに俺の頭の中に響いていた警告・・・、それはおそらく、俺の中にある日常を、人生の道を捨てたくないと思う心が具現化したものなのだろう。俺はそれを無視して、エルと共に化物の道に進んだ。だから、その俺の日常に残りたいという心の、最後の抵抗なのだろう。エルと一緒に住んではいけないという・・・、最後の抵抗なのだろう。
でもまぁ、実際にエルと一緒に暮らすことになったら俺の心と体がもたない。なんといったってエルは美しいし、俺にはもったいなさすぎる女の子だ。その上、女子の家、昌子の家をのぞいて入った事のない俺にとっては、そう堪えられるものではない。・・・なによりもでかいのが、ヘタレだからな。

「うーん・・・、そうだなぁ、今日は友達の家に泊まるって適当にごまかしておけば一日中一緒にいられるんだけど———」

「本当!?」

誰もいなくなってしまった教室の中に、エルの声がコダマする。廊下に残っていた生徒がなんだなんだ?とかいう声をあげるが、結局教室をのぞいてくるやつは誰もいない。だが俺は少し焦っていた。今の内容はほかのやつら、とくに転校早々エルの美しさに魅入られてファンクラブとか作っちまいやがった男どもには聞かれたくない内容だからだ。

「今日は一緒にいられるの!?」

再びエルが大きな声で叫ぼうとしたところで、俺が静かに、と小声でいう。するとエルはさっき俺がやった、小声で叫ぶという難易度が高い技を普通にやってのけた。

「たぶん・・・な。いくら俺がヘタレでも、九年ぶりに再会して、好きだといった女の子を初日から一人ぼっちにさせるわけにはいかないからな」

うわ・・・俺の今のセリフ、恥ずかしいぞ。今の今まででこんなセリフを吐いた事ないのに、なにキザなこといっちまってんだよ。いや・・・違うか。ヘタレとか言っている時点でキザっていう部分は消滅しているか、うん。
電話するのは別に後でもかまわない。もとより俺が帰ってこようが帰ってきまいがあまり気にしない親だ。妹は俺が帰ってこないと心配してくれるが、それもまぁいいだろう。空はまだ青く、窓の外からは、校庭で部活の前の自主練をしている生徒の声がする。今までと同じ、何一つ変わらない光景だ。
俺はそれを頭の隅に追いやって、歩き出す。エルは椅子から立ち上がり、後ろからついてくる。ほかの生徒から、廊下に残っている生徒からあらぬ誤解をうけたくないため、俺は早歩きで歩くが、エルはまるで俺のスピードに合わせているかのようにしてついてくる。それがなぜだかおもしろくなってきて、俺は走り出した。

「あっ、裕介ぇ、まってよぉ〜!!」

そして・・・エルの言葉を聞きながら、けして戻るはずのない記憶を呼び戻してくれた少女の声を聞きながら、俺は笑うのだった。