コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【紅の魔法】 ( No.5 )
- 日時: 2011/03/28 04:08
- 名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)
あってはならない。これからくる、この教室にはいってくる転校生には会ってはならない。もしもあってしまったら、完全に認めてしまいそうだからだ。今だ逃げろ逃げろと警告を鳴らし続けている頭の声にしがって俺はこの場から今すぐに逃げようとする。しかし、なにかに固定されたかのように俺の体は動かない。俺は動け、動けよ!!と心の中で悪態をつきながら体を机から引き剥がそうとするがやはり動いてくれない。
終わってしまう———このままだと、終わってしまう。今まで生きてきた日常が終わってしまう。平凡もいいかもなと思っていたのに・・・、平凡でなにが悪いと開き直っていたのに———俺は人生の脇役で、平凡に人生の道を進んでいくつもりだったのに———だったのに———
教室に女子用の上履きが入ってくるのが見える。男子はそれを見た瞬間おぉー!!と叫び、明らかに女子からは残念そうなオーラが発せられる。足が入ってきたということは、次は体が入ってくるのが常識。その通りに、セーラー服をまとった、あまり発育のいいとはいえない体が見える。そこまではまだよかった———だが、次の瞬間に見えた横顔と髪の色で、この教室は静まり返った。
その顔は、ひどく美しかった。横からでもわかる。悪戯っぽい深紅に彩られた瞳、引き締まった桜色の美しい唇。ぴんとたっている綺麗なラインを描いた鼻筋。どっかのモデルなんかよりもうつくしい腰の細さ。胸は若干小さい方だが。それは彼女の小柄な体がカバーしてくれている。足のラインはそんじょそこらの女子なんかよりも綺麗で、ハリウッドスターでもここまで綺麗なやつはいないんじゃないか?といいたくなるほどだ。そのまま美しい足取りで教卓の隣まで歩いていった彼女は長い深紅の髪の毛をなびかせながら黒板のほうをむき、チョークを滑らかで美しい手でとり、黒板に名前を書いていく。
その白磁のような肌をもった、とても人間とは思えない少女のことをみて、俺の頭には戦慄が走った。俺はこの少女を知っている。この少女と会っている。この少女は———俺の夢の中にでてくる少女の年齢を十歳ぐらいとらせた感じの———
「えー、彼女の名前は竜貴エルだ。先生もさきほどしったのだが。どこかの王国の姫と日本人の男性の間に生まれたハーフだそうだ。生まれてからずっと日本にいて日本語は大丈夫だが、今はわけあって両親と離れ離れで寂しい思いをしていると先生は思う。仲良くしてやってくれ」
そこまで聞き終わると、もう俺は我慢ができなくなった。俺は無理矢理体を持ち上げて、立ち上がる。そのさいにガタンという音を椅子がたてたせいで、クラスメイトが転校生、竜貴エル・・・俺の夢の中にでてくる、現実離れした少女・・・エルシャロン・ユアハーツにむけていた目をこちらにむけてくる。だが俺はそれを無視して、教卓横にいるエルの美しい手をとり、思い切り引っ張って教室の中からでていく。後ろから雉田が俺を呼び止めようとするがそんなものにはかまっていられない。俺は呆然としているエルを引っ張りながら、この時間帯だと授業をさぼってやろうと考えている奴か、自殺をしようとしているやつ以外いないであろう屋上にむかって走る。階段を駆け上がり、屋上のさび付いたドアを無理矢理こじ開けて、そこにでる。
そこまできてやっと俺はエルの手を離す。エルは俺の不思議そうな目で見ているが、その目からはありありと不信感がうかがえる。俺は荒い息を無理矢理おさめてから。聞くな。やめろ。という頭の中に響く声を無視して、目の前にいる美しい少女に聞く。
「お前は・・・エル・・・いや違う。エルシャロン・ユアハーツ・・・なのか?」
直球の質問だった。もしも違うとしたら、俺はかなり痛いやつで、転校生にへんなこときいたんだってよーとか噂されて変人扱いされて挙句の果てにはいじめられてしまう可能性がある。だけど、俺はそんなことは絶対におこらないと確信できていた。
俺の直球の質問に、エルは目を見開き、口をあける。しかしすぐに顔を引き締めて、完全にこちらを警戒したふうに睨んでくる。
「あなたは・・・何者?どうして人間風情が私の名前を知っている?」
それは完全に俺を、いや、俺たち人間を馬鹿にしたような言葉だった。だがしかし、俺はそんな言葉を無視して一歩ふみだす。
「近寄るな人間。どうせお前は≪企業≫の刺客か≪機関≫刺客なんだろう?逃げた私の行方を追ってきたんだろう?なら・・・容赦はしない」
・・・なんかやばい雰囲気になってきたな。そう俺は感じたが、それはどうでもいい。俺は一歩ずつ後ろに下がっていくエルを追いかけるようにして一歩一歩足を踏み出していく。
「うぅ・・・ここに裕介がいるって情報を元にして人間の記憶を操ってわざわざ入ってきたのにもう見つかるなんて・・・」
その言葉を聴いた瞬間、俺の心の中・・・いや違う。心の中に眠っていたなにかがはじけだすのが分かる。それはまるで俺の体全体を焼くように熱く。そう思えば逆に俺の体全体を凍らせるほどに冷たくなっていく。あまりの苦しさに胸をおさえてその場にうずくまった俺は、力をふりしぼり、むりやり口を開く。目の前にいる少女に・・・再開の言葉を、かける。
「———エルシャロン・ユアハーツ、エル。俺は昔・・・お前に好きだと言いそびれちまったんだっけな」
「っ!?」
「ああ・・・記憶が戻った———俺はお前を好きだといえなかった・・・。好きだという前に———」
俺は死んだ。