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Re: Erret Crimson〜紅蓮の契約者〜 ( No.77 )
日時: 2011/03/28 14:41
名前: だいこん大魔法 (ID: IZus4UZf)

・・・あー、言い忘れてたけど、さっきから俺のベッドにもぐりこんでさらに俺のかぶっている布団の中にもぐりこんで横むきに寝転がっている俺の目の前に来て甘えた声でぎゅってしよ、とか言っていたのはエルだ。俺は恥ずかしさからそれをあえて無視していたのだが、それがどうやらあだになってしまったようだあああぁぁ、いてえぇぇ!!

「なんで無視するの!?」

俺から少しはなれたエルが、俺の手を思い切り握りつぶしながらそんなことを言ってくる。上目遣いに睨みつけられている俺は、手の痛みにひぃひぃいいながらエルのことをなぐさめた。

「い、いや、む、無視はしてないぞっ?その、な、なんだ、女の子に、そ、そんなこと言われたら・・・」

「言われたら?」

「恥ずかしくてなんと反応すればいいかわからなくてですね・・・」

「それで?」

「よし、エル、まぁまずは落ち着け。俺はお前がかわいいから恥ずかしくてしょうがなかったんだ、お前もわかるだろ?超絶イケメンさまがお前にいきなりぎゅっとしよ♪とか言ってきたら恥ずかしくてしょうがなくなるだろ?」

「私は裕介にしかそんなこと言われたくないもーん」

「オーケー、ぎゅってしようぜエル」

手の痛みがすさまじすぎてだいぶ気がおかしくなってきた俺。今自分でなにを口走ったのか覚えていません。そんな俺を差し置いて、エルは突然顔を爆発しそうなほどに染めて、俺の手を握る強さを更に強めて、今度はもじもじと俺のことを上目遣いで見てくる。
そんな時俺は泡を吹きそうになっていたわけですけどね・・・。

「きゅ、九年ぶりにさ、再会したんだし、そ、そのくらいのスキンシップは、しょ、しょうがないよね?」

「そうだなしょうがないなだからはやく手をはなしてくださいおねがいしますいたいですいたいいたいいたいいたいですぅぅぅ」

エルがモジモジしながら可愛らしくそんなことを言っているのを差し置いて俺は区切り無しで一気にそういう。そのとき初めてエルはしまった、といったふうな顔になり、ぱっと俺の手をはなす。俺はすぐにエルのやわらかい手からはなれた自分の手を見る。・・・とくに骨とかは折れていないようだが、紫色になっちゃってるよ。どんだけ威力つよいねんちくしょう・・・。

「え、えっと、ごめんなさい」

シュンとしてしまったエルをみた俺は、ま、べつにこのくらいならいいか、とか思ってしまった。ヘタレだし。抗議とかしたらなんて返ってくるかわかんなくて怖いし。

「ん、じゃぁ俺は寝るぞ」

そういって俺はエルの反対方向をむこうとする・・・だがしかし、エルは俺にだきついて、それを止めた。
正面から向き合う形で抱き合う形となってしまった・・・正直、手の痛みがなければ俺は死ぬほど恥ずかしくなっていたと思う。だけど、フルフルと肩を震わしているエルのことを見ていると、なにかこの行動に裏があるんじゃないか、と気がついた。
そしてそれは的中した———

「・・・九年ぶりに、やっと裕介に会えて———なのに、私は命を狙われている。明日死ぬかもしれないの———だから、今日が最後かもしれないから・・・、裕介の体に抱きつくのも、もう一生できなくなっちゃうかもしれないから・・・、だからお願いします、今日だけは、・・・うぅ、ううぅ・・・」

途中から嗚咽にそれは変わった・・・。
そう・・・、エルは自分よりも強い相手に命を狙われている。確実に自分のことを殺すことができる相手に、命を狙われている。それでもって・・・エルはたしか———

「・・・エル、一つだけ聞きたいことがある」

エルが嗚咽を漏らしながら、俺の胸にしがみついているのを気にせず、俺は言う、ひとつだけ、そう、俺はひとつだけエルに聞きたいことがあったのだ。ローラから聞いた———そう、あのことを

「お前の魔力は・・・枯渇してきているのか?」

俺が極力優しくそういうと、エルは悪いことをして親にそれがバレて怒られているときの気弱さでその言葉に———頷く。

「そっか・・・、なら、なんも問題ねぇな」

そして俺はそれを笑い飛ばす。なにもない、空白の笑顔で、エルを安心させるべく笑う。ただただ、笑うだけ。俺も笑っているから、お前も泣いてないで・・・その美しい顔で笑ってくれといったふうに・・・笑うだけ。

「はっ、【魔力の枯渇した魔術師】はただの人間と同じだろ?だったら、狙われる意味なんてないし、なんの心配もないって!!」

それがなにも意味をしていないことはわかっている。こんな虚実が、エルに通用するとも思えない。だけど俺は、精一杯のヘタレ根性で・・・エルを笑わせたかったのだ。
そしてエルは・・・、目じりに涙をためながらも、か弱い微笑みをうかべるのだった。

(・・・絶対に、俺が強くなって、守ってやるさ)

そしてその言葉は、九年前にいえなかったその言葉は・・・心の中だけにしまっておくことにした———