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Re: *叶恋華* +実話+ ( No.141 )
日時: 2011/02/08 19:13
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: 8cbAvaGA)
参照: 雑巾絞るように 勇気もアレしちゃおうby愛迷エレジー

第三十三話『空回り×妄想』


*給食時間*


罪悪感が消えたものの、やっぱり考えるのはメールの事ばかりで。
授業の内容も頭に入らず、ずっと壱の事を思い浮かべていた。
給食も喉を通らず、私は上の空でいた。


「余ってるかー?」


その時、壱の声が聞こえてきた。
見れば、壱は給食をおかわりしに席を立っていた。
壱は毎日のように給食をおかわりしている、おかわり常習犯である。
それなのに体は細いしスタイルがいいから、体のどこにあんなに食べるパワーがあるのかが不思議でならなかった。


私、食べないのに太ってるからね。
あんなに食べるのに痩せてるってどういう事ですか、珠紀壱君。


そう思ってると、


「!?」


すごい光景を目にしてしまった。
壱が私の目の前に座っている安多君の坊主頭を——。


な で な で し て い る 


「食べてるんですか?」


壱が安多君のしなやかな丸い坊主頭を撫でながら、そう呟いた。
安多君は軽く笑みを浮かべ、壱を見た。


「今給食時間ですからね」
「ははっ、そっか」


安多君がそう言って野菜を頬張ると、壱は無邪気な笑みを浮かべて去って行った。
あ、あの笑顔反則すぎる……っ!!
てか安多くんいーなー!


あんな無邪気な笑みになでなでときたら、もう私死んじゃいますよ!
あの低くて甘い声で囁かれたら、もうやばい!!


あぁ、安多君になりたい。
そう思った私は、救いようのない馬鹿と認定されてもいいだろう。


**


「おーえすおーえす」


昼休み。
私と由良は、落ちていたゴムで綱引きをしていた。
しかし所詮はゴム。
引っ張り過ぎてゴムは切れてしまい、由良の手に思い切り当たった。


「ぎゃっ!! いった!! 依麻、手放すなーっ」
「私じゃない、ゴムが切れただす」
「あ、本当だ。短くなったね」


ゴムは一気に短くなり、相手の指と振れるぐらいになってしまった。
それを見た由良は——。


「壱と依麻、やりな!」
「え、ちょ」
「壱、壱ーっ!! こっち来てー!!」


由良は大声で近くの壱を呼ぶが、壱はこっちを向かないで完全シカト。
私は思い切り抵抗した後、すぐに話題を変えた。


「あのさ、」
「ちょい依麻、優のとこ行こー。優、壱のとこにいるし。壱にシカトされたから、こっちから行ってやる」
「ちょ、え、由良」


由良さん、ちょいと待って下さいな。
そんな私の心の声なんぞ届くはずもなく。
由良は私を引っ張り、壱達が集まる窓側へ向かった。


「ゆーう! なーにしてんのっ」
「お、由良。……と、隠れてるのは依麻?」


優は笑みを浮かべてそう言った。
優の方を見ると、壱にちょっかいをかけている最中だった。
しかし壱は気づいてないのか、無視をしていた。


「——つか壱、早くベース買えよ〜」
「やだ」


近くにいた叶汰がそう言うが、壱は無表情のまま断った。
ベース……壱がベース!?
やば、かっこよすぎ!!


「じゃあボーカルでもいいよ」
「え」


壱がボーカル!?
やばい、壱の歌声聞いてみたい……!!
私はそう一人で勝手に考えながら、こちらに背を向けている壱の方を見ていた。


「てか壱さぁ、頭にワックスつけてんの?」


叶汰が話題を変え、そう聞いた。
しかし壱は首を横に振り、髪の毛を触る。


「いや……。スプレー」
「スプレー? まじで?」


叶汰がそう言いながら笑みを浮かべた。
え、スプレーのかけかた上手くね!?
やば、かっこよすぎ!


「ワックスかとおもったー」
「こんな風につけるワックスなんてつけませんよ」


横にいた糸田がそういうと、壱は手を左右に動かしながら言った。
その動作に思わず笑いそうになりながらも、私は黙って男子の話を聞いていた。
すると壱の頭に興味がわいたのか、叶汰が身を乗り出して目を輝かせた。


「ね、壱の髪の毛触ってみていい?」
「どーぞー」
「俺も触ってみる!」
「俺もー」


叶汰の言葉に、周りにいた男子は皆群がった。
そして皆して壱の頭を触る。


「意外にふわふわだね」
「だろ?」


糸田がそう呟くと、壱が少し得意気な顔して笑みを浮かべた。
うはぁ、ふわふわなのかぁ……。
いいなぁ、うちも壱と男子並みに仲良かったらなぁ……。
ていうか彼女だったらなぁ、あんな風にふわふわ出来るのに……。


そんな勝手な妄想とは裏腹に。
優は、壱の筆箱を点検していた。


「……依麻、ほらっ! 壱の筆箱、シンプルだよ」


優が私に向かってそういい、筆箱を向けてきた。
私は突然話を振られたのでびっくりしながらも、壱の筆箱を見つめた。
壱の筆箱は本当にシンプルで、青いデニム生地の小さいペンケースに必要最低限のものしか入っていなかった。
そして、キーホルダーにはウ○ビッチが……。


「う、うん……。わー、ウ○ビッチ可愛いー」


せっかく壱の近くにいるんだから、少しでも会話できるように。
私は自然な感じで、壱の筆箱についてるキーホルダーを触る。
が、しかし——。


完 全 無 視


「……依麻、どんまい」


気持ちを察した由良が、小声で私に言った。
私は虚しい気持ちと共になんだか恥ずかしくなり、由良にぎこちない笑みを浮かべる。
そして優に壱の筆箱を戻すと、優が壱のペンで、壱の机に落書きし始めた。
するとさすがに壱も気づいたようで、


「え、ちょい、なんで色々書いてんの?」


そう言って軽く笑った。
私は優みたいに接近出来ないし、話す事も出来ない。
オマケに、やることなすこと全て空回る。


だけど——。
少しでも近くに入れたことが幸せで。
少しでも、君と近づけたら嬉しかった。