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Re: *叶恋華* +実話+ 47話あっぷ! ( No.200 )
日時: 2011/02/13 05:20
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: C/uisxMB)
参照: 沈む夕日に秋の綿雲が溶け合うように恋は哀しい (by.BadSweets

第五十話『天然王子』


**


二時間目、国語の授業——。
この最悪な状況の時に限って、福野の授業が入っているとは……。
とことんツイてない……、とほほ。


「——今日の授業は、実演してもらいたいと思います」


実演……。
楽な授業の内容なのに、上がらないテンション。
私は小さく溜息をつき、溶けそうな勢いで伸びていた。


「——じゃあ、ちょっきの班ね! 実演してみて」
「えぇ!?」


隣の班——……直樹の班が当てられた。
直樹の班って事は……つまり、壱が居る訳で。


「遅刻して怒られる役を一人決めて。誰がいい?」
「えぇぇ……。——ここは、いっちゃんでしょ」
「は? な、なんで俺?」


直樹が役を壱に押し付ける。
すると直樹の横に居た犬ちゃんも笑みを浮かべた。


「壱、やってよ! 俺も壱推薦するわー」
「犬ちゃんまで……。——わかったよ、やるよ」


犬ちゃんと直樹に勧められ、壱は『遅刻して怒られる役』を引き受けた。
すると福野は一人、目を輝かせて喜んでいた。


「じゃあ壱! あんたは『毎日遅刻して怒られてる上に、態度が最悪な奴』の設定ね!! あたしも本気で怒るから、ちゃんと演技しろよ!」
「わかりましたよ」


福野は壱を椅子に座らせ、そう言った。
壱は軽く頭をかき、だるそうに返事をする。


「直樹たちもエキストラね! そこに居て! 犬ちゃんは壱の親友役!」
「俺、壱の親友設定?」
「ここは放課後の教室ね! よし、始めるよ! 皆ちゃんと見てろよー!!」


福野は声を張り上げてそう言い、辺りが一瞬静まり返った。


「……てめぇ、わかってるのか?」


おぉっと、いきなり始まったみたいですね。
福野は壱に一歩一歩近付きながら、低い声で怒る演技をしている。
……結構、本格的な感じだ。


「お前、今月に入って何回遅刻してると思ってんのよ?」
「……」
「毎日だぞ? 毎日! やる気あんのか?」


福野はそう言って、壱を睨んだ。
壱はよそ見をし、態度の悪い役を演じている。


「お前のせいで、同じ班の奴らがどれだけ困ってるのかわかってんのか?」
「……はぁ……」


壱は溜息をつき、足組んでだるそうに頬杖ついた。
え、演技だとしてもかっこいい……。


「毎回、親に起こされなきゃ起きねぇのか? お前は」
「……」
「中二にもなって、カッコ悪いと思わねぇのか?」
「……はいはい」


壱はだるそうに返事をし、机の上に足を乗っけた。
壱の態度の悪い迫真の演技に、皆真剣な顔で吸い込まれている。
すると、


「聞いてんのかてめぇ!!」


福野も迫真の演技で、壱の机を思い切り蹴っ飛ばした。
派手な音が教室に響き、張りつめた空気に皆は息をのむ。


「……」


福野の演技に対し、壱も負けじと睨みをきかせて態度を悪くしている。
い、壱も福野も演技うまい……。
私も気づかぬうちに、二人の演技を真剣に見入っていた。


「——てめぇ、少し頭冷やして考えてろ。……じゃあ、ここであたし退場すっから。壱は独り言よろしく」
「え? 独り言?」
「明日は絶対遅刻しないぞーみたいな」


福野はそう言い、壱を一人残した。
壱は一瞬戸惑うが、


「……はぁ〜……」


溜息をついて、また演技モードに入った。
皆は再び壱の演技を見入り始める。


「明日はぁ、絶対遅刻〜しなぁいっ!」


壱はそう言って、椅子の背もたれに寄りかかる。
壱の言い方がなんだか面白くて、皆は笑い始めた。
しかし壱は、演技を続ける。


「はあぁぁーあ、明日は絶対! 遅刻しなーぁい」
「——はい、じゃあここで親友の犬ちゃん登場!」
「え? あ、」


福野の指示に戸惑いながらも、親友役の犬ちゃんは壱に近付いた。
何故か犬ちゃんの手には、水のりが装備されている。


「……大丈夫?」


犬ちゃんが水のりを持ったまま、壱にそう言った。
壱は犬ちゃんの顔を見上げ、二人は数秒間見つめ合う。


「——はい、じゃあここでアドリブ会話!」
「えぇ!?」


またまた福野の突然の指示で、犬ちゃんは戸惑い始める。
壱と犬ちゃんの間に沈黙が流れた。


「……おはよ」
「……っあ、壱おはよ」


沈黙を破った壱は、爽やかに挨拶をした。
犬ちゃんも笑みを浮かべ、挨拶し返す。


「ごめん、壱。設定放課後だから」
「え」


福野が笑い出し、皆も笑い始めた。
壱も小さく笑い、新しいアドリブを口に出した。


「怒られちゃった」


そう無邪気に笑う壱。
そ、その笑顔やばい……!
私は身を乗り出すような形で、壱の演技を見ていた。


「……う、ウん。——あ、コレ水のりデス」
「え、あ……。ありがと」
「元気ダシテネ」


親友を慰める為のプレゼント……、水のり。
その犬ちゃんの発想と、棒読みに近いカタコトが面白さを引き立たさせた。


「——はい、カット! 犬ちゃん演技下手!!」
「だ、だって俺〜……」
「犬ちゃんクビ! はい、ちょっき達!! 壱の班員、皆で壱のところ行って!」


福野がそうテキパキと指示を出す。
あーあ、犬ちゃん耳垂れちゃってるし……。
可愛い。


「じゃあちょっき、壱に何か言葉をかけて」
「え、あ……。えーと、」


福野の指示、突然過ぎますよ。
ちょっきは少し戸惑いながら、壱の前に立った。


「……いっちゃん、明日は頑張って」


ちょっきはそう言って、ぎこちない笑みを浮かべた。
すると壱は立ち上がり、


「明日は絶対、遅刻しないぜ☆キラッ」


わざわざ星マークをつけて、そう笑った。
それと同時に教室は大爆笑が巻き起こる。
福野が拍手をし、皆も拍手をする。
こうして、壱の決め台詞で実演は幕を閉じた。


「お疲れ様〜。いやぁ、壱の演技うまいわ! あたしも演じやすかった!!」
「うんうん、めっちゃうまかった!」
「凄いわ〜」


福野はそう言って笑みを浮かべた。
周りの皆も次々に壱を褒める。
……でも、本当に壱の演技はうまかったなぁ……。
思わず見入っちゃったもん。


「壱かっこいいわー」
「まじ惚れるわ、壱」


男子たちが壱に向かって次々とそう言った。
私も惚れたよ、うん。
壱の演技、本当かっこよかった。


「光葉のプリンスだべ〜。まじ全部がイケメン」


吉澤がそう言い、クラスは笑いに包まれた。
光葉のプリンス……。
王子様、かぁ——……。


「……」


壱が王子様になった事を想像して、小さくニヤけた私は、変質者だと思う今日この頃。