コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ 50話達成! ( No.217 )
- 日時: 2011/02/14 21:43
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: Q3zV8Sch)
- 参照: 触れあって全てが伝えられれば楽なのに (by.Bad Sweets
第五十一話『恋時雨』
放課後——。
私は優に呼ばれ、教室の前の廊下に来ていた。
人通りの多い廊下だったけれど、私たちは壁に寄りかかって遠くを眺めていた。
それぞれ、違う思考を描きながら——……。
「……優、どうしたの?」
騒がしい廊下の中で、私たちのところだけ沈黙が走っている。
私は恐る恐る、横に居る優に尋ねてみた。
「……依麻さ、私に頼んだじゃん? 『なんか壱の事で情報あったらよろしく』って」
「……あ、うん」
壱と優、今隣同士だしね……。
こんな状況だし、私は身近な優に頼んでいたのだ。
「で、私聞いたんだよね。依麻と付き合うかやめるかって」
「……うん」
私の心臓は、うるさいくらいに跳ねた。
廊下で騒いでいる声なんて、かき消すほど。
脈を打つように、心臓が早く動いている。
「そしたらね、」
「うん……」
私はゆっくりと頷いた。
優はそれに合わせてゆっくりと口を開き、小さく呟いた。
『やめとく』って……」
その答えは、予想以上に酷く刺さる言葉だった。
心臓の音が、違う意味で大きくなっていく。
「……そっか、ありがとう」
私は頭が真っ白になりながらも、なんとか声を出した。
自分でもびっくりするくらいかすれた声だったけれど、そんなの気にならなかった。
やめとくって……。
由良の話が本当だったなら。
少しでも、『どうしよう』って迷ってくれてたんじゃないの?
私の事、少しでも考えてくれたんじゃないの?
また全部、私の勘違い——……?
でも、由良も愛奈も言ってたじゃない。
あれも全部——……嘘だったの?
それとも、私が昨日告白しようとしたから?
壱に迷惑かけたから?
——いつもそうだ。
少しでも期待したら、すぐこうなる。
なんで?
私は期待しちゃいけないの……?
「……じゃあ優、また明日ね」
私は涙を堪え、そう声を振り絞って外へ向かった。
「……あ、め」
私は一歩踏み出してから立ち止まり、空を見上げた。
気づかなかったけど外は大雨だったみたいで、大きな雨粒が空から振ってきている。
……なんか、私が失恋するときってさ。大抵、大雨だよね。
ははっ、タイミングいいな……。
これで九回目……かぁ。
まだ告白してないけどさ——。
でも告白する前に、返事が目に見えてる。
どんだけフラれてんだよ、自分。
「……ふっ」
あっは、笑える。
自然と口元が緩んだ。
目は全く笑えないけれど。
何故か、悲しみ通り越して笑えてきた。
このままいけば、失恋回数十回いくんじゃね?
つか頑張れば二十回いくんじやね?
あはははははは。
……虚しい。
「……」
大雨に紛れて、目頭が暖かくなるのを覚えた。
次第に視界は揺れていく。
雨じゃない。雨はこんなに、暖かくない。
——あぁ……、なんで涙が出て来るの?
壱と話したこともないし、特に思い出もないじゃない。
なのに、なんで——……?
スタイルが良くて、顔もかっこよくて。
普段はクールっぽいくせに、本当は天然で。
突然無邪気な笑顔を見せてみたり。
低くて甘い声が聞こえる度、私はドキドキして——。
「…………っ」
涙が出るほど。
胸が締め付けられるほど——。
いつの間にか、こんなに壱のことが好きになってたんだ。
好きに、なれてたんだ。
もう怜緒の声なんて、思い出せない。
頭の中は、壱の声ばかり。
新しい恋を、私はちゃんと大切に出来てた?
ねぇ、出来てたのかな。
雨は容赦なく、私の体を叩きつけた。