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Re: *叶恋華* +実話+ 56話更新! ( No.273 )
日時: 2011/02/20 04:40
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: VYCQ1KaR)
参照: いつも自分の事を守るだけで(by.嘘とタイムマシン

第五十八話『残酷なReal』


心が、痛かった。




『壱さぁ、依麻のこと嫌がってるの』


「……っ」


心の準備が出来てないまま、告げられたその言葉。
私はその残酷な言葉に、俯いて黙るしかなかった。


「……依麻、わかってる?」


どうして、


「迷惑なんだよ」


なんで、


「好き好き言ってないで、壱の気持ちも考えれば!?」


そんなの、自分がよくわかってる。
失敗しないようにって。
しつこいって思われないようにって。
怜緒の時みたく、ならないようにって——。
自分なりに考えたんじゃないか。
でも周りからしたら、そんなのただ単に勇気が出ないから言い訳してるって思うの?
……『思う』じゃなくて、『そう』なのかもしれない。
だって私は、弱虫だから。


だけど、壱が好きだから。
本当に壱の事が大好きだから、簡単に話し掛けられないんじゃないか。


「……本っ当、人の気持ち考えろや」


そう言って、優は溜息をつく。
私は黙ったまま、俯いていた。


もう、繰り返さないようにって。
人を傷付けないようにって。
今度こそ、成功させようって——。
友情でも、恋愛でも。
そう思ってた、だけなのにな。


どうして、上手くいかないのかな。
どうして、上手く伝わらないのかなぁ……?


「——……じゃあ、誰か依麻に言いたい事ある人いる?」
「え? ……うーん」
「由良は?」
「うーん……。——あ、あれ言ったの?」
「何?」


三人は私を視界から外し、小さな声でそう言った。
私は黙って俯いたままでいる。
すると、


「あれだよ、あれ。……優、耳貸して」


由良がそう言って、優の耳元で何かを呟いた。
……由良的には、小声で言ったのかもしれない。
だけど私には、全部丸聞こえだった。


『依麻の絶対傷つくやつ』


由良は確かに、そう言った。
何? 由良は、私がそんなに傷ついてほしいの?
そんなに私にダメージを与えたい?
正直、呆れた。


由良がこんな奴だなんて、思ってもいなかった。


「……あぁ、あれならメールで——……」
「そうなの? ……」


二人は何かこそこそと話していたが、私にとってもうどうでもよかった。
もう、どうでもいい。
傷つけたきゃ、傷つければいい。


「——依麻も何か言いたいことあるなら言ってよ。言い訳、聞くよ」


まながそう言って、笑みを浮かべた。
……言い訳?
私はその言葉に、敏感に反応した。


言い訳じゃない
私にとっては立派な意見だ。
だけど——……。


その時、不意にお父さんとお母さんの喧嘩のやりとりを思い出した。


『お前のそれは言い訳にしか聞こえねぇんだよ!!』
『言い訳なんかじゃない! どうしてわかってくれないの!?』


お父さんが怒鳴って、お母さんが泣き叫んで。
そんな毎日を繰り返していた私は、毎晩が苦痛だった。
お父さんとお母さんの喧嘩している声が聞こえる度、私は何も出来ずに耳を塞ぐことしか出来なかった。


私がお父さんを止めれば、もっと喧嘩は酷くなる。
私が意見を言えば、暴言を吐かれる。
お母さんが意見を言っても、わかってもらえない——。


今の私は、あの時のお母さんと同じだ。
どうしてどうしてどうして。
皆、わかってくれないの。


「——ほら、帰れ〜。お前ら、何してんだ?」


そう思っていると、先生の声が上から降ってきた。
顔を上げてみると、英語の先生が居る。
優たちは少し苦い顔をした後、気づかれないように先生に笑みを浮かべた。


「大事な話してたんですーっ」
「そうだよ、ガールズトーク!」
「ガールズトークはいいけど、ここでするなよ。早く帰れ」
「「「はーい」」」


三人はさっきの態度とは打って変わり、明るく返事をした。
そして優が私に近づき、


「外で話すべ」


そう低い声で呟いた。
おいおい、さっきの明るい声はどこ行った。
私はそう思いながら適当に頷く。
すると、いつの間にか階段のところで待っていた愛奈がこっちに来た。


「依麻……」


愛奈は心配そうな顔で、私を見た。
愛奈は本当に、優しいね。
真っ先に私の方に来てくれるなんて。


「……帰ろう?」
「……うん」


愛奈がそう言って肩に手を置いてくれた。
私は涙が出そうになりながら、小さく頷く。


「友達は、選んだ方が……いいよ?」


愛奈は三人に聞こえないように、そう呟いた。
友、達——。
私は『友達』という存在に頼りすぎたかもしれない。


「……大丈夫? 依麻。何言われたの?」
「……私が、迷惑だって」
「……」
「壱、私を嫌がってて……っ、迷惑、してるって——……っ!!」


壱の名前を出した瞬間、涙が出てきた。
……あれ、おかしいな。
こんな似たような事、怜緒の時にもあったじゃん。


呼び出されてなんか言われて、
部活でも居場所がなくなって、
友達なんかいなくなって、
皆にシカトされて。
陰口を言われた。


「……優たちが、怖かった?」
「……違う……っ」


優たちなんか、怖くない。
ただ、友達だと思ってた人達にわかってもらえないのが悲しくて、壱に嫌われてるっていう現実が辛かった。


でも壱は、私の気持ちを知った時に少しは考えてくれたんじゃないの?
私、壱に何か嫌われるような事……した?
ただ単純に、私から好かれるのが嫌だった?


……そうだよね。
私が、悪いんだ。
私が壱を好きになったから。
迷惑かけて、傷つけて。
あげくの果てに、友達にも迷惑かけた。


「……っ、」


これが私に突き付けられた現実ならば。
私は、どうすればいい?
どうやって、どんな顔で。
どんな気持ちで、過ごせばいいの?