コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ 71話更新! ( No.332 )
- 日時: 2011/03/15 20:16
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: lITb0hIn)
- 参照: 好きを消せたら 楽になれるかな(by.Calc.
第七十三話『二つの選択』
「——じゃあ、ここに座って」
掃除が終わり、雪景色の白い光が少し差し込む教室。
福野が席を三つ並べ、私と由良と愛奈に椅子を差し出した。
「……先生、なんか居るんだけど」
席についた由良が、小声でそう言った。
そう、教室の端に——。
原田くんと綿津……そして、壱が居たのだ。
多分原田くんの保健委員の手伝いをしてるのだろうと思うのだけど。
赤茶っぽいかっこいいジャンパーを着ている壱。
そのスタイルのいい、それでもやっぱり男の子っぽい背中を、私は黙って見つめていた。
「!」
——目が、合った。
壱が振り返り、ちょうど視点が合った。
壱は数秒こっちを見て固まった後、また原田くんの方を向いて作業をし始めた。
「——そこの三人、ちょっと悪いけど一回教室出てくれない?」
草食系男子三人のゆっくり作業に、福野はしびれを切らしたのかそう言った。
すると三人はそれぞれバッグを持ち、原田くんは作業していたものを適当に段ボールに詰め込んだ。
そして、いつもの原田くんらしいのんびりした口調で「もう帰ります〜」と言って歩き出した。
その三人が、教室を出るとき。
壱が何回もこっちを見ていたのを、私は見てしまった。
心配そうな感じに見えたのは錯覚……というか妄想だろうけど。
それに気づいたのは、どうやら私だけのようで。
「……依麻?」
「っ! あ、ごめん」
「じゃあ、早速聞くけど。……由良と愛奈、」
私が姿勢を整えると同時に、福野がいつもより冷静な声で二人の名前を呼んだ。
あぁ、いよいよ始まるんだ——。
私がそんな事を思っている間に、名前を呼ばれた二人は少し背中を強張らせた。
「あんた達二人は、なんで授業サボったの?」
本題に入る前の、質問。
この質問は、私も気になっていた。
由良はふっくらとしている唇を少し動かし、福野を見る。
「それは……、色々、悩んでて……。もう、どうすればいいのか……」
「それでわざわざ授業サボるのか? それだけの事で」
「でも、私たちは……っ」
由良は泣きそうな顔をして、唇を噛んだ。
そこで少し沈黙が流れ、福野が小さく溜息をついた。
「……じゃあ、質問変える。どこでサボッてたの?」
「……あ、えっと。保健室……です」
今度は、愛奈が答えた。
それに続け、由良も「保健室の先生に、悩みを聞いてもらってただけ」と付け足す。
「……悩みって、なに? あんたらが悩む必要なんかないじゃん。本当に悩んでるのは、依麻なんじゃないの?」
「っ、」
突然自分に話を振られ、焦るのと同時に少しだけ鼓動が速くなった。
「……依麻には、優と一緒になって本当に悪い事をしたと思ってます」
「……」
「だから、依麻に謝りました。一緒になって悪口言ったりとか——……」
「……謝ったの?」
由良が今にも泣きそうな声で呟くと同時に、福野は少し驚いた表情になった。
そう。由良達が謝ったなんて、福野が知るはずもない。
「謝りました、ちゃんと」
「……それは本当? 依麻」
「ぇ、あ……。は、はい」
戸惑いながらも、頷いた。
すると福野は頬杖をつき、小さく笑う。
「謝れたならよかったじゃん」……そう、呟いて。
「……でもそれで、これからどうするの?」
「え……?」
「依麻は依麻なりに、色々考えを見つけ出したはずでしょ? 由良達は、どうするつもりなんだよ」
考え……。
探したけれど、なかなかそういうもんは簡単に見つからなくて。
結局もやもやしてます。
「これからの考えもなく、依麻と仲良くするの?」
「……え、」
「依麻と仲直りしても、優はどうするの? 結局考えもつかないままで仲良くしたって、そんなの一時的で終わるでしょ」
福野が、正論を言っている……!?
……そうだよね。
私と仲良くしてても、次は由良達が何か言われる訳で。
かと言って、それが嫌で優の方へもう一回行くとしたら——。
そんなの、一時的な友情で終わってしまう。
あんな盛大な仲直りをした意味が、なくなっちゃうよね。
由良の謝罪の言葉も、温かい言葉も。
「優、は——」
「優は、あんた達にとっては『大事なトモダチ』なんでしょ? どうすんの?」
「……」
「依麻は、あんた達にとって何?」
「依麻は、私たちにとって……」
「生半可な気持ちなら、仲直りなんてしてもすぐ壊れるよ。私だって昔そうだった。どうすんの、あんたら」
福野はそう言って、真剣な眼差しで由良を見た。
由良は俯いている。
机には、次々と水滴が落ちていく。
……泣いてる。由良が、泣いてる。
「……依麻と仲直りして、優になんかされるか。優の傍に居て、また依麻と喧嘩状態になるか」
選択肢は、この二つ。
福野の真剣な声に、私は背筋を凍らせた。
由良達は、どちらを選ぶ?
やっぱ、優に何かされるのは嫌だよね?
やっぱ、私なんかと居るより——……。
そう考え俯いた時、由良が呟いた。
「……依麻と、居る」