コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ 74話更新! ( No.346 )
- 日時: 2011/03/21 23:23
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: ty0KknfA)
- 参照: 大丈夫、大丈夫 上手く笑えなくていいんだよ(byピエロ
第七十八話『甘い妄想』
君の好きな人は、誰?
君の想う人は、誰なの——?
「——じゃあ、45P開いて〜」
帰りたいと思う気持ちとは裏腹に、授業はどんどん進んでいった。
頬杖をついて副読本を開いたとき、
「先生、」
壱が声を上げた。
しかし壱の声は普段から大きい方ではないので、福野には聞こえてなかった。
「せんせー」
今度は声のボリュームを少し上げて、福野を呼んだ。
しかしそれでもまだ福野は聞こえてないみたいで——。
壱は勢いよく立ち上がった。
そして、
「せんせせんせ先生先生せぇんすぇぇぇぇい!!!」
低い声だけど巻き舌気味の口調で、叫んだ。
それと同時に、周りから笑いが巻き起こる。
それにはさすがの福野も気づき、慌てて壱の所へ向かった。
さすが、壱。
普段はクールだけど、こういうところで無意識に皆を笑わせる天然さがいいよね。
私はそう思いながら、周りに紛れて笑っていた。
「——じゃあ、端っこから一文ずつ読んで行って、噛んだら起立ね」
福野はそう言って、小さく笑みを浮かべた。
周りから軽いブーイングが起こる中、龍は壱をからかうように呟く。
「壱噛みそう」
「は? 俺、噛まぬぇっし」
もはや発音がおかしい壱の言葉。
壱には悪いけど、私も龍の意見に賛成だ。
壱は必ず何かをやらかす——。
そう、思った。
前の列から順番に読んでいくが、結構噛む人が居る。
見れば叶汰や愛奈も立ってるし……。
私の番が来て、噛みそうになりながらもなんとかやり過ごして——……。
そして、すぐ壱の番が来た。
「——……」
壱はだるそうな口調で読んでいく。
私は何かしでかすのを期待してたが、ここまで順調。
なぁんだ、噛まないか……。
私はそう思い、小さく欠伸をした。
だけど、やっぱり壱くんは期待を裏切りませんでした。
「裏山を通って登校するぬぁはなぁにか」
周りから、一気に大爆笑が起こった。
そう、壱は見事に噛んだ。
だるそうながらも決めて読んだのに、盛大に噛んだのだ。
『裏山を通って登校するぬぁはなぁにか』ではなく、正式には『裏山を通って登校するとは何事か』である。
何がどうして、どうやって盛大に噛んだのかはわからないけど——。
とにかくやっぱり、壱らしい。
「……あれ」
「はい、壱起立ー」
「ぇ、……はぁ」
福野も笑いながら、壱を立たせた。
壱は小さく溜息をつきながら、だるそうに立ち上がる。
周りからは、未だに爆笑が続き——。
「壱うける! あっあは、するぬぁ! するぬぁ!」
噛むことを予測していた龍が、見事にツボにはまっていた。
壱の真似をして、大爆笑している。
その龍の行動を見た周りのクラスメートたちも更に爆笑し、クラス全体にうるさいくらいの笑い声が響いた。
改めて、壱は色んな意味で凄い……と思った瞬間だった。
**
授業も後半に進み——。
私は何回も時計を見ながら、あと何分で帰れるかなんて事ばかり考えていた。
「次は副読本65P開いてー」
福野の声が響き、副読本のめくる音が教室中に響いた。
私も65Pを開き……目を見開く。
「……っ」
その65Pの話の内容、それは——。
中学生の恋愛——しかも、バレンタインの事であった。
なんか、こういう時にこういう話題……。
これも福野の陰謀ですか? ねぇ、福野サン。
「——……」
福野が副読本を突っかからずに読んでいく。
そのバレンタインの内容は、ある少年に片想している少女。
しかし少年は少女の気持ちを知っていて、少女を気になり始める。
少年が自分の事を気になり始めているのを、少女は知っている。
……まぁお互い両想いだけど、素直になれないみたいな感じだね。
そして、バレンタインの日。
少年は、ある後輩にチョコをもらって告白され、心が揺れ動く。
それで後輩と少女に対して曖昧な気持ちで考えた末、後輩を振る。
だが、両想いの少女に対しても曖昧な態度をしたので、少女が怒り、関係が崩れる……という、なんともブラックな内容であった。
周りの女子からは、「少年調子乗ってる」なんて声が聞こえる。
うん、とにかく内容がブラック。
壱が近くに居るときに……、しかもこういう心境の時に、この内容はきついですね。
なんかさ、ほのかと壱が両想いの少年少女で、告白した後輩が私……みたいな状況みたく考えてしまう。
いや、壱は私にこれっぽっちも心動いてないと思うけどさ。
後輩可哀想だよ、後輩。
「……」
なんかこういう時に限って、騒がしい龍も壱も無口だし。
なんかこの空気、気まずい。
時間が経つのが、長く感じられた。
そこで福野は、爆弾発言をし始める。
「男子に聞くけど『好きです』と『付き合って下さい』、どっちが言いにくい?」
なんちゅう質問してんだ福野おぉぉぉぉぉぉっ!!!
そう思いながら、私は勝手に一人で焦っていた。
告白未遂してあんなことがあった私の心境で、この質問はやばい。
あぁぁ、なんか恥ずかしくなってきた。
そう思っていると、
「好きです」
そう言った壱の声が、やけに大きく耳に響いた。
それと同時に、心臓が自分のものじゃないくらい速くなる。
私に言ったわけじゃないのに、かなりドキッときた。
やばい、これはやばい……っ!
『好きです』。
低くてちょっとだるそうな感じだけど、なんだか甘い声。
さっきみたいな感じでそんな告白されたら、もう……!!
壱に面と向かって言われたら……、溶ける。溶けれる自信がある。
今でさえもう溶けそうなのに!
壱は、私を殺す気ですか。そうですか、溶かす気ですか。
でもいつか言ってもらいたい……、なんてねっ!
……うん、今鳥肌たった。
きもいぞ、きもすぎる自分。
言ってもらえなくてもいいから、というか言ってもらえる訳ないから。
せめて、いつか壱にちゃんと想いを伝えたいなぁ……。
もう壱に気持ち知られてるし、メールで宣言しちゃったもんだし、告白未遂したし。
うん、今思い返せばなんてことしたんだろう私。
恥ずかしい、違う意味で溶けそう。
でも実際、全然壱と進展ないし、これからどうなるんだろう。
私が行動すればいいだけなんだけど——。
このまま、片思いで終わるのかな?
未来なんて、私にもわからないけど——……。
私の隣に、君が居ればいいな。
——なんて、願う私はおかしいのかな?