コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ 80話更新! ( No.360 )
- 日時: 2011/03/27 05:00
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: HpE/sQXo)
- 参照: 自分磨き頑張る。あの子に負けない。
第八十二話『重なる影』
「……はぁ」
私は溜息をつき、自分の席に伸びていた。
次は六時間目か……、あぁぁ。
某不良たちの思春期発言のせいで、壱の顔がまともに見れない。
壱キレてるよね、絶対キレてるよね。
こんな変人とデキてるなんて言われたら……。
うん、誰だってキレる。
嫌すぎて泣いちゃう人だっているかもしれない。
あひぃ。
「——依麻、プロフィール書いたよー」
「んあ、あー! ありがとう!」
頭がぶっ壊れかけているとき、優が私に向かってプロフィール帳を渡してくれた。
そうだ、今日の朝に渡したんだった……。
私はそれを受け取り、伸びたままプロフィールを眺めていた。
今思えばこの時、気を抜いていたのが原因だったのかもしれない。
いや、かもしれないじゃなくて、絶対そうだ。
「水城さん何見てるのー」
「え? ……あっ」
気づいたときには、もう遅かった。
優の個人情報が書かれたプロフィールは、前の席の健吾の手に——。
おのれ健吾!!
「な、返して」
「あははーあは、疾風〜」
「お、健吾いいの持ってるじゃねぇか」
健吾は変な笑い声をあげ、疾風にプロフィールを見せた。
ちょいちょいちょい。
「あは、あはははぁ」
「いや、ちょっと見ないで」
優にこの光景を見られたらやばい。
非常にやばい。
ボコボコじゃすまないかもしれない、ひぃ。
「……依麻、なにしてんの?」
そう思った矢先に 優 登 場 !
ああぁ、終わった。
ああぁ、ごめんよ。
私は手を合わせ、必死に謝った。
「私が気を抜いたばっかりに、本当にごめん!!」
「いや、別にいいよ。健吾、返して」
「なんだよ宮田ぁ〜。座ったら返す」
「はぁ? まじ最悪ー」
健吾さん、あなたは悪魔ですか。
優は健吾に向かって色々言いながらも、自分の席へ去って行った。
……とりあえず、私責任重大。
本当にごめんなさい、優さ
「ん……って、なにしてんの!?」
私は声が裏返りながら叫んだ。
健吾は悪魔な笑みを浮かべながら、私のバッグをあさっている。
「いや、水城さんのもないのかなって思って」
「私のないし。勝手にあさらないでくだせぇ」
「くだせぇって!!」
私の語尾がいけなかったのか、健吾は爆笑し始めた。
そ、そんなに笑うほどですか……?
そう思っていると、
「有名になりそうな人に、壱の名前が書いてあるー!」
疾風が大きな声でそう叫び、私の方をチラ見した。
その顔は、見事なドヤ顔で——。
な、なにそれ、私が書いた訳じゃないし!!
「は? え、は?」
大きい声で疾風が叫んだ為、当然壱にも聞こえたのだろう。
壱は突然の出来事に、混乱している模様。
「好きな人は門倉、二位が叶汰、三位が武だってー」
「ちょ、個人情報流出やめい!」
私の個人情報ではないが……。
優のこの個人情報は、私より大切なものだ。
だって、ねぇ? 私責任重大だし……、うん。
「宮田の好きな人はわかったけど、水城さんって好きな人いるの?」
「な、」
健吾が男子にしてはぱっちりした目をくりくりさせ、そう呟いた。
そうきたかチクショー!
私は冷静を装い、なるべくクールに言った。
「いないし」
「えー、嘘だぁ」
「いないもんはいないから」
ここまで、クールに演じたはずだ。
演技が下手な私でも、本気になれば……。
そう思っていると、
「——え、壱じゃないの?」
ま さ か の 龍 登 場
おい、龍ぅぅぅぅ!!!!
「え? え、え、え、ゃ、ぇ、は? な、なにが?」
壱は、超混乱してます。
それにしても、パニくりすぎじゃないですか。
……というツッコミをしている私ですが、状況はピンチ。
辺りが一気に静まって私に視線が集まっているし。
龍、なんてことしてくれたんだ。
「……は、はぁ? いないし」
「壱だよね」
「壱だな」
健吾と龍は、小声でやりとりをしている。
ちょ、やめてください!!
「え、ぁ、ぇ」
壱はまだ混乱気味だし!
あぁ、もうここから消えたい。
「——壱、今日メールするわ」
「あ、お、おぅ」
龍が怪しげな笑顔でそう言った。
龍め……、なんか変なこと壱に言いそう。
まぁいいや、もう!!
私は健吾の方を向き、少し早口で呟いた。
「とりあえず、いないもんはいないから! うん」
「じゃあ今まで誰か好きになったことある?」
馬 鹿 に し て る の か い
健吾は私の方を見て、小さく笑みを浮かべる。
私だって、誰かを好きになったことくらいある。
……告白して全部玉砕、なんて口が裂けても言えないけど。
「なんでそんな事聞くの?」
「いいから」
「個人情報流出だし」
「個人情報て」
健吾くん、また爆笑。
この人、結構ツボ緩いんだね。
ていうか、ツボが変だよ絶対。
……人の事言えないけど。
「まぁ、もう前向こうぜ、うん」
「嫌だぁー」
私が追い払うように手を振ると、健吾は無邪気な子供のような口調で呟いた。
そして、プロフィールを放り投げるように渡してくる。
やっと返してくれた……。
「よし、じゃあさっきの内容は忘れてね。優のプライベートだから」
「無理。俺こういうのは覚えてるからぁ」
「忘れてよ」
「俺、馬鹿だから忘れ方わからない」
「いや、忘れてよそこは」
健吾の発言に、私は笑いながら軽くツッコんだ。
すると健吾も笑い、一言呟いた。
「いやぁ、面白ぇ〜!!」
『面白いな』
——健吾と、森野の姿が重なった。
口調も、人をからかうところも。
発言も、無邪気に笑うところも全部。
なんだか、森野みたいだ。
「……」
なんだか少し、変な気持ちになった。
森野、今何してるかな。
城沢たちと、不良グループの集まりで騒いでるかな。
美里奈とどうなったのかな。
一時期、ほんの短い間だけど。
私は森野の事が好きだった時期があった。
森野にからかわれた事。
森野と騒いで、先生に怒られた事。
色々言われた事。
散々悩まされて、散々泣かされた事。
怜緒の話題で盛り上がった事——……。
色んな思いが甦るけど——。
もう私は、こっちで新しい好きな人が出来た。
前に進まなきゃいけないし、過去を振り返るつもりはない。
だけど、ほんの少しだけ。
健吾を見てると、君を思い出す。
少しだけ、刹那が懐かしくなった。