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Re: *叶恋華* +実話+ 94話更新! ( No.403 )
日時: 2011/04/10 02:26
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: tnkG6/9W)
参照: あなたと私でランデブー?←

第九十八話『私の知らない、』


君はどんな女の子が好きで、


どんな理想を持っていて、


どんな恋愛をして来たのかな。








**


全ては、吉澤の一言から始まった。


「壱の好きな人って——……」


そう、この話題から始まったんだ。
今の授業は理科。
理科室での実験なので、皆騒がしい。
だけど隣の班の壱と、吉澤の会話は不思議と耳に入ってきた。


「——他中——……」


吉澤と壱は、何やら小声で恋バナをしているようだ。
……ん?
今 他 中 っ て 言 っ た ?
私は速くなる鼓動を抑え、二人の会話に耳を傾ける。


「——他中の人と、前にね。メール、してたんだけど……」


今度ははっきり、壱の声が聞こえた。
他中の人と、メール……?
メ − ル し て た ?
他中? え? 女子? メール? やり取り? コミュニケーション?
頭の中が、一気に混乱した。


『他中の三人に告られたんだって!』


由良の言葉が、頭をよぎる。
他中……三人……告白……メール……?




           壱 の 好 き な 人 ?




「知らない人は——」
「——……」
「——話してみたら?」
「や、——……」


吉澤と壱は、微かにしか聞こえないくらいの小声で話し始めた。
話してみたらって、誰と?
好きな人と? 好きな人って他中の子?
どっちにしても、これは——……。
非 常 に マ ズ イ


一気に絶望的な気持ちになると同時に、どんどん血の気が下がっていく感覚がした。


——でも、そうだよね。
壱はモテるし、あんな恋愛に興味なさそうな顔してても、一つか二つは好きな子が出来た経験とか、付き合った経験とかあるはずだ。
私は転校生だし、壱と出会ったのは夏。
初めて壱の事を知ったのは、秋だった。
私がこの学校に来る前に、壱も色々な恋愛をしてきたはずだ。
怜緒の時の私みたいに、過酷な恋愛をしたのかもしれない。
いや、もしかしたら幸せな恋愛をしていたのかもしれない。


どっちにしたって——。
私には知らない、『壱の恋愛』があるんだ。


私はまだ、壱の好きな女の子のタイプだって知らない。。
好きな食べ物も、休日は何して過ごすとか、音楽は何聴くのかとか、趣味とか、全部全部——。
知らないこと、ばかりだ。


思えば私、壱の何も知らないじゃないか。


「……っ」


私の知らない『君』。
私がどんなに好きでも、その壁は壊せないの?
私じゃ、無理なの——……?




壱と私の、距離。
それは凄く凄く遠くて、先の見えない暗いものであった。