コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ 102話更新! ( No.433 )
- 日時: 2011/04/18 01:35
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: y5kuB1W.)
- 参照: 目がしょぼしょぼ←
第百三話『気になる会話』
「——はい、じゃあ名前呼ばれたら取りに来いー」
次の日。
この日は朝から、小テストが返却されていた。
先生が大きな声で出席番号順に名前を呼び、次々と生徒は前に向かう。
「——珠紀壱ー」
壱の名前が呼ばれ、壱は席を立つ。
テストを静かに受け取り、壱は少し伏し目がちで前から戻ってきた。
思わず壱に見とれてしまっていると、ほんの少しだけ、軽く目が合った。
「……っ」
私は何事もなかったかのように目を逸らした。
自分から見つめておいて、何やってるんだか。
心の中で溜息をつくと同時に、壱は自分の席に座った。
そして壱は、龍に何か小さい声で呟いた。
「——壱、なに?」
「いや、——……」
「——……、……の?」
龍も壱も、小声で何かを呟いている。
どうしてこの二人は、毎回毎回小声で話をするんだろう。
そんな疑問が生まれる中、
「——っ、そんなの、わかってることだろ!!」
壱が龍に向かって、軽く怒鳴った。
え、何があったの?
壱が軽く怒鳴る所を見るのなんて、初めてだ。
私は思わず振り向いて、壱の方を見てしまった。
「……なんで俺に言うんだよ」
龍もいつもより声を低くし、少し怒ってる様な口調でそう言った。
すると壱は我に返ったような顔をし、少しだけ俯いた。
「……っごめん、龍——」
その壱の声は、少しだけ弱々しかった。
一体なんで、壱は軽く怒鳴ったのか。
凄く気になった。
「……」
それから龍と壱の間に、なんだか気まずい空気が流れた。
お互いいつもの馬鹿話はしないで、龍は前を向いていて壱はうつむいている。
そんな時、
「——ねぇ、いっちゃん誰が好きなの?」
実に空気が読めていない、直樹が壱に話しかけた。
壱は顔を上げ、少し驚いた顔で直樹を見る。
「……え、いや——……」
「教えてよ」
なんて空気が読めないんだ、直樹。
私の所にまで伝わってくる、この気まずい空気。
そんな中で壱の好きな人を聞けるなんて、直樹はある意味勇者だ。
「——……」
「……」
「——いないって!!」
二人は何か小声で話した後、壱がそう叫んだ。
それでやっと気まずい空気の状況を察したのか、直樹は素早く前を向いた。
……多分、今の壱は不機嫌真っ最中であろう。
なんとなくだけど、私はそう察した。
**
そんな壱の機嫌も、大分直ってきた頃。
「——じゃあ壱、73Pの文章読んで」
総合の授業で、壱は当てられた。
自分の腕を枕にして伸びていた壱は、ゆっくりと起き上がり、副読本を開いた。
そこで壱は、いつものようにやらかしてくれた。
「おばあさんは忙しい——」
最初の文から、見事に間違っている。
本人は気にしないで読み続けているけど、本当は『忙しい』じゃなくて『貧しい』だ。
「——……っと、しめ……さな?」
「は?」
またもや、やらかしてくれた。
しめさなってなんやねん。
福野も目を丸くしている。
本当は『しめさな』じゃなくて、『小さな』だからね……。
しかもこれ、小学生で習う漢字だよね?
国語教師、福野は信じられないような顔で壱を見ていた。
——そんな間違いをする天然なところも、いいと思うんだけどさ。
「ふンばりなさいヨー」
文章の締めくくりに、壱は変な発音でそう言った。
それに周りは案の定大爆笑。
文章は間違ってないけど、発音が……。
福野なんか、苦笑いだ。
目が笑ってませんよ、目が。
「……じゃ、じゃあ。ここまで読んで、おばあさんがくれた心について考えましょう」
福野は少し戸惑いながらも、プリントを配り始めた。
おばあさんがくれた心——、うーむ。
プリントには、『おばあさんが伝えたかった心を考えよう』と大きく書いてある。
伝えたかった心とはなんぞや。
「いっちゃん、何て書いたー?」
直樹が壱の方を見て、そう質問する。
壱は「ん?」と小さく首を傾け、自信たっぷりにこう告げた。
「おばあさんのくれた心、生きないと死ぬぜ☆」
「……え?」
壱のその一言で、私は盛大に吹き出しそうになった。
ご丁寧に星マークつきで……。
直樹は笑いながら壱のプリントを見て更に大爆笑するし、周りに居る優なども爆笑している。
「……っ、」
私は笑いを一生懸命にこらえながら、なんとか平常心を保っていた。