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Re: *叶恋華* +実話+ 104話更新! ( No.447 )
日時: 2011/04/23 01:33
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: MypRsCNC)
参照: 妓б 秀岨ン 筑・澁 審雰ュ 匏洙ネ 

第百六話『君の本音』


君の気持ちが、


全然わからないよ。


君は私の事が、


嫌いですか?







**


チャイムが鳴り、壱は新しい席に戻ってきた。
うわわわ、本当に隣なんだ……!!
通路の距離が邪魔だけどね、隣だ隣!!
私は鼓動が早くなるのを抑えて、顔がニヤけそうになるのを堪えて。
涼しい顔をしている振りをして、その場で黙っていた。


だけど、壱は一向に席に座らない。
自分の新しい席を見つめたまま、黙っている。
そして、一言ぽつりと呟いた。


「は? まじありえねぇ〜……」


いつもの壱と同じ、やる気のなさ気なだらけた口調。
だけどなんだか、いつもじゃない。
何だかわからないけど、そう思った。


「うわぁ……」


壱は小さく溜息をつきながら、やっと席に座った。
え、な、え?
少しだけ混乱していると、壱がいつもより低い声でこう言い放った。






       「まじブルーなんだけど。俺、泣くよ?」






ブルー?
泣く?
嫌な事があった?
なんで、え?
私の頭の中で、ひたすら単語がぐるぐるぐるぐる。
ぐるぐるわしょーい。


「——壱、なんかテンション低いなー」
「……はぁ……」


疾風がそういうと、壱は大きく溜息をついて、机に突っ伏した。
テンション低い?
大きなため息?
席を見つめたまま、黙っていた?
嫌な事、テンションが低い、落ち込む——。
頭の中がパンクしかけた時、嫌な言葉が頭をよぎった。


私 と 隣 だ か ら 落 ち 込 ん で る の ?


——出来る事ならば、それは信じたくない。
信じたくないけど、それしかないでしょ。
壱の左隣は乙葉で、壱の右隣は私。
乙葉は嫌われてる訳じゃないと思うし——。
原因は、私しかなくない?


……やっぱ、迷惑だったのかな。
私に好かれるのなんて、嫌だったのかな。
ずっと、本当は——。
この本音を、隠してたのかな。


やっぱ、壱には好きな人が居るんだ。
だから私なんかの想い、迷惑に決まってる。
壱は優しいから、ずっとテンション低かったのを頑張って乗り越えてたのかもしれない。


また、私は君を傷つけてしまった。


**


「——バスに全員いるかー!?」


福野がバスのマイクを使い、そう叫んだ。
耳の痛い声も気にならないほど落ち込んだ気分のまま、一時間目の授業。
今日は、一時間目から四時間目まで老人ホームに総合学習しに行くのだ。
面倒くさい授業が潰れて、壱と隣になって嬉しかったのに——。
一気にテンションは、ガタ落ちだ。


「……」


しかも、バスの座席は私一人。
皆二人ずつ仲良く座ってるのに——。
うん、転校生って不便。
まぁこんな気分の時は一人なのもいいもんだ、うん。
そう考えよう、そう考えるしかない。


自分に言い聞かせていると、前の席の優と愛奈がこちらに向かって顔を出してきた。


「依麻、一人寂しくない?」
「寂しいよ、寂しいとも。あっは、でも荷物おけるからいいのさ」
「おいおい〜」


優と愛奈は、笑みを浮かべた。
うん、荷物が私の相棒さ。
そこ、寂しいとかいわないの。
今ただでさえ壱の事で涙腺が緩んでるのに、更に緩んじゃうでしょ。


「……」


壱の座席は、一番前だ。
私とは凄く距離が離れている。


悲しいけど、悲しいけどさ?
距離を置いた方が、いいかもしれない。
壱も大分限界来てるかもしれないし、距離を置いた方がいい。
距離を置いて、最初っからの状態に戻った方がいい。
私と壱はクラスが同じってだけで、特に接点もないし。
赤の他人、なんだ。


距離を置いて、出来るだけ周りに悟られないように過ごそう。



















そう思っていたのに——……、







「……これ、どういう事ですか。優」
「私に聞かれても……」


なんで、壱の班と一緒に行動しなきゃいけなくなったの。
福野の陰謀か、陰謀なのか。
まぁ壱の班に優が居るからいいけど……。
でも壱と気まずいし、ついさっき距離置くって決めたばっかなのに!!


「——じゃあ、生徒の皆さんも座ってください」
「あ、はいどうもー」


施設で働いてる人に勧められ、私たちは座った。
私と優は戸惑いながら三人がけのソファに座る。
すると、壱が向かいの椅子に座った。


「……」


あぁ、気まずい。
気まずいし、ここで何をすればいいんだ。
施設の人と交流! っていっても——。


「……何する? 依麻」
「うーん……。人に話しかけるにも、ねぇ……」


優と私は、ソファの所で縮こまりながら呟いた。
完全に、私たちは出遅れたみたいだ。
同じ班の疾風や冬香ちゃん、壱と同じ班の直樹などは施設の人達と楽しくお喋りをしていた。
健吾や龍は施設の人と一緒にテレビを見て、大爆笑している。


「……完全に浮いたね、私たち」
「……うん……」


私と優は、遠い目で皆の賑やかな光景を見ていた。
でも、出遅れたのは私たちだけではないようで。
壱も一人で椅子に座り、固まっていた。


「!」


そんな壱を見ていると、目が合った。
私は慌てて逸らし、俯く。
やっぱ胸がドキドキする。


席が向かい同士の為、何回か壱と目が合った。
壱のあの目は、反則だ。
鋭い切れ長の目で見られると、心臓が壊れそうな位飛び跳ねる。
それと同時に、胸が締め付けられて。


——やっぱ、好きなんだなぁ……って実感する。
距離を置かなきゃいけなくてもさ。
好きでいるくらいなら、いいよね?
黙って見てるだけでも、いいよね?




もう、無理なんだもん。
こんなに本気な想い、簡単に諦められない。