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- Re: *叶恋華* +実話+ 107話更新! ( No.452 )
- 日時: 2011/04/24 16:54
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: MuUNITQw)
- 参照: 大 好 き で す 。
第百八話『届かない距離』
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教室に戻り、私は気まずく思いながらも席に座った。
壱の方は見ないようにして、顔を伏せる。
時間がゆっくり経つのを感じながら、五時間目が始まった。
「じゃあ、今日は皆頑張ったっつー事で、特別に睡眠タイムにしまーす」
福野がそう言って、辺りは一気に騒ぎ始めた。
睡眠タイムって、やるじゃないか福野!!
私は顔を上げ、周りを見渡した。
見ればもう皆、机に顔を伏せて眠りの体制に入っている。
もちろん、福野も——。
そして、一瞬だけ横に居る壱の方を見てみた。
……壱も、寝ている。
寝てるんだから、壱の方を少し——……ほんの少しだけ、見ててもいいよね。
「……」
壱を好きになってから、大分伸びた髪の毛。
毎日かっこよく決まっている髪型。
細いけどしっかりした腕。
少しだけ見える、横顔。
次の席替えまで、壱の近くに入れるけど——……。
果たして、これは喜んでいいことなのか。
朝までは確実に喜べてた。
だけど——……なぁ……。
複雑、だ。
私から話しかける事も出来ないし、話しかけられる事もない。
明日から、どうすればいいの?
こんなにすぐ近くに君は居るのに、遠い。
そう思って壱の方を眺めていると、壱が動き出した。
「っ!!」
私は慌てて顔を伏せ、最初から眠っているような体制をとった。
間一髪……危ねぇ。
見てるのバレたら、生きていけないよ私。
周りは皆眠っているので、いつも騒がしい教室は怖い位静かだ。
私の心臓の音だけが、極端に大きく聞こえる。
「…………っ」
黙れ、私の心臓。
馬鹿、私の馬鹿野郎。
ここで眠って、全部壱の想いが忘れれたらいいのに。
これが全部、夢だったらいいのに——。
逃げて解決する訳じゃ、ない。
だけど今は、逃げたい。
考えるのを、やめたい。
この感情を押さえつけたい。
眠って全てを忘れたい。
色んな思いが頭の中を駆け巡る。
——耐えきれなくて、私は夢の中へと逃げた。
「おはよーっ!!」
静かな教室に、大きく響き渡る福野の声。
……あぁ、うるさい……。
見事夢の中に逃げれた私は、目を擦りながら顔を上げた。
寝起きの悪い私の、嫌いな起こされ方。
一、大声で起こされるの。
二、嫌いな人に起こされるの。
三、甘えた声で起こされるの。
四、眠いのに起こされるの。
五、叩き起こされるの。
——まぁとにかく、福野に起こされた私は不機嫌だった。
寝起きは苛々する、あああああ。
「——壱、起きろってー」
苛々する最中、犬ちゃんの声が耳に入った。
壱の斜め後ろの席の犬ちゃんは、壱の背中を揺らしている。
壱はのそのそと起き上がり、辺りを見回した。
「壱やっと起きた、おはよー」
「……ここ、寝やすい」
犬ちゃんが得意の子犬スマイルで笑う中、壱はぽつりとそう呟く。
その壱の言葉に何だか胸が痛くなりながらも、私は壱の方を見ないで俯いていた。