コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ 107話更新! ( No.453 )
- 日時: 2011/04/24 17:41
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: MuUNITQw)
- 参照: 大 好 き で す 。
第百九話『些細な優しさ』
次の日——。
壱と隣の席になって、一日が経った。
私と壱の間にはやっぱり進展はなく、気まずいまま。
だけど壱は、昨日みたいな溜息などはつかなくなっていた。
全てを放棄してるのかもしれないし、我慢してるのかもしれない。
だけど、私は少しだけ安心していた。
「——おい、一枚足りねぇぞー」
プリントが回ってきた時、壱がそう言った。
見れば、壱の後ろの志保ちゃんの分のプリントがないみたいだ。
志保ちゃんは軽く目を丸くしてから、笑みを浮かべて首を横に振った。
「いいよ、志保プリント使わないから」
志保ちゃんは『不良』と呼ばれる人なので、授業中は大抵寝てるか喋ってるかサボるかのどれかだ。
なので、プリントなど使わないのだろう。
だけどそんな志保ちゃんにとって、壱の些細な心遣いは嬉しかったようで——……。
「壱って意外と優しいよね」
笑顔でそう、呟いた。
それを聞いてしまった私は、少しだけ胸が締め付けられる。
壱は、やっぱり優しい。
クールでシャイだけど、優しいんだ。
あの時、私が優達と喧嘩したとき謝ったメールにだって。
あんなに長い長文で読むのも見るのもウザかったと思う。
なのに壱は『全然いいよ』って言ってくれた。
普通に一言『いいよ』じゃなくて『全然』ってつけてくれて許してくれた、そんな些細な優しさが嬉しかった。
だからこれは、ただの私のやきもちだけど——。
志保ちゃんに優しくしてるのを見ると、なんとなく悔しかった。
**
家庭科の時間。
なんだかやる気が起きないもので。
私は顔を伏せて、眠る体制に入っていた。
横見たら、壱も寝てたしね。
それだけなのに、ドキドキした。
伏せて同じ格好してるのって、なんか良くない?
共通点っていうか、同じ格好で嬉しいっていうか——。
きっとそう思うのは私だけだと思うけどね、うん。
もしこの気持ちに共感してくれる人が居たら、嬉しいなぁ……。
そんな事を思いながら眠ろうとした時、
「——ほら。珠紀、水城」
先生に肩を叩かれた。
顔を上げてみれば、先生が私と壱の間に入っている。
「ちゃんと起きて授業受けなさい」
先生は私と壱にそう言って、再び黒板の方へ戻って行った。
壱はゆっくり顔を上げて、一回軽くこっちを見る。
「!」
一瞬にして鼓動が早くなった。
壱は目を擦り、辺りをゆっくり見回して「なにすればいいんだ?」と小さく呟く。
今は、教科書を見ながらプリントに移す時間だ。
だけど私は教科書を持ってきていない。
それは壱も同じようで、私と壱はボーッとしていた。
すると、
「——見る?」
横から、低い声が聞こえてきた。
私は思わず大きく肩を揺らし、目を丸くした。
横から聞こえたけど、壱の声じゃない。
私は右隣の声の主——……門外龍を見て、数秒固まった。
「……え?」
「教科書見る?」
「……あ……、いいの?」
「ん」
龍は私が教科書を持ってないのに、気付いてくれたみたいだった。
な、なんて気の利くお方だ……!!
私は心の中で龍に手を合わせた。
「ありがとう」
「ん」
龍は短く返事した後、教科書を私の方に向けた。
いやぁ、ありがとうございます!!
私の中で、少しだけ龍の株が上がった……気がした。