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Re: *叶恋華* +実話+ ( No.532 )
日時: 2011/05/15 19:53
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: ddk2hi50)
参照: 8と3を間違える。やじるしって打とうとしたらやじりすになる。歳か←

第百四十四話『救命指導の出来事』


「——えー、では今日は皆さんに——……」


今日は総合の授業で、消防隊員の人が来て救命指導をしていた。
私は隣の優と一緒に、配られたパンフレットを見ている。
人工呼吸、救急車の呼び方——……。
私の頭でもわかるくらい、詳しく書かれていた。


「——ねぇ、ほのかー」
「何? 志保ー」


後ろに座っていた志保ちゃんとほのかが、口を開いた。
特に話を聞くつもりはなかったのだが、後ろに居るので内容が聞こえてしまう。
私は二人の会話を気にしないように、パンフレットを真剣に見ることにした。
その時、


「思ったけど、壱って消防隊員に向いてそうだよね」


——…………なぬ?
志保ちゃん、今何て言った?
壱? 消防隊員? 向いてる——……!?


「あー、わかる!」


ほのかも地味に賛同している。
ちょいちょいちょい。
確かに壱に向いてそうだけどさ!!
この会話、聞くつもりなかったんだよ?
なかったんだけど——……。
予定変更。


「——言ってくれば?」
「なんでほのかなのさ、志保がいいなよ〜」
「振られるしー」


振 ら れ る ?
え、振られるって、え?
私は更に耳を澄ませた。
……が、


「——じゃあ、皆さんにも実践していただきます」


救命指導の体験が始まってしまい、二人は話を終えてしまった。


**


「——まず気道を確保して——」


消防隊員の人が説明している中、私の頭の中はさっきの二人の会話でいっぱいだった。
志保ちゃんと、ほのか。
振られる。
壱は消防隊員に向いている——。
ぐるぐると単語が頭を渦巻き、私の頭の中はパンク寸前だった。


そんな時、


「だ、だいじょーぶですかぁー」


壱の声が聞こえてきた。
隣の男子のスペースを見てみると、ちょうど壱が人工呼吸の実践をしている。
お、おおおおお!?
私は説明そっちのけで、壱の方を見ていた。


「はい、ここで人工呼吸!」


見ていた福野がそう言い、壱は構えた。
彼の細いけれどしっかりした腕を伸ばし、しっかりと床に手をつく。
そして相手の頬にそっと片手を置き、切れ長の目を少し伏せた。


それから、徐々にゆっくりと顔を近づけ——……。

















マネキンに、口づけをした。


「ぷしゅー」
「ははははっ!!」


壱の息の漏れる音に、男子たちは笑い始めた。
ちょっと大げさに実況してみたけど、相手はあくまでもマネキンです。
マネキンの口に通気性の良いガーゼを当てているから、キスをマネキンに奪われる訳じゃないけれどね。


「ぷしゅー」
「ちょ、壱〜!!」


ぷしゅー二連発。
ぷ、ぷしゅーって……。
可愛い。


「——……依麻!!」
「!? はい!?」
「次、依麻の番だよ!」


壱の方に見とれていると、横に居た愛奈が小声で教えてくれた。
慌てて振り向くと、女子からの冷たい視線が私を襲う。
早くやりますからそんな目で見ないでよぉ……。
私は心の中で呟きながら、マネキンの元へ向かった。


*休憩時間*


「……なんか、マネキンにファーストキス奪われた気分」
「冗談やめてよ依麻〜!」


私と愛奈は床にしゃがみ、笑いながら会話をしていた。
まぁ、ガーゼ越しだから奪われてないけどねっ!! うぬ。
ちなみに由良は、つい最近亜夢先輩とファーストキスを果たし——……。
優もファーストキス経験済みだ。
愛奈と私は、まだキスしたことがない。


「……キスねぇ……。あは」
「どんな感じなんでしょうねぇ……」


好きな人と、見つめ合って。
ゆっくり顔を近づけて。
唇が重なり合って——……。
——……うん、後で由良に詳細を聞いてみましょう。
中学二年生、思春期の女子。


やっぱこういうこと、気になっちゃいますよね。


**


「——出血が多い人や、意識がない人には——」


休憩時間が終了し、再び消防隊員の人の説明に入った。
私はまたほのかと志保ちゃんが何か話さないかと期待していたが、二人は何も話さない為——。
パンフレットをうちわ代わりにして、パタパタと仰いでいた。


「——では、誰か代表者二名で実践をしてもらいましょう」


消防隊員の人がそう言い、皆ざわめき始めた。
代表者二名——……。
どうせ男子だろう。
私はそう思いながら、誰が手を挙げるか見渡していた。


……しかし、誰も手を挙げない。


「誰かやれーっ」


福野がそう言うが、誰も手を挙げない。
そこでしびれを切らした福野は、ある二人の生徒に指を差した。


「ヒロと壱!! 代表としてやりなさいっ」
「「え」」


ヒロと壱の声が重なり、二人は互いの顔を見合わせた。
それと同時に、周りの人達は騒ぎ始める。


「クラス一の長身のヒロと、クラス一の細身の壱だな〜!!」
「でか痩せコンビ」


クラス一長身ヒロ&クラス一細い壱。
確かに、ナイスコンビかもしれない——けど。
もしや福野、これを図ってた?


「——仕方ない、やってやるぜー」
「……」


当てられた二人は、最初は驚きつつも最終的には乗る気になったみたいだ。
壱は結構乗る気なのか、敷いてある布の上に寝転がった。
ヒロも無言で、壱の横にしゃがみこむ。


「……乱暴にするなよ」


壱がそういうと、クラスから笑いが溢れた。
ヒロも笑みを浮かべながら、作業を始める。
ヒロがしっかりしているからか、二人の作業はスムーズに進む。


「——はい、上手にできてますね! 拍手!!」


消防隊員の人の言葉と同時に、拍手が湧き上がった。
ヒロは小さく笑みを浮かべ、壱も勢いよく起き上がる。
二人は男子に囲まれ、何か楽しそうに話をしていた。


「壱、うけるね」
「ね〜」


私と愛奈はそう話しながら、二人の方を見る。
そして授業の終わりに消防隊員の人にカードをもらい、総合の授業は無事終わった。