コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: *叶恋華* +実話+ ( No.559 )
日時: 2011/05/28 01:16
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: b5YHse7e)
参照: 傍に居たいよね、うん。

第百五十三話『Bad Valentine』


言えばよかった。


言えなかった。


悔しかった。









*放課後*


とうとう、やってきた。
私はバッグを握りしめ、廊下で立ち尽くしていた。


「——依麻!」
「っ! ……ゆ、由良か……」
「あのね、原田くんに協力してもらった!」
「え!?」


原田くぅぅぅん!!
私は緊張で震える体を抑え、由良を見た。


「原田くんに頼んで、理科室に呼んでもらった」
「そうなんだ……ってえええ」
「なんか壱、今にも帰りそうだから早くした方がいいよ」


私は由良に引っ張られ、理科室へ向かおうとした。
しかし——。


「依麻、トイレ掃除サボんなー!!」
「っ!?」


バ レ た
そう、今日私はトイレ掃除当番なのだ。
今日も壱にチョコを渡すからサボろうと思っていたのに——!!
でも前回も前々回もサボってしまったし、今回は同じトイレ掃除当番の女子に見つかってしまった訳であるし……。
あぁぁ、女子睨んでるよ視線痛いよ。


私は足を止め、由良を見た。


「……私、トイレ掃除あるからさ……」


“私がトイレ掃除終わるまで、壱を呼び止めておいてくれる?”
本来で行けば、そう続くつもりであった。
しかし、


「なら私が渡しておくよ!」
「え、」


由良は私のバッグからチョコを素早く出して、走り去ってしまった。


「……え、ちょ、ま、由良!?」


呼び止めるも遅く、足の速い由良はもう見えなくなってしまった。
壱にあげる、本命チョコを持ったまま——……。
おいいいいいいいいいいいい!!!!
私は慌てて追いかけようとした、が。


「依麻、掃除早くして!!」
「あ、あぁぁぁ……」


うっせーなわかってるよあぁぁもう!!
声に出すのを堪え、心の中でそう叫ぶ。
同じ掃除当番の女子は私の手を掴み、引きずられるような形でトイレへ向かった。


「じゃあ依麻、アレ処理ねー」
「……」


そう言われ、渡されたのは紙袋と女の子の事情のアレを処理するトング。
バレンタインを邪魔されたあげく、アレ処理係?
悲しい、悲しすぎるぜ。


「……」


私はイライラしながら、乱暴に掃除をしていた。
由良はどうなった、一体どうなった。
今頃、このトイレ掃除に邪魔されなければ私が渡せていたかもしれないのに。
今からでも、間に合うかな。
トイレ掃除放棄して、壱と由良を探しに行けば——。
渡せる、かな。


そう思っていた時、


「——依麻、壱に渡しておいたよ!」
「!?」


由 良 登 場
なんだか清々しい笑みを浮かべている。


「『ありがとう』だってさ! 伝えておいてって言われた」
「……そう、なんだ」


私、自分で渡せてないのに。
私はゆっくり由良に近づいた。


「……どんな感じ、だった?」
「なんか、『あ、あぁぁ、あ、ありがとう』みたいな感じでめっちゃ笑顔だったよ」


笑顔——?
嬉しい、嬉しいけど——。
直接渡したかった。


トイレ掃除、サボってでも渡せばよかったのに。
女子の手を振り払って、走ればよかったのに。
皆が居ても気にしないで、すぐに堂々と渡せればよかったのに。
なんで私は、こんなに弱いんだろう。


言いたかった。
ちゃんと壱の目を見て、渡したかった。
壱の表情とか、全部全部。
目の前で、見たかったのに。


悔しかった。
渡せないことより、悔しかった。
自分以外の誰かに、自分が作ったチョコを壱に渡されるなんて。
由良に『やめて』って言いたかった。


「……っ」


色んな感情が混ざり、涙が出てきた。
誰にも見つからないように涙を拭い、トイレ掃除の反省を終わらせる。
急いで学校から飛び出し、誰もいない道を歩く。
——堪えきれなかった涙が、溢れてきた。


乱暴にジャージの袖で涙を拭い、次々に溢れてくる涙を止める。
こんなはずじゃ、なかったのに。
今年のバレンタインこそは、成功させたかった。
今までのバレンタインは失敗ばっかりだったから、今回のバレンタインは笑って終わらせたかったのに。
なのに——……。







      今年のバレンタインが、一番最悪じゃないか。






Bad Valentine。
私の、馬鹿。
何度も何度も自分を責めては、堪えきれない感情と涙が溢れてきた。