コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ ( No.567 )
- 日時: 2011/05/29 03:50
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: RIMOjgnX)
- 参照: 傍に居たいよね、うん。
第百五十八話『普通』
朝から落ち込んでいた私を心配した由良は、何度も励ましてくれた。
励ましてくれるのは、嬉しかった。
嬉しかったけれども——……。
「あそこに壱居るから、チョコの味どうだったか聞いてあげる!!」
放課後、玄関に向かって一人で歩いていた壱の背中を見て、由良はそう言い出した。
一気に全身に悪寒が走り、私は驚きながら由良を見る。
「それ、本気?」
「本気! だから聞いてくるね!!」
「え、ちょ、聞か——……」
ないで!! ……と言うのも遅く。
由良は全力疾走で、壱の元へと向かった。
壱はゆっくりと振り向き、由良と向かい合う。
「……っ!!」
ちょ、マジで由良さん聞いてるの!?
ここに居るとまずいよね、うんまずい。
急に恥ずかしさが込み上げてきて、私は逃げるように壁の裏に隠れた。
「——聞いてきたよ〜!!」
「っ、……どう、だった?」
「なんかね! 『え、……うん。う、ん。普通』だって。じゃあ私は帰るね! ばいば〜い」
普通——……?
何、それ。
普通って、一番嫌な答えだよ。
由良が去った後、私は玄関を出て一人で外を歩いていた。
本当に、私のあげたチョコは単純に美味しくもなくて不味くもなかったのか。
それとも不味いチョコを、壱は優しいから気を使って『普通』って言ったのかもしれない。
……最悪の場合、食べないで捨てたから、適当に答えたのかもしれないっていうこともある。
どちらにせよ、壱にとって『普通』のチョコをあげたのは事実となる。
美味しく食べてもらうために、何度も味見した。
夜中までかかった。
気持ちを込めて、作った。
だけど——。
涙が、出てきた。
爆発した感情を押さえつけるように、私は乱暴に涙を拭う。
だけれど、涙はどんどん零れ落ちてきた。
私、嫌われてるの——?
壱は、何を考えているの?
私が、そんなに嫌いなの?
迷惑だった?
チョコを作ったのも、あげたのも、由良が聞いたことも。
全部、全部迷惑だった?
——そうだよね、私の勝手な片思いで冷やかされて。
壱には、絶対嫌な想いをさせてたよね。
好きじゃないのに、困るよね。
ごめんね、また君を傷付けてしまった——。
「……っ」
涙が、止まらないよ。
君が、好きなだけなのに。
私の想いは、君にとって迷惑なんだ。
好きだけど、やっぱり距離を置くのが一番だ。
ううん、距離を置くなんて甘い。
諦めなきゃ、壱にまた迷惑がかかっちゃう——。
好きだけど、諦めなければ。
これ以上、好きな人に迷惑をかける訳にはいかない。
傷つける訳にはいかない。
これ以上、嫌われたくない——。
二月の冷たい風が、私の髪を揺らした。
涙に濡れた頬に風が当たり、やけに冷たく感じた。