コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ ( No.571 )
- 日時: 2011/05/31 19:49
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: zTfaOGJu)
- 参照: 大好きなんだよ。
第百五十九話『諦め』
諦めようと思ってる。
でも、やっぱり貴方の事を考える。
——貴方は、私の事なんてこれっぽっちも考えてないのにね。
「——もう今のうちに言っておくけど、明日席替えするからなー。班長、今日の放課後に教室に集まるように」
福野のその言葉を聞き、私は朝から溜息をついた。
今日で、この席も最後。
壱と隣の席になれるのも、これが最後——。
きっと次の席替えではもう、私は君の近くにはいれないだろう。
一回も話せなかったけれど、近くの席に二回もなれただけで十分に幸せだよね。
我侭、言っちゃいけない。
贅沢、言っちゃいけない。
本当に短い間だったけれど、君の横顔を見れて幸せだった。
「……はぁ……」
そう考えると、また気持ちが重くなった。
昨日の出来事を思い出す。
『普通』
チョコの味……普通……。
最悪なバレンタインの上に、更なる追い打ちだよね。
普通で返しようもなかったから、壱はメールを返さなかったのかもしれない。
こうなったら、とことん落ち込む。
落ち込めるまで落ち込んで、極限に嫌になるまで落ち込んでやる。
……自分でも意味がわからなかったけど、私はまた一つ大きなため息をついた。
「——依麻、おはよ〜」
「……あ、おはよ……」
机に伏せていた顔を上げ、声の主——由良を見た。
いつの間にか、朝の会が終わっていたみたいだ。
由良は元気な笑みを浮かべ、私の顔を見る。
「依麻、寝起きの顔してるよ? 朝の会で寝てたしょー?」
「……や、ちょっと色々と……」
極限にまで落ち込んだら、私は寝起きの顔になるのか。
出来る事ならば、このまま永眠したいですよ。
私はそう思いながらも、お茶を濁すように由良から視線を逸らした。
「どした? なんかあった?」
「……」
「何よ依麻、言ってみな」
黙っていると、いつの間にか優も話に入ってきた。
二人は真剣に私の顔を見ている。
私は目を逸らしながらも、小さく頷いた。
「……うん、」
「んー、親と喧嘩した?」
「いや、してない」
「具合悪いの?」
「残念なことに、いたって元気」
「何あったぁ?」
由良と優の質問に素早く返し、私は俯いた。
優は首を傾げて、考えている。
由良も顎に手を当て考えていたが、やがて顔を上げて私を見た。
「チョコのこと?」
ぎくり。
「……ちょっと、ここでは言えない……」
昨日の今日だし、思い出したくもなかった。
出来るならば、言いたくもなかった。
おまけに、壱が近くにいるし——。
今は龍や犬ちゃんや原田くん達と喋っているけれど、万が一聞こえたら、かなりまず
「壱のこと?」
「…………っ、」
……やられた。
由良は教室中に響く声で、そう言った。
見事に大きな声で当てたな、由良……。
絶対壱に聞かれた、いや、聞こえたよね。
「その依麻の反応、そうなんだな」
「どうした? 相手に彼女ができた? メールした?」
「……わ、わかんない、メールしてない」
声でかいよ、由良さん。
壱たち黙ってるし、聞かれてるだろこれ。
私は壱たちの方を一切見ずに、慌てて話を変えた。
「と、とりあえずさ、一時間目から体育だから! 体育館で話そ、ね?」
「了解〜」
私は由良と優を引っ張るようにして、教室から逃げた。
危ない危ない……。
壱たちが見えないところまで、早く、早く。
私は早歩きをして、体育館へと続く廊下で足を止めた。
「……依麻、どうしたの?」
「……あー……、もうっ!!!!」
私は廊下の壁を叩き、小さく叫んだ。
自分が、腹立つ。
壁を叩いたせいで、手が痛い。
だけどそれより、もっと胸が痛い。
「まじなした、依麻」
「……諦め、ようかな」
『ようかな』じゃない。
『諦める』って言いきらなきゃいけないのに。
なんで中途半端な事言うかな、私。
「……壱の事、好きじゃないの?」
由良は私の顔を覗き込むようにして、そう言った。
好きな訳、ないじゃん。
好き。大好きに決まってる。
「でも、私——」
「好きなんでしょ?」
「……うん。好き」
「それなら諦めんなって! 依麻は壱の事、好きなんでしょ?」
「好きなら無理に諦める必要なんかないよ」
由良と優は、真剣な顔でそう言った。
好きなら、無理に諦める必要なんかない——……。
「……うん」
それは、そうだけどさ。
でももう、なんか自分がわからない。
壱が大好きなのに。
そんなのは、わかってるのに。
頭の中は、必死で『諦めた方がいい』って叫んでる。