コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ ( No.572 )
- 日時: 2011/05/31 20:28
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: zTfaOGJu)
- 参照: 大好きなんだよ。
第百六十話『君を嫌いになる方法』
体育を受けている間も、私は考えていた。
心の中では『好き』。
頭の中では『諦めた方がいい』。
……これぞ、矛盾。
好きな気持ちは、完全に大きい。
大きいけれど、頭の中の考えは頑固のようで。
次第に考えは、どんどん『壱を嫌いになろう』『壱と関わらないようにしよう』『壱から距離を置こう』などの、心の中とは反対の考えへと進んでいった。
——そんな訳で。
「……」
私は、『君を嫌いになる作戦』を考えた。
まず、教室で授業を受けている時に、私はあからさまに壱を避けた。
それも、酷い位あからさまに。
座ってる時、壱の方に背中向けて(授業中なのに)。
いつも無意識に壱の方に傾けてる体も、龍の方に傾けて(ごめんよ、龍)。
顔を伏せて、黒板を見ると必ず視界に入る壱を入らないように工夫した(とても首が痛いし、はっきり言ってしんどい)。
授業中も休み時間も、壱を見ないように完全シャットアウト。
少しでも、微かにでも視界にいれないようにして——。
だけど休み時間では、さすがに無理があった。
「……っ」
たまたま由良の顔を見たら、壱が視界に入ってしまった。
私はすぐに体ごと逸らしたけれど、壱がこっちに顔を向けているのを見てしまった。
……本当に一瞬だけ、ドキッとした。
『君を嫌いになる作戦』実行中に、私は何を想ってるんだか。
**
「——先生来ないね〜」
英語の授業中。
先生はなかなか来なくて、皆ほぼ自由時間になっていた。
立ち歩いてる人もいれば、紙飛行機を飛ばす人。
手紙を書く人、面白おかしく騒ぐ人、本を読む人。
……どうしてこうテンションが下がっているときに、自由時間になるかな。
私は大きく溜息をついた後、騒いでる周りを無視して顔を伏せていた。
「——いーちっ! 心理テストね〜」
「おう、任せとけーっ!!」
志保ちゃんの、明るい声が聞こえてきた。
続いて、壱の声。
……私がテンション低いのに、壱はいつもよりテンションが高い。
なんなんだよ、一体。
「じゃあねー、恋の心理テストね〜」
しかもこういう時に限って、恋関連?
神様、意地悪だよね。
騒がしい教室内だが、何故か一際志保ちゃんと壱の楽しんでる明るい声が響いた。
……恋の心理テスト、ってさ。
あー、もうやだやだやだ!!
「——依麻ー」
「……」
「これ、由良からー」
顔を伏せてひたすら絶望にハマっていると、優が肩を叩いてきた。
見れば、由良からの手紙が。
優が自分の席に戻った後、私は由良の手紙を開いた。
『依麻へ
元気だせー☆ミ
大丈夫だー!!
好きなら諦めちゃアカンよ!!
いつもの元気な水城殿に戻りなされ(・Д・)ノ
由良より』
うふふふふ、あははははは。
私は棒読みに近い笑いを心の中で浮かべ、机の中からメモ帳を出した。
そしていつも以上に雑で汚い字になりながらも、由良に返事を書く。
『由良へ
心配かけてごめんよ0Д0
諦めちゃアカンか……ムフ
そうだよね〜
でももうなんか、ででででーんですわアヒャヒャヒャヒャ
あっひょジョンソンジョセフィーヌ0Д・
依麻より』
明らかに、壊れている内容だ。
手紙を二つに折り、時計を見る。
もうかれこれ、先生が来ないまま二十分くらい経っていた。
……まぁ、いいか。
私はその場で勢いよく立ち上がり、由良に手紙を渡しに行こうとした。
その際に、壱の机の前を思いっきり早歩きで通り過ぎる。
これも、嫌いになる為の作戦の一つ。
……だが、壱に一瞬だけチラ見された。
「……っ」
なんか、本当に腹が立ってきた。
壱の事で、怒っている訳じゃない。
訳じゃない、けど——……。
なんかわかんない、とにかくムカついてきた。
……っだあぁぁぁぁもう!!
「はいっ!!」
「アギョッス」
手紙を叩きつけるように由良の机の上に置く。
由良は奇声を上げた後、瞬きをして私を見た。
由良の横の原田くんまで驚いている。
「びっくりした……。授業中なのに立ち歩くなんて、水城ちゃんは悪い子ねー」
「アヘ」
由良の冗談に私は意味の分からない笑みを返し、また素早く壱の机の前を通り過ぎて、音を立てて席に着いた。
その際も壱の方に背中を向け、龍の方に体を傾け、顔を伏せる。
もう、頭も心もグチャグチャだ。
なんだか急に泣きそうになりながらも、必死に堪えた。
泣くもんか、絶対に。
「——……とうとう授業、先生来なかったじゃん〜!!」
英語の授業の終了のチャイムが鳴ると同時に、一斉に皆立ち上がった。
先生は、結局授業に来なかった。
「お疲れー」
「いやぁ、英語の授業ラッキーだったわ〜」
「先生どうしたんだろうね〜」
皆は満足気な顔で休み時間に入り、また騒ぎ始めた。
私は騒ぐ気にはなれず、再び顔を伏せる。
すると、頭に軽い衝撃が走った。
「依麻、元気出せ〜!!」
由良だ。
由良は私の頭に手を乗せ、笑みを浮かべていた。
由良の声がまた大きかったためか、周りは一瞬だけ静かになる。
しかし私は特に気にせず、いつの間にか机に置いてあった由良の手紙を開いて、内容を確かめた。
……朝よりは、テンションあげなきゃまずいかな。
私は心の中で複雑な気分になりながら、そう思った。