コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華* +実話+ ( No.576 )
- 日時: 2011/06/02 21:16
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: otheHgZZ)
- 参照: 大好きなんだよ。
第百六十一話『表情』
今、何をしているのか。
今、何を思っているのか。
今、誰を想っているのか。
君が言葉にしてくれなきゃ、私は何も分からないよ。
**
三時間目——。
先生が授業を忘れていた英語の時間のテンションとは比べ物にならないくらい、壱の様子が何処か変だった。
なんだかよくわからないけど……、壱まで暗くなってる?
私の負のオーラが移ったか……?
私はそう思いながら、冗談半分に壱の方をチラ見してみた。
「っ!!」
すると、壱が机に伏せながらこっちに顔向けていていた。
本当に軽くだけど、目が合ってしまう。
私は驚きと焦りと複雑な気持ちが混じり、慌てて顔を伏せた。
やばい、こっちに顔向けられるともう……。
……って、何を想っている私!!
今は絶賛『壱を嫌いになる作戦』中なのだ。
揺らいじゃ、いけない。
諦めなきゃいけないんだから——。
私は必死に自分に言い聞かせ、再び顔を伏せた。
そんな時、
「……壱、なんか元気なくない?」
「……え?」
犬ちゃんが壱に向かって、そう呟いた。
壱は顔を上げて体起こし、犬ちゃんを見る。
「何かあったの?」
「……」
犬ちゃんが優しく聞くが、壱は黙ったままだった。
犬ちゃんから目を逸らし、俯いている。
すると、壱の隣の席の乙葉がこう言った。
「——壱、なんか目赤くない?」
……え?
「……ゃ、ちょっと……。——……何でも、ない」
壱はそう言って、また顔を伏せた。
犬ちゃんは、少ししゅんとしている。
「……壱、」
犬ちゃんは小さな声で壱を呼ぶ。
だけれど、壱は犬ちゃんの方を向かなかった。
……壱の様子が、やっぱり変だ。
いつもなら、『なんだい?』とか『なんだよ犬ちゃーん』って笑みを浮かべて振り向くのに——。
そう思ってると、
「っ!」
壱は一瞬だけ、私の方を見た。
そしてすぐ目線を逸らし、顔を伏せる。
——なぜだか、凄く胸が締め付けられた。
なんで、落ち込んでるの?
なんで、元気ないの?
なんで、目を赤くしてるの?
もしかして、私が壱の事で落ち込んでる……から?
壱がそれに気づいた?
……いや、まさかね。
私があからさまに避けたから?
いや、壱だったら私に避けられようが落ち込むはずがないし——……。
「……っ」
あーもう、わかんない!!
めちゃくちゃ、胸が痛いよ。
心も頭も、言うことを聞かない。
私は考える事から逃げるように、顔を伏せた。
**
「——教科書開いて——……」
四時間目の、国語の授業。
四時間目も、壱は元気ない。
朝よりは少しだけ元気になった私だが、なんだか複雑な気分だ。
壱がなんで落ち込んでいるのか——。
それだけが、一番気になるところであった。
「……ここは、接続詞じゃなくて——」
生徒のノートを見回っていた福野。
福野の声が横で聞こえたので顔を上げると、福野は壱と私の間で止まっている。
福野の間から壱の方を覗くと、壱の横顔が見えた。
——壱の表情を見て、私は唖然とした。
「……っ、」
壱の顔は、何処か泣きそうで、何処か切ない顔をして俯いていた。
普段見せない壱の表情に、私は動揺する。
……それと同時に、胸も高鳴っていた。
もしも壱が私の気持ちを悟ってくれていたら——……?
うん、そんなのはありえないってわかっているけどね。
でももし。もしだよ? もし万が一そうだとしたら、私はまた壱に迷惑をかけていることになる。
こんな切ない表情をしている壱、初めてみた。
目が赤い……って、もしかして泣きそうだから?
なんで壱は、泣きそうな顔をしているの?
なんでそんな、表情をしているの?
……なんか私まで、泣きそうになる。
胸が苦しい。辛い。痛い。
——もう深く考えるのは、やめよう。やめた方が、いい。
由良達に心配かけちゃうし、少しでも元気にならなきゃ!
私はそう心の中で誓い、顔を上げた。