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Re: *叶恋華* +実話+ ( No.590 )
日時: 2011/06/10 03:21
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: JZOkdH3f)
参照: 君がくれた勇気は おっくせんまんおっくせんまんっ←

第百七十話『君を想うだけで、』


いっそ、気持ちを伝えたいのに。


もどかしいこの距離じゃ、


『好き』なんて、言えない。


だって、私は貴方と、


近い距離じゃないから。








**


今日の理科も、理科室での実験。
いつものようにファイルを片手に持ち、自分の席に向かう——……が。


「……」


椅子が、ない。
あれれのれ?
理科室は、たまに椅子が紛失する。
まさか今回は私の椅子がなくなるとは……。
そう思っていると、


「依麻、椅子ない?」
「うん……」


乙葉が気づいてくれたみたいで、私にそう言った。
乙葉は自分の周辺に椅子が余ってないか見た後、辺りを見渡す。
そして、


「——ねぇ、壱のとこに椅子ない?」


乙葉と同じ班の男子——壱に向かってそう聞いた。
壱は自分の周辺を見渡し、一つの椅子を発見する。
そして乙葉に向かい、小さく頷く。


すると乙葉は、信じられない一言を発した。

















         「じゃあ壱、それ依麻に渡して」


















な、なんですと……っ!?
一気に、思考回路が硬直した。
待って、ちょ待って!!
壱は立ち上がり、ゆっくり私の方へ近づいてきた。
ちょ、壱の方見れないし、ど、どうしよう!!
心の準備が……っ!!
落ち着け、落ち着くんだ私、そ、そうだ深呼きゅ




「はい」







「——……っ、」


私の想いを、遮るように——。
壱の声が、いつもより少し近くで響く。
気だるけな口調で、低くて少しだけ甘い声が、私の鼓膜を揺らす。
ぎこちなくなりながらもゆっくり振り向くと、壱は片手で椅子持っていた。


そして、その椅子をゆっくり差し出してくれた。
……手渡し、してくれるの……?


「あ、ありがとう……!」


壱の顔が見れないまま、私はそういって椅子を受け取った。
壱が片手で持っているので私も片手で受け取るが、椅子は予想以上に重かった。
だけど壱の渡し方が優しいおかげで、なんとか落とさずに受け取る事が出来た。


「……」


私が受け取るのを確認すると、壱は去っていった。
こんな重いのに、壱は軽々と片手で持っていた。
私より腕が細いのに、やっぱりそういう所は男の子なんだなぁ……。


私は壱からもらった椅子を地面に置き、ゆっくりと腰をかけた。
いつもの椅子だけど、いつもの椅子じゃない。
座った瞬間に、なんとも言えない気持ちが溢れて——。
胸が、痛かった。
……やばい。
なんか、泣きそう——。


悲しい訳じゃない、のに。
胸が苦しい。
辛い訳でもない、のに。
泣きそうだ。


なんだろう、この気持ちは——……?
悲しいから泣きたい訳じゃない。
嬉しいから泣きたい訳じゃない。
よくわからないけれど、壱を想うだけで凄く泣きたくなった。


周りから見れば、ほんの一瞬の出来事だった。
だけど私にしては、すごく長い出来事に感じた。
壱の顔が、ちゃんと見れなかった。
心臓が、おかしいくらいにドキドキしていた。
そして今は、涙腺がヤバイ。
涙を止めるのに、必死だ。


一瞬だけなのに、こんなドキドキするなんて。
こんな気持ちに、なるなんて。
私、おかしいよね。


「……っ」


泣きそうになるくらい、貴方が好きで。
もどかしい気持ちでいっぱいで。
それならいっそ、早く想いを伝えてしまえばいい。


だけど、それが出来ない私は弱虫で。
もどかしいこの距離が、更に遠ざかるのが怖かった。


——ただ単純に。
私は傷つくのが、怖かったんだ。