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Re: *叶恋華* +実話+ ( No.604 )
日時: 2011/06/20 21:31
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: GuSqVW3T)
参照: 大好きだぁあぁぁぁぁ←

第百七十六話『恋敵出現?』


昨日はあの後、特に何もなく……。
壱の恋バナを聞くこともなく、普通に平凡な一日だった。


しかし、その平凡もつかの間——。



















「壱、目ぇ瞑ってー?」


数学の時間。
一人の女子が、一人の男子に向かって急接近していた。
ぱっちりとした二重の瞳に、ふっくらとした形のいい唇。
誰が見ても「可愛い」と言える、愛らしい顔の女子。


その少女が顔を近づけている、男子の方は——。
クールでキリッとした瞳に、女子に負けないくらい可愛らしいが、何処か涼しげな感じの唇。
誰が見ても「かっこいい」と言える、クールな感じの男子。


そんな二人は、お互いに見つめ合っていた。
女子の方は男子の方に向かい、可愛らしい笑みでどんどん距離を近づけていく。
しかし男子の方は、それに戸惑う様に両手を前に出していた。


「——ちょ、待って」
「いいから! 目、瞑ってってばぁー!」
「ちょい待ち、待て!」


必死に抵抗する男子——珠紀壱。
そして必死に壱に接近する女子——高木志保。
この会話だけみたら、彼氏にキスを迫る彼女……みたいだよね。


というか、どう見ても美男美女カップルにしか見えないのですが。


「志保、犬じゃないから待て出来ない」
「ちょ、待て! 待て待て」
「目瞑ってよ〜!」


最近……というか、昨日から。
志保ちゃんは、なんだか壱にベタベタしていた。
今まで志保ちゃんは授業中も爆睡していたのに、今はちゃんと起きて、後ろの席の壱と楽しくお喋りをしている。
昨日はそこまで気にならなかったが、今日はボディータッチしたり、授業中は毎回振り向いて壱の事を見つめたり……。


「壱、目瞑ってーっ!!」
「待ってってば、待て!」


こんな、キスを迫る恋人みたいな会話をしたり。
……正直、バリバリ二人が見える席に居る私にはキツイ光景であった。
しかも一昨日、壱が恋をしたっていうのを聞いたばっかりだし。


これが噂の、不幸のダブルパンチってやつですか?


「——いやぁ〜っ! 壱のケチ!! もういい、叶汰にやるぅ」


志保ちゃんは拗ねて、壱からターゲットを叶汰に変えた。
第一のイケメン壱の次は、第二のイケメン叶汰かいっ!!
心の中でそうツッコミを入れながらも、何処か安心している私が居た。


しかし、これはまだ序の口。
そう、朝メシ前くらいの不幸だって事を——。


私は、後から知ることになる。




















**


「——ね、壱ぃ〜。ホテル行こぉ?」


ホ テ ル !?
ちょ、まっ、え!?
今、聞いてはいけないものを聞いてしまったような……。


只今、国語の時間。
私は福野の授業そっちのけで、志保ちゃんと壱に注目した。
見れば壱も驚いた表情をしており、言葉を発した志保ちゃんと、壱の隣の優が笑っている。


「……っごめん、俺、門限だからっ」
「門限って、早〜!!」
「うける壱〜! ……ね、ちょっと優、壱に『ホテル行こ』って言ってみて〜!!」


何 言 っ て る の こ の 人
ホテルって、え、え、え、え。
思春期の私達が、授業中にそんな話をしてもいいのだろうか。
うん、しかも志保ちゃんが可愛らしい顔に似合わない事を言うなんて——。


そう思っていると、優は手を伸ばした。
手を伸ばした先は——……。


「……ね、壱」


壱の背中、だった。
その優しげに見えるけれど男の子らしい背中に向かって、優は手を置いた。
一瞬の出来事だったが、私にとってはとてもゆっくりな動作に見えた。


「一緒に、ホテル行こう?」


——優のその声が、やけに大きく聞こえたのは気のせいだろうか。
一気に私の頭の中は真っ白になり、その優の言葉だけが木霊していた。


「——ちょ……っ! なんで壱、何も言わないのぉ!?」


壱がずっと黙ったままなので、優は壱の背中を軽く叩いた。
その光景に、少しだけ胸が痛む。


「……いやぁ、俺、門限だから! もう十分も過ぎちゃってる」
「ちょ」


優は吹き出し、大声で笑った。
壱も笑みを浮かべている。
すると志保ちゃんが壱の顔を見つめたまま、こういった。







         「壱、絶対照れてるしょ〜!」








……照 れ て る?


「……って、照れてない!」


志保ちゃんの言葉に、壱はそう言い放って顔を伏せた。
志保ちゃんは笑いながら、壱の顔を覗き込む。


「照れてるよね?」


壱は伏せたまま、首を横に振っている。
しかし志保ちゃんも優もそれを信じず、笑みを浮かべたまま壱に指を差した。


「絶対照れてるっしょ〜」
「壱、ホテル行こうよ?」


志保ちゃんのからかいに、優のホテル行こう発言。
それに対し壱は、信じられない一言を言った。


















       「……ちょ、照れるからやめてっ」
























照 れ る か ら や め て !?
な、なぁぁぁぁぁぁぁ!?
照れ、照、て……?
が———ん。


「あはははは、壱うける〜!!」


優と志保ちゃんは、壱に向かって大爆笑していた。
しかしその楽しそうな光景も目に入らず、ただ茫然とする私。
……お遊びでふざけてんのはわかるけど、ちょっとダメージが……。
しかもただでさえ壱に向かって接近してさ。
顔がクラス一可愛い志保ちゃんが上目遣いで言うんだから……。
優もなんだかんだ言ってモテてるし、二人してやめてほしいよ……。


ただそこから見てることしか出来ない私は。
勝手に嫉妬して、勝手に傷つくことしかできなかった。