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Re: *叶恋華* +実話+ ( No.656 )
日時: 2011/07/12 21:37
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: kG5vJqWm)
参照: 君の中に 堕ちていく

第百九十九話『暖かい言葉』


「お前等——……、——!」


玄関から出て、早足で歩く。
それと同時に、優が遠くで何か早口で叫んでいた。
聞こえないって、そんなぐちゃぐちゃな事言われても。
あの聖徳太子でも聞き取れないわ。


「……依麻、優なんていった?」
「わかんない、聞き取れないよあんなの」


やっぱり、愛奈も聞き取れなかったみたいだ。
二人とも聞き取れなかったって言うのが、なんだかおかしくて。
私達は小さく笑った。


「——捨て台詞、だね。優のは」


愛奈は小さく鼻で笑い、私の腕から手を放す。
そのまま学校の角を曲がり、人気の少ない通りへと向かった。


**


愛奈と歩く、いつもの人気の少ない帰り道。
いつもなら、うるさいくらいに騒ぐまなが横に居た。
それにツッコむ愛奈が居た。


今日は、ぽっかりと穴が開いたように静かだ。


「……」


——友情って、こんなことで簡単に壊れるのかな。
こっちは何もしてないのに、理由もなく避けられるのかな。
理由もなく、喧嘩になるのかな。
どうして、悪い方向へと悪化していくのかな……?


私だって、たくさん悪いところがある。
十分弱虫で、最悪な女だ。
だけど、私だって……。
好きで嫌われてる、訳じゃない。


もう二度と、こんな事は起こらないようにしたかったのに。
やっぱ、私には無理だったのかな?
色んな人に、迷惑かけちゃうのかな。


自分が何かされるのはいい。
辛いけど、そんなの耐える。
だけれど——……。
私は、周りを傷つけている?
周りを巻き込んでいる?


なんだか急に、悲しくなった。


「——……依麻?」


私が足を止めて立ち止まると、それに気づいた愛奈も止まった。
私は顔を上げ、愛奈を見る。
冷たい風が私と愛奈の長い髪を揺らすのと同時に、私は口を開いた。


「愛奈に迷惑……かけてるし、私と一緒に居たら色々、されると思うよ?」


自分ではちゃんとはっきり言ってるつもりだったが、思った以上に声が震えた。
喉の奥が、つっかえる。


「……それでも、いいの……?」


迷惑かけてる。
私と一緒に居たら、愛奈にまで何か言われるし何かされる。
愛奈の周りの友達だって、みんな愛奈を避けていくかもしれない。


「……別に、それでもいいよ」


愛奈は、冷静な口調でそう呟いた。
その意外な答えに、私は目を見開く。
愛奈は小さく笑い、頬に張り付く髪を払った。


「一人の子を、あんな風に避けるなんておかしいじゃん」


愛奈の意見が、もっともの正論だ。
一人の子を、避けるなんておかしいと私は思う。
自分に同情する訳じゃないけど……、だってそうだよね?
もし愛奈が一人になったとしても、私は愛奈を避けない。
周りの子が一人でも、私は一緒に居たいと思う。
だけど——……。


「でも、私が悪いんだよ? ……前回の件でも、そうだった。優にも由良にも壱にも、迷惑かけた。今回の件も、壱の事で皆怒ってる。私馬鹿だから自覚ないけどさ、そうやって周りを傷つけてるんだよ? 無意識のうちに。だから、さ——……っ」


『これ以上、愛奈に迷惑かける訳にはいかない』
そう言おうとしたけれど、言葉がなかなか出てこなかった。


「……」
「……依麻、」


これ以上言葉を言ってしまえば、全てをぶちまけてしまう気がする。
大声で泣いてしまうかもしれない。
本当は、すぐにでも泣きたかった。
誰かに聞いてほしい。助けてほしい。一緒に居てほしい。
そんなの欲張りになるかもしれないけれど、味方が欲しかった。


「——依麻は悪くないよ。悪いのは、周り」


愛奈の言葉が、頭の中に響く。
悪いのは、周り——?
体に入っていた力が抜け、一気に泣きそうになる。


「周りがこうさせちゃってるんだよ」
「……周り……」
「周りが全部、悪いんだよ。周りが悪いと、自分もそれに流されちゃうじゃん。——……やっぱ、人間なんだし」


人間——。
深い言葉を聞かされているようだが、頭の悪い私でもすんなりと耳に入った。


「……だから、大丈夫。私は一緒に居るよ」
「……ありがとう」


『一緒に居る』
たったそれだけだけど、暖かい言葉。


私は、その言葉をずっと必要としていたのかな?