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- Re: *叶恋華* +実話+ ( No.658 )
- 日時: 2011/07/12 22:48
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: JiXa8bGk)
- 参照: 君の中に 堕ちていく
第二百話(最終話)『叶恋華』
この1年——。
色んな事が、ありました。
同じクラスに好きな人が出来て、
席も近くになったけど。
私は何も、出来なかった。
**
次の日——。
私は雪解けの道を一人で歩きながら、空を見つめていた。
今日で、二年生も終わり。
なんだか実感がない、この気持ち。
またこのクラスの人達と、一年間過ごすからね……。
でも、それだけじゃないと思う。
心がなんだか空っぽな感じがするのは、昨日の事があったからだと思う。
小さく、拳を握った。
何があっても、負けちゃいけない。
何をされても、めげちゃいけない。
だけど、周りの人は巻き込まないようにしなくちゃ——。
言葉じゃうまく表せれない空に向かって、私は誓った。
*学校*
「依麻、おはよ」
「おはよ〜」
愛奈に挨拶されて、私はそれに笑顔で返した。
いつもと変わらない教室。いつもと変わらない皆。
それを感じながら愛奈の席の所で話していると、
「——依麻、愛奈……」
由良がやってきた。
隣に優は居ない。
由良一人で、少し控え目な口調で私達に近づいてきた。
「昨日、色々あったんでしょ? 大丈夫?」
その由良の言葉で、私と愛奈は少しだけ顔を顰める。
……何が、大丈夫だよ。
“今更何なんだ”。愛奈と私の心の中は、その言葉で埋め尽くされた。
そのまま無言で由良を見つめていると、
「……あと、依麻。なんか私が壱の事好きだと思ってるけど、違うよ? モデルの方だよ?」
由良は私から目を逸らしながら、そう言った。
さっきの言葉より、何千倍も腹が立った。
嘘、つかれた。
本当の事話せばいいのに。
そんな嘘ついたって、バレバレなんだって。
体育の時の話は何なのさ。
嘘つき。
しかも声でかいんだよ、皆こっち見たじゃないか。
私の中でだんだん『怒り』の感情が湧いてくる。
「……あのさぁ、そういうんじゃなくて」
口調を抑えながら、由良を見る。
由良は「え?」と小さく呟き、また私から目を逸らす。
私は自分の心をうまく制御しながら、由良の目をしっかりと見つめた。
「好きな人どうこうじゃなくても、由良は私を避けてたんでしょ」
声が震えるかと思ったが、そうでもなかった。
意外に落ち着いた口調で話せたので、自分でも驚く。
由良は少し目を見開いてから、俯いた。
「え、ぁ……」
「——由良、はっきりいいな」
戸惑っている由良に対し、愛奈は冷たい口調でそう言った。
それでも由良は俯いたままでいるので、私はもう一度口を開く。
「避けてたんでしょ?」
「え、う……。わた、私より優が怒って……」
「避けてたのには変わりないでしょって」
もう私も愛奈もわかってるんだから、嘘つく必要ないのに。
苛立ちを抑えながら、少し唇を噛み締めた。
「——う、ん。ごめん……」
そこで由良は弱々しい声でそう呟き、やっと頷いてくれた。
私は唇の力を緩め、小さく息を吐く。
「依麻を避けてた理由は? 由良」
ここで、愛奈にバトンタッチだ。
愛奈は笑みを浮かべながら、そう優しく呟いた。
なんだか少し怖く見えるのは、気のせいじゃないだろう。
由良は顔を上げ、私と愛奈の顔をそれぞれ見つめた。
「前と一緒」
——やっぱり、前と一緒なのか。
少しだけ胸が痛くなると同時に、チャイムが鳴る。
座らなきゃいけないので、とりあえず私は席に戻った。
由良も席に戻り、愛奈も自分の机の位置を整える。
これから、どうしようか。
辛い気持ちを押さえつけながら、重い溜息をついた。
**
あっという間に時間が経ち——二年生最後の学活が終わり、皆教室中に散らばった。
私と愛奈は固まって窓側の壁に寄り掛かる。
由良と優は廊下側のドアの方へ向かい、何やら話していた。
「——調子こくなや!!」
優がこっちを向きながら、大きな声で叫ぶ。
調子なんかこいてないっつーの。
私はそう心の中で愚痴り、優の言葉をスルーした。
「——次に会うのは四月で、君たちが三年生になった時!! 春休み、事故なく安全に過ごせよ!!」
福野が皆に向かってそう言い、皆は大きな返事をした。
「それでは、さようなら!!」
福野が大きな声で挨拶をし、皆は廊下へと散らばって行った。
その際に、壱が視界に入る。
壱を見ると少しだけ胸が締め付けられたが、私は背中を見つめ続けた。
「……」
十五年目の、春がやってくる。
三年生になったら、もっと頑張らなきゃ。
由良と優に何をされても、負けないようにしなくちゃ。
恋愛も友情も何もかも、前向きで行かなくちゃ。
もう、怜緒の時みたいな恋はしない。
今まで失敗してきた分、本当に大好きな君を振り向かせたい。
もう、一年経ったんだよ?
前に、進んだよね?
……ううん。
これから私は、前に進むんだ。
怜緒への恋心。
叶汰への恋心。
そして、貴方への恋心。
二年生の間、色々あった。
それぞれ、三つの恋を学んだ。
時には、くじけそうになった。
時には、弱音を吐いた。
時には、自分を責めまくった。
だけど、私は今まで足掻いてきた。
私は私なりに、立ち上がってきた。
これからも、立ち上がるよ?
この恋が叶わなくて、いつか枯れてしまう華だとしても。
いつかは、叶うように。
恋が、実るように。
綺麗な華が咲くように、頑張るって誓います。
まだ蕾の私でも、負けません。
この先辛いことがあっても。
もう挫けない。
一人ぼっちになっても。
もう負けない。
『貴方が大好きです』
胸を張って、こう言います。
春の風が、ふわりと叶恋華を揺らした。
*END*