コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- #1 ( No.7 )
- 日時: 2011/02/18 22:33
- 名前: 美桜 ◆QfbalvjOYM (ID: FMKR4.uV)
#1
ある年の四月。満開の桜の木の下に彼女はいた。腰まで伸びている髪を二つにまとめ、髪の先を巻いている。フランス人の父から受け継がれた綺麗な金髪とスカイブルーの瞳。目はぱっちりと大きく、まつ毛は長い。薄い朱色で塗られた唇で、彼女は静かに-----しっかりと一点を見つめ、こう言った。
「あたし、君が好きだよ」
「はいカーット !!!」
監督の声が響く。
満開の桜の木の下、完璧な演技をした彼女-----和美紗樹は、高校生女優である。美紗樹は、監督とカメラさん、スタッフに挨拶をし、自らの楽屋に行った。楽屋に戻ると、そこには美紗樹の母-----綾子がいた。
(来ないで、って言ったのに…)
美紗樹は不満丸出しの表情で、綾子の元へ行った。
「お母さん !!」
「あら、ミーシャちゃん。今回のも良かったよ」
綾子は、美紗樹のことを、芸名である“Mi-Sha”という名で呼んだ。
「当たり前じゃない ! ていうか、私の仕事場には来ないでって言ったでしょ ? って、お母さん、聞いてる ?」
美紗樹は、楽屋においてある蜜柑を勝手に食べている母に言った。
「お母さんじゃなくて、ここでは“早水綾”。綾、って呼んで♪」
美紗樹は呆れたように、綾子の向かい側に座った。
美紗樹の母、綾子は有名女優である。三歳から天才子役としてデビューし、今も尚女優をしている。その影響からか、美紗樹も三歳から子役デビューした。
「ミーシャちゃん、この後仕事は ?」
「ない。学校に行く」
そう言って笑顔を作った美紗樹を見て、綾子は美紗樹に気を遣い、美紗樹にこう言った。
「無理して行かなくて良いのよ ? 私も貴女の年のときには家庭教師だけで乗り切ったものよ」
「いい、大丈夫。私、友達に会いたいの」
綾子は笑顔の美紗樹を、心配そうな目で見た。
-----美紗樹に、学校の友達がいないことを、彼女は知っていた。
「そう…。じゃ、行ってらっしゃい」
「うん !!」
美紗樹はそう言って、楽屋の隅に置いてあるスクールバッグを手に取り、楽屋を出た。
-----学校で友達に会いに行きたい、という役を完璧に“演じ”ながら……。
美紗樹の通う学校は、将来女優・俳優を目指している人や、美紗樹のような現在女優・俳優をしている人が集まる学校。-----といっても、美紗樹のような、高校生であそこまでの実力と、人気のある生徒はいない。只一人の男子を除いて……。
「おっはよう ! 美紗樹ぃ !!!」
その男子-----美紗樹と同じくらいの実力、人気のある俳優-----七瀬叶斗が、美紗樹の頭をくしゃくしゃっとして言った。
「叶斗 !! 髪ぐしゃぐしゃになったじゃない。ていうか、もう昼ですけど」
「あ、そっか。美紗樹は朝から仕事だったの ?」
好奇心旺盛の大きな目で、叶斗が美紗樹に尋ねた。
「うん、月9のドラマの撮影」
「あ、『桜の木の下で』ってやつだよな。姉ちゃんが見てた。『さすがMi-Shaちゃん。上手いね』って言ってた」
叶斗の姉も女優であり、美紗樹の良き先輩である。叶斗の姉-----里桜那(芸名リオ)を通じて、美紗樹は叶斗と知り合った。
「じゃ、俺今から雑誌の撮影あるから」
「うん。行ってらっしゃい、頑張って」
「おう !!」
叶斗はそう元気よく言い、かばんを持って走っていった。
(もう、これで今日の学校に仲のいい人はいない…)
そんなことを思いながら、美紗樹は自分のクラスである、2-Bへ入っていった。
続く