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Re: 猫籠会 − ねこめかい 【の人が考えたどーでもいい話】 ( No.1 )
日時: 2011/03/11 19:10
名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)


 【禁断のおはなし】


「唯一(ゆういち)? お前があの鴫木唯一(しぎのぎゆういち)だって? おいおい冗談よしてくれよ。確かにあいつは眼鏡をかけてたさ。チャッパチャップスも常日頃から銜えてたよ。でもな、俺が卒塔婆で下級生をいじめてたら、あいつは確かにこう言ったんだ。——『アンタは豊臣秀吉かッ!?』って。いまのお前は、見る影もない。お前がしてるのはなんだ? 言ってみろよッ!!」
「……お湯を注いで、三分間待ってるんですけど」
 ——日曜日のある日のこと。
 昼過ぎまで惰眠を貪り、空腹に耐えかねてカップラーメンで朝食兼昼食をすまそうとしたところ、突如謎の男が現れた。
 現れたというか、リビングで堂々とテレビゲームやってたんだけど、いつの間にかキッチンにいた、といった感じだ。
 どちらにしても不気味である。
 その男は馴れ馴れしい口を利くわりに、なぜか正座しておれを見上げていた。もっ、すげえ不気味である。なんだか無償に蹴りたくなってきた。図は高くないんだが、こう、うざい。
「三分間待ってるんでしゅけどゅお、じゃねえよ!? お前はラーメンのメの字もわかっちゃいねえ!! いいか! ラーメンって言うのはな——」
 その前提だとおれはラーメンのラーの部分はわかってることになってしまうのだが、生憎とおれはラーメン通ではない。それはカップラーメンになんの工夫もなくストップウォッチとか用意しないところから明白だろう。いや、ひょっとしたらラーメン通はカップラーメンなぞ食わないのでは? そもそもあのストップウォッチとかスタンバイしてる人たちは別にラーメン通ってわけじゃないんじゃね?
 そんな考えに行き着いたところで、気がつけば男はどういう経由でかラーメンからかなり脱線した話を一人語りしていた。
「第二次世界大戦時! ワシは迫り来るザリガニから妻とおたまじゃくしを守るべく——」
「……あの、どこのどなたか存じ上げませんけど、その……帰ってもらえません?」
「黙れ小僧! キサマにサンが救えるか!」
「…………」
 よし三分経った。
 ラーメンを食べよう。

 ——結局のところ、日曜の昼過ぎにリビングで堂々とテレビゲームをして、おれがラーメンを食べるのを充血気味の目で凝視してきた謎の男は、蜃気楼でも幻覚でも阿部清由(あべきよし)でもなんでもなかった。
 では何か?
 それはいまだ不明だが、一つだけ言えることがある。
「YO! 兵っ! そこのキミもっ! 遺影っ!」
 ミュージックプレイヤーにイヤフォンを差込み、音量マックスにして地味に流れ出るメロディーに耳を傾け——踊っている。
 ……盆踊りだ。
 しかもなぜかラップ調。
 そういえばラップとかしそうな格好だとは思った。缶バッチつきの灰色ニット帽、だぶだぶのトレーナーにチェーンのついたジーンズ。顔は人並み以上でなかなか柔和な印象を受ける。どうでもいいが、恐ろしく似合っていない。なんか格好が「いかにも」って感じで逆に胡散臭くさえあるけれど、案外こういうものなのかもしれないと思わないでもないけど、似合っていない。
 だって、似非ラップ調で、しかも盆踊りだもの。
 ラップと盆踊りの組み合わせってウケ狙いで使い古されてそうだし、そういうものをどっかで見たような気がする。この人はその真似だろう。個性がない。
 ま、とりあえず。
「帰れ」
「ほゎっつ? ちょ、唯一キサマ俺様を誰だと思ってんだよッ、先輩だぞ、お前と同じ学校の先輩だぞッ!? 中学の頃暴君だったお前に、すれ違い際にハナクソを擦りつけてやった先輩様だぞ!? 感謝の欠片も見えねえなオイ、クソッ」
「余計帰れ。あとその冗談全然面白くねえから。つまんないから」言いつつ玄関に押しやる。土足でないところからしてそういう礼儀は弁えてるようだ。おれに対しての礼儀は皆無だが。
「待て、おい! じゃあ、ここは話聞け、な? これ見ろよ」
 男は急にジーンズを脱ぎ出して——
「てめぇいますぐ逝けぇぇぇぇッ!!」
 おれは渾身の拳を放っていた。
 しかしその拳は空を切り、ズボンを脱ぎ出そうとした男はいつの間にか半ズボンに変わっているという信じ難いことが起きる。
 ふと、自分の口から妙な笑いがこぼれた。
「ふは、はははっ、ははははははっ、ははははははははははっ」
 もうわけがわからない。現実味がなさ過ぎて夢か何かと疑いたくなる。
 次の瞬間、男は何食わぬ顔でサバイバルナイフを取り出した。
「ふふふふはははははははははははっ!!」
「あ——っはっはっはっはっはっ、何それははははっ、ははははははははっ」
 ひょっとしたらひょっとしなくてもサバイバルナイフじゃないかもしれないけど、実はバタフライナイフとかダガーナイフとかテーブルナイフとか、まあつまりどれであれナイフなんだけれど。
 その刃先は、間違いなくおれに向いていた。
「ぶっ、ふふふふははははははっ、はははっ、あ————っはっはっはっはっはっはっ……」
「唯一くん、何がそんなにおかしいのかな?」
「だって、だって——ぶふふははははははっ、ナイフ、ナイフって……!」
 超危険じゃん!
 刺されどころによっては腸危険じゃん!
 笑える。
 いや待て待て。どこからおかしい? 朝起きたらリビングで見ず知らずの男がゲームをしていました。まずここで疑問ね。不法侵入とかその他もろもろね。あ、だめだ。おれ不法侵入と器物損害罪くらいしか知らねえじゃん。小学生並みの悲しい知識。もっといっぱい知ってろよ。暴行罪とか公然わいせつ罪とか、もうこんくらいじゃん。
「喰らえぃ!」
「ぐはッ」

 ブラックアウト。視界が真っ黒に染まり——そこで終わった。


 今朝見た夢が。