コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第一章 過去からの逃れと二度目の出逢い (8) ( No.24 )
日時: 2011/03/24 10:07
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)



「……ジュピター様、やはり“あれ”はヴィーナス様の仕業の様です」

 王座に踏ん反り返って座るジュピターに片膝をつき、頭を深々と下げている人物が居る。この場所は——天界——神と天使だけが住む世界。その空間は清潔で平和、争い事など何百年も起きた試しが無かった。しかし、この度ヴィーナス——愛と美の女神——が——地上界——人間の未来を書き変えた疑惑がかけられたのだ。しかも今やたらと問題が多くて神々が頭を抱えて悩んでいる“日本国”の。神々の仕事は地上界の秩序を保たせることだ。それ以上に難しいことはないだろう。

「そうか……やはりお前がは八年前に観た者に間違いはなかったか。マーキュリーよ、引き続き地上界で未来を書きかえられた者たちを見張れ。あやつらが地上界に与える影響は未知数だからな」

 ジュピターはうな垂れながら神々の使いの神に命令をくだす。しかし、ヴィーナスは頭を上げると一つの疑問を投げかける。

「ジュピター様……ヴィーナス様の処分はどうするのですか?」

 マーキュリーは自分が触れてはいけない事だと分かりながらも聞かずにはいられなかった。マーキュリーにとってヴィーナスは一番大切な者、一番思い入れのある神だったからだ。しかし、今は裏切り者でしかない。心が引き裂かれるような感覚に陥る。

「それは後に考える。……それよりも今は地上界だ。このままでは“日本国”は滅びるぞ。」

 ——秩序が保てなくなった国は滅びゆく——ジュピターはそれ以上多くを語ろうとはしなかった。マーキュリーはあきらめ最後に一言を残す。

「ジュピター様でも一度書きかえられた未来は直せないのですか……日本国はもはやコントロールは不可能だと言うことですね」

 マーキュリーは立ち上がり、一礼をしてその場を去った。そのあと、ジュピターが拳を強く握りしめたのは言うまでもない。神々の首でも、もはや日本国の秩序は保てなかった。

 外に出れば中に居た天使の護衛もなく、緊張のいとも簡単に切れた。マーキュリーはゆっくりと振り返る。ジュピター達、神が住んでいる硝子の豪邸は内装はもちろん、外見にも宝石の装飾が施されていた。マーキュリーが慣れないのは自分が——神々の使いの神——神の配下につく神だからと思っていた。神だったら普通は地上界に行くなんてありえない。地上界には危険しかないと天界では語り継がれているからだ。

「図に乗りやがって。……俺だって神なのに」

 唇を尖がらせながら周りで騒いでいる天使たちに聞こえないくらいの声で言う。告げ口をされたらたまったものじゃないからだ。そしてまた、地上界に降りる準備をするために自分の家へと歩みを進める。
 
 家に帰る途中に幾人かの天使とすれ違ったがこちらに気づいたようで、微笑みながらお辞儀をしてくれたのでマーキュリーの心は落ち着いていた。とは言っても、神は天使より身分が上なので当たり前の行為なのだが。
 森が覆い茂る森を歩いて行けば木漏れ日が程良く差し込み、小鳥のさえずりがあちこちから聞こえてくる。森を抜ければ一つの小さく、質素な家が見えてくる。屋根は赤く、外壁は茶色でレンガを基調として作られていた。地上界でもありそうな家だった。マーキュリーは迷うことなく中に入って行く。

 中も相変わらず質素だったが、入ってすぐにある左の壁の鏡の前に置いてある宝石がきらびやかに光っていた。マーキュリーはゆっくりと鏡に寄って行く。しかし、宝石を観ると悲しげに瞳を伏せ、鏡の下にある小物入れへとそれらを突っ込んでしまう。そして頭をぶんぶんと軽く振り、側にかけてあった地上界で手に入れた黒いスーツを手にとり、着替える。マーキュリーが今まで着ていた服は、やはり地上界の服とは違うオーラを放っていた。

「早いとこ行きますか……また小百合さんが困っているかもしれない」

 マーキュリーは意味のわからない呪文を唱えると鏡の中に吸い込まれる様に入って行った。