コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (1) ( No.28 )
- 日時: 2011/04/03 15:22
- 名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)
太陽が地平線からひょっこりと、顔を少しだけ出している。カーテンの隙間から漏れた太陽の日差しで、由羅はうとうとしながらも目を覚ます。上半身を起こし、手を上に上げ、思い切り伸ばす。それと同時に小さい口を開けて欠伸をする。部屋を見渡せばいつもと全く変わらないシンプルな場所。テーブル、椅子、そして今、由羅が乗っかっているベッド……生活するのに必要な最低限の物しかなかった。
由羅は耳を研ぎ澄ます……何も音はしない。良かったと心の中で思いながら、軽く胸を撫で下ろす。ベッドから足を出し、足先が冷たそうな床に触れるとビクッと震えた。思った通りひんやりとしていた。仕方がなく我慢しながらも足をつき、立ち上がる。パジャマ姿のままドアを開け、そっと部屋を出る。一番右端の部屋から直ぐの隣の部屋へと向かう。少し緊張しながらも呼吸を整え、優しくドアを二回ノックする。しかし中からは誰も出て来ようとしない。由羅は軽くため息をつき、シックな銀色のドアノブに手をかける。
ドアノブに力を入れた瞬間、中からジリジリジリジリと目覚まし時計の音が響き渡っているのが聞こえてくる。少しびっくりしたものの、ドアノブから手を離しホッと安心する。しかし、目覚まし時計は直ぐに止まったものの、中の人物が出て来る気配はない。由羅は大きなため息をし、ボソッと独り言を漏らす。
「困ったな。いくらパートナーとは言え、女の子の部屋に入るのは……まずいよな」
しばらく待っていたがいっこうに出て来る気配がない。流石の由羅も痺れを切らし、中に入っていく。頬を赤くしながらも、少女が寝ているオレンジ色のベッドへと近づいて行く。ベッドを少し覗けば、少女は気持ち良さそうにスヤスヤと寝ていた。
「楓……楓、起きて。朝だ」
優しい声を少し張り上げながら楓に声をかける。楓は一瞬ギュッと目をつむったが、左目をパチッと開く。その瞳に由羅がカーテンを開ける姿をぼんやりと写り、しばらくして状況を判断すると勢いよく上半身を起こし、叫ぶ。
「マ、マスター!! 何で私の家に!? と言うより何で私の部屋に!?」
由羅は五月蝿そうに耳を両手で抑えていた。しかし、由羅は何か観てはいけなかったものをその瞳に写してしまった。だんだんと顔の表情が曇っていく。そして楓の質問とは裏腹に楓の顔を、右目を覗き込もうとする。
「楓…………君の右目見せて」
その顔は何故か険しく怪訝そうで、心配しているような表情だった。
「へ? ……な、何でもないですよ。“ただの”怪我ですから心配しないで下さい」
楓は今さら気がついたように右手で右目を覆い隠し、何かを隠すように笑う。そんな楓を見透かすように、鋭い目で見つめると視線をベッドの隣にある棚の上の眼帯へと移す。そして瞼を閉じ、長い沈黙が訪れる。楓が震える唇から何かを発しようと、少し吐息をもらしたときだった。
「それなら良いけど……何かあったら話してね。それじゃあ準備が終わったら一階に降りてきて、俺も着替えたら朝食の準備するから。良いね?」
次の瞬間に開いた由羅の瞳は実に優しかった。楓が素直にコクりと頷くと、由羅は落ち着いた足どりで出て行った。楓は由羅がドアを閉めるまで視線をずらせなかった。そして枕をギュッと両手で抱きかかえてしまう。溢れだすのは“好き”な気持ちと……“罪悪感”“寂しさ”それがどうしたら無くなるのか、今の楓には考えることがなかなか出来なかった。
由羅が出ていくと楓は直ぐさま左手に眼帯をとり、両手で握り締める。顔を俯かせると長く伸びた髪が楓の表情を隠してしまう。
「マスターにさえ話せない」
楓の寂しげな言葉が太陽の日差しが差し込んできた部屋に取り残されていた。