コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第一章 過去からの逃れと二度目の出逢い (1)  ( No.3 )
日時: 2011/03/13 23:24
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: Qouiw0Af)



カーテンを開けて息をたっぷりと、味わうように吸い込む……二日ぶりに浴びる日差しが翡翠の目に差し込み、いつにもまして、眩しく感じられる。黒いショートパンツを履き、薄水色の生地の服にそでを通し、その上にまた黒いコートを羽織る。長いカスタードクリーム色に近い髪を頭の高い位置でポニーテールに束ねる。ちらりと鏡を観て、鏡の前にある台から黒い眼帯をとり、慣れた手つきで右目にあて、頭の後ろで綺麗なリボン縛りをする。そして当たり前の様に鞘に入ったきらびやかに輝く長剣を慣れた手つきで右肩に掛ける。

 今日、これから神風楓は騎士として主様をお守りします。


——八年前——


「お母様!! 行ってきます」

 元気な楓の声が玄関いっぱいに響き渡る。その声を聴いて駆け付けた楓の母親らしき人が微笑みながら赤いエプロンの裾を持ち、小走りにやってきた。年齢は三十歳前半で可愛らしく整った顔立ちが外見を若くさせている。楓と瓜二つだった。二人が居ることでその場が華やかで、柔らかい雰囲気を醸し出す。

「気をつけて来てね。行ってらっしゃい」

 楓はその言葉に照れくさそうに笑いながらコクリと頷いた。楓は今年で七歳になる。そしてこの年は運命を決める大切な日であった……——『主』又は『騎士』になるのかを決める日——しかし楓の道筋——運命は——決まっていた。楓の家系は代々『主』の一族なのだから……

「お友達、出来るかな?」

 不安という言葉はなく期待という言葉に胸を弾ませ、ここで言う小学校の様な場所へと向かっていた。鼻歌交じりにスキップしながら道を進んでいると目の前に驚きの光景が視界いっぱいに広がった。

「……うわぁ、人がいっぱいだよ」

 そこには楓と同じ年頃の男の子や女の子がいた。そこに居る子たちは二種類に分けられた。動きやすそうなTシャツやトレーナー、ジーンズに身を包む子。もう一種類は動きにくそうなきちっとしたスーツやワンピースに身を包む子……楓もその一人だったが。

「楓も掲示板見に行かなきゃ。何処のクラスかな?」

 きょろきょろと探しているうちに自分の掲示板が見つかったらしく、顔を嬉しそうにほのかに赤く染めながら、動きにくいにも関わらず小走りで駆け寄る。

「見、見えない……」

 楓は小柄なため、目の前は背の高い人の頭しか見ることが出来なかった。しかし小柄な体系を生かして人の間をかいくぐる。周りの人は楓が割り込んできたことにも気付かずに我先にと人を押しあっていた。少し窮屈だったが気持ちが前へ前へといき、目を輝かせながら見つめる。

「えっと6824は……」

 楓は自分の持っていた紙切れの番号と掲示板の番号を照らし合わせ、1から目で追いついに6824まできた時に最悪な悲劇は起こった。

「な、何で? ……ない」

 楓小さく驚きの声を上げ上空にあげていた右腕をだらりと下げ、紙を持っていた右の拳をギチッと握りしめる。そこには楓の番号が無かったのだ。


——


 そこまでの記憶が鮮明に走馬灯のように楓の頭を駆け巡った。楓の息は上がり苦しそうに肩を上下させ、胸のあたりの服をギュッと掴む。楓は自分に言い聞かせる様に案じをかける。



 ——過去に捕われるな——


——


 今、考えればこれは悲劇と言うより過酷な運命と言った方が正しいのかもしれない。運命なんて所詮は帰ることが許されない。それに出来ない……いや、もし……もしもこの世に存在するものでそれが出来るのは——神——と呼ばれし者たちだけかもしれない。しかし、神でさえも運命を変える代償は大きかった。——堕天——もう二度と神には戻れなくなるのだから。