コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第二章 ただ誰も傷つけたくなくて (3) ( No.34 )
- 日時: 2011/04/03 15:27
- 名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: rLJ4eDXw)
「“魔獣”……確か数年前に憲法で禁止されたはず!!」
楓は信じられないというように小さく声を上げ、口に震える手をあてる。由羅はさっきより鋭い視線になり、睨みつけているようだった。
“魔獣”それは地球上に存在する生物と魔力を融合させて造られた存在だった。ペットとして可愛がる者もいたが、何か新しい事が起こると悪用する者も必然的に出て来るのだ。主にそういう奴らは、強い生物と強い魔力を融合した存在を戦争などで利用していた。それまでならまだ良かったのだが数年前に、コントロールが効かなくなり暴走し、罪のない者を何百人も殺めてしまうという事件が起こったのだ。それから国で話しあった結果が憲法で“禁忌魔法”として認定し、魔獣を禁止したのだった。
「何故今になって……一体誰が? この魔法を使えば“死刑”だぞ」
由羅は考え混むようにテーブルに肘をつき、集中するためかテレビの電源を切ってしまう。楓は見事に朝食を完食していたが、由羅がパンを一欠けら残しているのを見ると、おもむろに手にとる。そしてそのパンを、周りがまるで見えていない由羅の口に詰め込む。
「ふ、楓!! い、いきなり何するのさ!!」
由羅は咳込み、瞳をほんのり赤く、潤ませながら楓に尋ねる。しかし、当の本人は答えるつもりがないのか少しムスッとしている。そして一番伝えたい事を大声で怒鳴る。
「考えるのは構いませんが、ちゃんと朝食取ってからにして下さい。じゃないと頭働きませんし、それに食べ物は大切にしなきゃ」
楓は言いたい事を全部言い切り、少し疲れたのか安心したのかため息をつく。由羅は口を小さく動かしながら、ぽかんとした表情で楓の顔を見つめていた。そして由羅の中で何かが弾けたのか笑い出す。
「楓の言う通りだね。これからは気をつけるよ」
そう言う由羅は笑い続けていたが、瞳だけは少し真剣さが見て取れた。楓はやっと表情を緩ませ、いつも通りの楓になる。
「食べ終わりましたし、片付けますね。用意はマスターがしてくれたんで片付けは私がします」
由羅は感謝の気持ちも込めてなのか、微笑みながら頷く。楓が手に食器をいくつか取り、台所へと運んでいく。全て運び終わると食器に水をためて汚れを落とす。皿の上にたまった水の水面が綾を描く。おもむろに楓がそこに手を入れると綾が崩れる。そんな光景を見ていると昨日の由羅の言葉が思い出された。“俺の事守らなくていいから”あの言葉を聞いた時、楓はあまりの驚きに、声を出すことさえ出来なかった。その時の由羅の声のトーンは低く、言葉にもどこか鋭さがあった。楓がやっとの思いで声を出そうとした時には、楓の知っている元の優しい由羅に戻っていた。なのであんまり考えないようにしていた。きっと聞き間違いだと心の底から信じたかった。しかし、あの言葉、声が耳にこびりついて離れなかった。そして一人の空間になると考えてしまう。でも後にこの言葉に込められた、意味を知ることになるのだ。
「楓……どうかした?」
由羅が頭を上げ、流し台にいる楓に視線を向ける。楓は一瞬体をびくっと震わし、呼吸が荒くなる。自分が考えていた事を抹消し、平然とした面持ちで振り返る。
「何でもないですよ。ただ水が少し冷たかったんで……」
苦笑いしながら指先が少し赤くなった両手を由羅に向ける。由羅は少し口の端を上げ、にこやかな表情になる。そして綺麗な唇を開く。
「それならいいんだ。ところでさ、今日せっかく土曜日なんだしどこか出掛けない?」
由羅にどんな意図があるのか分からないが、楓に都合を尋ねる。あまりに急の提案だったので、楓は瞳を見開きぽかんとした表情をする。どう答えたらいいのか分からず、俯いてしまう。そんな楓を見た由羅は眉を中央に寄せ、口を少し尖んがらせる。
「俺とじゃ嫌?」
「い、嫌じゃないです。行きます、出掛けましょう」
楓は勢いよくぱっと顔を上げ、由羅の言葉を全面的に否定する。そんな楓の表情は嬉しそうだが少し照れていたのか頬が桃色に染まっていた。しかしそんな気持ちとは裏腹に、あの言葉が不安でもあった。
すると楓は小さく声を上げ、疑問に思った事をおもむろに聴く。
「マスター、どこに出掛けるのですか?」
楓には思い当たる節が全くないので、逆に楽しみなのか瞳を輝かせながら尋ねる。問われた本人の由羅は考えるかのように視線を白い天井に泳がせる。そして考えついたのか、視線をまた楓の方に向ける。
「この辺り来るの初めてだよね? だったらオススメの場所があるから連れてくよ。楽しみにしてて」
由羅は微笑みながら楓に告げる。楓も満面の笑みを広げ、頷く。その合図を元に由羅は立ち上がり、自分の部屋に行き準備を始めようとする。そして階段の上り途中で楓に声をかける。
「楓は食器洗ったら準備して」
「急いで洗いますね」
楓はスポンジにオレンジの香りの洗剤をつけ、食器を割らないようにしながらそれでも急いで洗い出す。そんな楽しそうな会話がいつまでも絶えない事を、願わずにはいられなかった。