コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第一章 過去からの逃れと二度目の出逢い (2) ( No.4 )
- 日時: 2011/03/08 15:41
- 名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: Qouiw0Af)
楓は自分の部屋ら出て、出掛ける為に玄関へと向かっていく。楓の部屋は二階の一番奥にひっそりとまるで隠されているようにある、なので二つの部屋を通り過ぎ、階段を下りる。そして一階の一番奥の部屋、つまり楓の真下の部屋で立ち止まり何故か重たそうに口を開く。唇が渇き、わずかに震えていた。
「……行って来ます」
部屋に居ると思われる母に今にも消えそうな声で告げる。しかし、母からの返事は帰ってこなく、相変わらず部屋からは物音ひとつせず静かだった。
楓は心なしか顔を少し寂しそうに歪ませ、歩み出す。楓が一歩歩くたびに廊下の床が軋み無音の世界に響き渡る。玄関に着き、お気に入りのこげ茶色のブーツ丈の長さの皮靴に足をそっと音をたてないように履く。表情は相変わらず暗く澱んだままだったが、靴をはかせている両手が小刻みに震えていた。
その時、楓は何かに弾かれたように瞳の視線を左足に履きかていた靴ではなく、真直ぐに玄関のドアに視線を合わせる。そしてそのままの視線でゆっくりと振り返る。
「お、お母様……」
フット息を漏らすような、そんな声で今目の前に居る人物が視界にくっきりと写り瞳を見開く。そして数秒の間、お互いの瞳が自分の瞳に映り合う。しかし、楓が視線をそらす前に今目の前に居る人物——母——が先に瞳をそらす。その行為に楓はわずかにだが唇をかみしめる。
「貴方の忌々しい顔と私の瞳を合わせるのは何年振りかしらね……『貴方がいなければ』覚えてる? 私が貴方に泣き叫びながら最後にいった言葉よ……なのに何で? 何で私の目の前にまだいるの?」
瞳をつり上げ、凍らせながら平然とした口調で楓の心を粉々に……それとも楓の心がないと思っているのか母とは思えない台詞を吐き捨てる。
「ごめんなさい……でも心配しないで下さい。安心して下さい、もう二度とお母様の前に私は現れないから……本当はもっと……幸せになってもらいたかった——私が居ることで不幸になる——」
楓は涙声を必死に絞りだし、七年間伝えられなかった想いを短い台詞で母の胸に響かせる。一瞬だが拳をグッと握りしめ、そして先ほどとは打って変わり玄関の泥で汚れてしまった左足の靴下をチラッとだけみて戸惑わずに靴に一気に突っ込む。
肩にかけてある刀をそっと包みこむように撫で、勢い良くドアを開き身体を投げ出した。周りの様子が見えないくらいに早く走る、走る。涙が耐えきれずに次々と溢れだす。それが頬に流れ髪がまとわりつくのも気にせずにさらに速度を上げ走る。しかしだんだんと速度を下げ、立ち止まる。楓の耳には届いていた。
——家伝の……家伝の歴史を汚した悪魔が——と泣き叫ぶように怒鳴る声が耳にこびりつき離れようとしなかった。
楓は顔を見上げる。空は恨みたくなるほど、鮮やかに鮮明に晴れ渡っていた。太陽の光がそっと楓の頬に触れ、涙をそっと乾かしていった。風が楓をなだめるように、ふわりふわりと優しく包み込んで行った。