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第三章 途切れない導きの連鎖 (9) ( No.69 )
日時: 2011/08/22 11:37
名前: 黎 ◆YiJgnW8YCc (ID: WbbkKfUP)



なんとか精神を保てている楓は、中庭へと向かう途中ずっと喋りっぱなしで、いかに無理しているのかが由羅にもひしひしと伝わってきた。

「そろそろ中庭ですね…………うわぁ、綺麗な花」

 中庭の辺りまで近づくと、廊下に所々ある窓から赤やピンクやオレンジ色の暖色系の花々が目をとめるようになる。そして春らしいふわりと暖かい風邪が吹く度に、香りを遠くまで運んでいく。
 楓の後ろを歩いていた由羅も窓に目を向けるが、どこかぼんやりしていた。他人をここまで気にする事なんてなかったはずなのに。

「……楓と母さんは似てる。だから不安になるんだ」

 由羅自身がその失態に気がつくまで、数秒かかる。楓は何故か横目でちらっと由羅を見ただけで何も言わなかった。
 なんとなく楓にも分かっているのだと由羅は思う。しかし“そうなった出来事”を話す気には、とてもじゃないがならなかった。

「着きました。中庭って言ってもだいぶ広いですね」

 楓は驚きを顔ににじませながら中庭へと足を踏み入れる。由羅は自分の不甲斐なさに歯痒くなり歯を強く噛み合わせる。
 一階の真ん中にある中庭は圧倒的な大きさを誇っていた。屋根は透明で頑丈なプラスチックで出来ている。中庭一面を覆い尽くす人工芝は長さがきちりと揃えられ、花々の葉には虫食い穴一つ見られない。
 そして何と言っても目をひくのが巨大スクリーンだった。映画館までとはいかないが、中庭の外壁に吊されたスクリーンは生徒の視線の的だった。
 そうこうしている内に全ての生徒が中庭に集まり、寄り一層騒がしくなる。

「皆さん、お静かに」

 年配の男性教師の落ち着いた声が響き渡る。その声に反響するようにして段々と静まり返る。

「それでは校長より挨拶を」

 男性教師はそう言うとスクリーンに電源を入れ、端による。
 プツンと言う音と共に、スクリーンに一人の人物の顔が映る。

「生徒の皆様おはようございます。そしてはじめまして、今年より校長に着任しました“島浜美羽”と言います」

「マスター……あの人綺麗過ぎませんか?」

 辺りはがやがやとしだす。これが不細工な人だったら皆静かに、内心愚痴りながら聞いていただろう。しかしそうではない。若い上に金色で緩くウェーブをうった髪を持ち、透き通るような白い肌、極めつけは空のような青い目だった。一瞬見ただけで外国人だと誰しもが分かった。

「生徒の諸君、まだ話しは終わっていない」

 自分の時の反応の違いが少し不愉快だったのか、声色がいらついている。
 校長も静かにすることをアピールするように、人差し指を唇にあてる。
 楓は返事が返ってこないので、視線を由羅へと向ける。由羅の視線は校長に釘付けで楓は少しムッとしてその場から立ち去ろうとする。

「何だ、何か変な感じがする」

 楓が一本踏み出した瞬間由羅の戸惑った声が耳をかすめる。
 それと同時に校長は話し出す。三人の動作が一致したことに少なからず楓は驚く。

「マスターどうしたんです? 具合が悪いのでしたら保健室に……」

 楓は由羅に駆け寄る。周りは校長の話しを黙って聞いていた、否、あともう二人を除いてだが。

「いや、何でもない。」

 これ以上楓に重荷は背負わせられないと無理に笑みをつくり、校長の話しへと耳をかたむける。
 楓は納得のいなかい表情を浮かべはしたが、並んで校長の話しを聞く。

「さきほど言ったように、私も今年からこの学校に来たので至らない事もあると思います。でも精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。この度は本当におめでとう」

 校長が頭を下げるとスクリーンの電源が切れる。

「このあとは教室に戻り、各自の先生の指示に従うように、それでは解散」

 その言葉によって静けさは破られ、明るくがやがやとした声でうめつくされる。きっと大抵の者たちの話題は美人校長で持ち切りなのだろう。

「マスター戻りましょう」

「うん……にしてもあの校長は美人だな」

「えっ!! やっぱりマスター見とれてたんですね」

 楓はジトッとした目で由羅を見る。由羅はそんな楓を見てプハッと笑う。

「違うっ「お前、楓だよな」」

 由羅の穏やかな声とそれとは正反対の冷たくて棘のある声が重なる。

「時雨だ。お前を殺しにきた」

 楓の幻は砕かれる。それと同時に逃げられない戦いが始まる。