コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 古本少女! ( No.2 )
日時: 2011/03/29 21:24
名前: 月読 愛# (ID: OJbG5PHc)

第一章 


僕は昨日の出来事が本当だったのか信じられなくなってきていた。
そりゃあ現実的にはありえないしからかもしれない。
でも、しっかり証拠は残っている。
「う〜む」
記憶の矛盾が混乱を招く。
しかし……あの少女、古本少女の担い手になったんだっけ?
一体何をするんだろ。
不安しかない。そんなことを考えながら時は流れ……なんて都合のいいことになるはずもなく、僕は最悪な展開に陥っていた。



 朝、いつものように登校していた。
春から夏への移り変わりの季節で、桜なんかはとっくに散ってはいたが、その面影が草の陰に隠れていたり……
僕は意外と自然が好きらしい。
 この並木道が拓けると、いつものように待っている。
「おはよーみなとぉ〜。元気してた? な〜んて、いつも会ってるのにねぇ、ふははははぁ!」
「……」
 こいつは僕の幼馴染、桜木 ののか(さくらぎ ののか)。
ふざけた性格のやつで、家が近いことからずっと一緒にいるのだ。
なんだかんだで十年以上の付き合いだ。
だからといって、少女マンガのような展開には発展しないぞ。
 しかし、こいつはこいつで結構凄いヤツではある。
 外見は子供っぽいが、スタイルはいい方だし、実は頭脳明晰だったりする。それに加え、運動神経、友好関係なんかも万能なもんだから
男女関係なく人気なのである。
まぁ下心のある男子のほうが多いのが現状だが……
 そんなすばらしい幼馴染をもつ僕はというと、どうもしっくりこない、いわゆる『平凡』をモットーに生きてる人間である。
長い付き合いを重ねた今でも、ののかの隣にいる自分が嘘に思える。
改めて言っておくが、決して恋愛対象にはならん。
いつもどおりに進む。
「ねぇ、みなとぉ」
「? なんだよ」
「ん……あのね……」
珍しくもじもじし、俯くののか。どうしたんだこいつは。
「どうしたんだよ。具合でも悪いか?」
「ううん……あのさ、湊ってどんな子がタイプなの?」
「はい?」
どうやら僕の口癖はこれかもしれない。
なんてのは今は関係ない。
なんでこういう展開になるんだ。今まで恋愛感情すら持ったことのないこいつから、『どんな子がタイプなの?』なんだよ、この
嫌な空気は。
「どうしたんだよ、いきなり。知ってどうするんだよ。あ、あれか?
お昼の放送インタビュー的なのでネタにするのか?
なんだよ、それなら言ってくれればいくらでも……」
そこまできて、勘違いだと気付く。ののかは真剣な表情をしていたからだ。
「湊?」
「え、ああ、えっと……僕は……」
「ジャスト三分か」
「な!?」
軽くいい感じだった二人の空間に、またもあいつは颯爽と現れる。
「なんでお前がここに?ってか、どこから」
「?」
「?」
あいつは、はぁ?というように表情を以前のように歪ませる。
代弁するかのように、ののかが話す。
「何を言ってるのよ、湊。霜月さんでしょうが。ホント失礼だわぁ。
クラスメイトなのに」
「クラスメイトだって?こいつが?僕たちと?」
「うん。え、まさか湊まだみんなの名前覚えてないのぉ〜?
もう入学から二ヶ月たつのぃ〜。細胞大丈夫?」
「お前今さらりとひどいこと言ったな」
「って言ってる間に遅刻まで後十分!ここからは、ダッシュでいきまっしょ〜い!わー!」
子供のようにののかは学校への坂道を駆け下りる。
僕と……霜月 そら———古本少女も後に続く。
その間、僕たちは一言も話さず、ただ走った。
理由は存在しないが、なんか話しちゃいけないと思った。

僕たちはギリギリで校門へとスベり込み、霜月はというと、すんなり門をくぐっていた。ここの生徒と認識されている証拠だ。
どうなってるんだよ……。
溜息をつき、教室へ向かおうとしたすれ違い様、霜月は囁いた。
『放課後、中庭で。』
きっと担い手がどうのとかいう話なんだろう。
僕は特に返事もせず、そのまま教室へと足を進めた。



 これがなんで最悪か?ここからだよ。



教室は特にいつもと変わったことはなく、やはりいつもどおりだった。
しかし、違和感といえば、普通に霜月はクラスメイトと挨拶なんかしながら、自席であるらしい廊下側の一番前に座る。さらに、 
いつもみんなの中心で騒いでるののかだけが、
ただ流れる雲を見つめたまま、ぼーっとしていた。
またヘンなことでも考えてるのかと僕は思ったりしたが、
異変に気付く。
まるで見世物の人形のように、静かにその存在を消しているかのようで、その表情は、なぜか寂しそうに見えた。
朝のことと会わせてみても、様子がおかしいのはあきらかだった。
何て話しかければ……。
もし、深刻に悩んでいたら、ハイテンションは場違いだ。
でも逆にあいつだけの世界での悩みだったら、暗いのはNGだ。
「湊くん」
「はい?」
「おはよ」
「おお」
悩みから解放してくれたのは、隣の席の、榊原 亜美(さかきばら あみ)であった。
委員長という肩書きを持ち、要は要領がよく、責任感が強い。
来年は生徒会長に立候補したいとか……物好きもいるもんだ。
「ねぇ、考えてくれた?」
「あーその……僕はちょっと……ごめん」
「そっか……残念。湊くんならなってくれるとおもったんだけどなぁ、
副生徒会長」
この会話で勘違いをした人はすまない。最初のほうで説明したとおり、僕は平凡な人間なんだ。
だから、委員長キャラに告白されるなんざ、そんないいことは
一生ないと思う。
 榊原とは中学時代の塾が一緒で、仲良くなった。
親しい友達がみんな違う高校へ行ってしまったらしく、知り合いは僕だけだとか。
まぁ新しい友達もぼちぼちいるらしい。彼女のことだしな。
「でも、私まだあきらめないからね! また誘うわ」
そう言って榊原は天使の微笑みでどこかへ消えた。
ふとののかのことを思い出し、窓際に振り向く。
彼女の姿はなかった。
「っ!」
声にならない驚きをかくしつつ、でも心は動揺していたが、なるべく冷静を保とうとした。
廊下へ出ると、ののかは中庭へと続く階段を降りているところだった。
こんな時間にどうしたっていうんだよ。
とりあえず後を追った。
 ののかは、まるで誰かを待っているかのように、ゆっくり木の下のベンチに座り、教室にいたときのように、
ぼーっとまた空を見つめていた。
本当にどうしたんだよ。
僕は声をかけようと近づいた。そのとき、
「うわっ!」
すごい強風が目の前を駆け抜けた。砂埃がすごい。
なんとか目を守った僕は、そっと辺りを見回した。
ののかが座っている前に、見覚えのある容姿があった。
指をぱちんと鳴らし、同時にののかはベンチに倒れこむ。
「な、何したんだよ今!」
僕は思わず彼女のほうへ歩みよった。
彼女は淡々と告げる。
「実験だ」と。
「実験?」
「そうだ。薬とかいう危ないものではないから安心しろ。
古本の管理人として、人の心を操ることを身に着けなくてはいけないのだ。これは担い手が自分にあっているときのみにしか、出来ないこと。
つまり、あたしは今、お前のことを試してみたのだ。
本当に担い手にふさわしいのかどうかをな」
「今のは成功したってことなのか?」
古本少女は一度ののかに視線を落とし、言う。
「ああ。しかも、お前の父親のときより、正直容易い。
この意味がわかるか?」
———僕は担い手にふさわしい。
「その表情は理解しているようだな。結構」
少し悔しいのか、さっきから下唇を軽くかんだりしていた。
その行動が、なんだかとても嬉しかった。
身内であるとはいえ、実の父親に能力で勝ったのだ。
そう伝わってきたからである。
「そういえばさ、朝言ってた放課後に中庭ってのは、今じゃダメなの?」
古本少女は迷ったあげく、戻ってきたのは長い溜息だった。
何だよ……。
「放課後は、放課後。また違う話があるの。今は、今。
桜木さんを連れて、そろそろ教室へもどらなきゃでしょ」
「あ、そっか。ごめん」
まだホームルームがあったんだっけ。
設置されている時計に目をやると、針は八時半を差していた。
授業開始は五十分からで、ホームルーム自体は結構遅刻者がおおいし、
担任も案外マイペースで遅刻しても特に何も言わない。
のんびり教室へ行けそうだ。
それはさておき……
「なあ」
僕はののかに手をかけていた古本少女に話しかける。
「何よ。なんか今妙に馴れ馴れしかったわよ」
「ああ、そうかい……。  あのさ、朝ののかがヘンだったのってお前の仕業か?」
朝の?と首をかしげる彼女。話さなければこんなにいいのに……
じゃなくて、返事、返事。
「違うのか?」
「……なんであたしの仕業だと考えたの?」
「え?」
いきなりの質問返しに戸惑う僕。
「え、えと、なんか朝いきなり現れたのとか……とか……とか……」
「朝いきなり現れただけで、あたしって決め付けるのは、担い手としてどうかと思うわ」
「ご、ごめん。じゃあ違うんだ」
「いいえ、あたしの仕業よ」
「だったら初めから言えっての!なんで遠まわしにしたんだよ!」
「だって……ばれないつもりだったのに、当てられちゃったから、その……悔しかったのよ!」
「……」
黙る僕の態度に不快を覚えたらしい。
「馬鹿!」
言い捨てて、彼女はののかをひっぱって走っていってしまった。
そこで一限を知らせるチャイムが鳴る。
「て、僕も早く行かなきゃじゃないか!」



で、今の状況に至るわけだ。今は無事……でもないが、なんとか休み時間にたどりつけているが、一限は結局間に合わず、最悪にも生活指導の先生お授業であり、みっちりと指導が入った。
課題プリント五枚ゲットだ。霜月は相変わらずクールな様子で、黙々と問題を解いていた。
もちろん、ののかもいつもどおりに戻り、超高速で解いていた。
二限は自習だったのだが、隣の委員長である榊原がしつこいほどに
また勧誘をしてきて、避けたと思ったのもつかの間、次は斜めの友人から折りたたんだ手紙が回ってきた。
開くと、コンピュータが打った字のごとく、達筆ともいいがたい文字で
しかしきっちりとした、A型!というような字で送り主を見ると、
そこには”霜月 そら”と書いてあった。
意味ありげにこの手紙のルートに使われた人たちの視線が僕にチラチラと注がれる。
きっと中も見ているだろう。
とりあえず、内容はこうだ。
『さっきのことは忘れて。深い意味はない』
……。
なんだこれえええええええ!
なんか知らない人が見たら、ってか見ちゃったわけだけど、
高い確率で勘違いされるだろ!
だからこんな微妙な視線の向け方なんだな。よく分かった。

てな訳で誤解をとくのに必死で、なんだか過酷な一時間だった。
さらに三限。意外と順調に進んでいたんだ。
事件は残り十分というタイミングで起こった。
教科は数学。もう少しで一回目の模試があるとかで、
先生は生徒以上に気合が入っていた。
先生の紹介をしよう!(え
生徒からはハゲ山と、どこかのキャラにいそうな愛称で呼ばれている。
もちろん、生徒の間のみでの共通語だ。
本名は禿屋 誠(はげや まこと)
由来は分かっていただけただろう。
ありきたりだが、頭はもの寂しい。まぁこれは先生自身も認めていて、
笑いのネタにしている。
おもしろくないが……。
話を戻そう。
そのハゲ山は額に汗を浮かばせるほど、一生懸命に授業をしていた。
言い忘れていたが、この桜霞高校は進学校で、少しレベルが高い。
毎年成績が伸び続けているとかで、今年も僕たち一年生にプレッシャー
をかける。
僕は真ん中という成績、何度も言うが平凡なため、あまり期待はされないが、幼馴染であるののかや、やっぱり凄い霜月は先生たちの期待生徒に選抜される。
そのため、自然といつも一緒にいる僕の名前もインプットされるらしく
かろうじて信頼はされている。
なんて情けないんだ、僕は……。
だから、僕は失敗だけはしないようにと心がけていた。
ただでさえかろうじてなのに、失敗なんかしたら、きっと
終わってしまうだろう。そう考えていたからだ。
 なりそうなお腹を必死で抱える生徒が増え始めた。
運命のあと十分になった。
その時、僕に問題を解け、という指名がかけられた。
僕は、軽く返事をして、黒板へと向かう。
そして問題を確認し、正確に答えを解いていく、ハゲ山はうんうんと
よく意味の分からないうなずきを繰り返しながら、
僕が解くのを見ていた。生徒は各自、問題集やらなんやらに取り組み始めた。
そこで僕は問題を解き終わった。
「はい。正解だな」
ハゲ山は赤チョークで大きく○を書く。
おおげさな……
でも、無事にこの時間こそは終わりそうだ。
そう安堵した瞬間、教卓の角に僕のブレザーの裾が引っかかり、
バランスを崩してしまった。
ヤバイ!
思ったときには遅く、ハゲ山の大切な大切は唯一の上部分の髪の毛を
つかんでしまっていた。
のーおおおおおおおおおおお!
絶句。
ぷつっと儚い音をたてて、やく四十名の生徒に見守られ、
ハゲ山はただのハゲへとその名を変えた。
その後はお察しのとおり、ひどく叱られたよ。
ああ、あの二人のおかげでなんとかやってたのに、
なんか、僕終わるかも。いや、終わった?
もうわけが分からない。

と、まぁ散々だったわけだ。
今こうしてゆったりと空を眺められるのは奇跡に近い。
いや、奇跡だよ。
なんてことを昼休みに一人ごちる。
 クラスの生徒の大半は部活動やらで、残っているのは、帰宅部の男ら数名と、僕とののか、そして、霜月こと古本少女……
意味ありげなメンバーがそろっていた。
あ、帰宅部のやつらは違うぞ。ただ暇なだけだ。
 ののかは榊原の席で本を読んでいた。
 朝以来変化はなく、いたって普通で、いつもどおり。あれから古本少女も何もしていないのだろう。
助かる……。
「みなとぉ〜、この本終わっちゃった」
「え?」
唐突に声をかけられ、少し慌てる。
「これ。この間一緒に買いに行ったやつ」
「ああ……えっと、どんな話だったの?面白かった?」
う〜んと口を尖らせながら言う。
「面白かったっていうと、そーでもないけど、駄作?っていうと、そうでもない」
「普通なんだね」
「そう!」
曖昧な返事をするののか。まぁいいけど。
「なんかね」
うん、と僕は頷いてやる。
「なんでか分からないけど、この本を読んでると、誰かからの視線を感じるっていうか、そんな感じの……そのね、あの……まるでこの本に目がついているようなそんな錯覚におちるの。きっとっていうか100%勘違いの思い込みだとおもうんだけど、やっぱりちょっと
気持ち悪くて……」
「……」
「誰かに話したかったの。それが今なんだけど。湊」
「?」
「何にもないよね?あたしなんか怖くなってきちゃった……」
本気で怖がるなんて相当なことがないかぎりしないこいつが
驚くほどに震えていた。
とりあえず、落ち着かせてみよう。
「だ、大丈夫だって!きっと勘違いだって。僕もそう思うよ」
「みなとぉ……」
彼女は泣きそうな目で僕をみてくる。これはなんとも……。
それから、僕は一つ気になっていたことを聞いてみた。
「あのさ、その本どうする?」
「どうする?」
「うん。気分が悪くなる本なら、例え何もなかったとしても、もう読まないほうがいいと思うし、手放したほうがいいんじゃないかって思ったんだ」
「そっか……そうだね。じゃあ……」
しばらく考え込んだ後、結論は。
「捨てるね!」
「す、捨てる?」
「うん。こんなのを古本屋さんに売っても可哀想だし、下校途中の公園の近くにゴミ捨て場あったじゃん?そこにでも」
「ダメだ!」
「え?」
しまった! 古本という単語から、古本少女が連想されて、イコール
そこらへんに捨てると僕の仕事が増える!
しかしここは冷静に、冷静に。
「何?ダメなの?」
「いや、ダメじゃない」
「そう?じゃあ帰りに公園寄ろうねぇ〜」
「あ、じゃなくて!」
「? なぁ〜にぃ〜?今日の湊変」
お前に言われたくねぇよ!
「だから、僕がもらってもいい?」
「湊が? どうすんのよぉ、読むの?気持ち悪くなってもあたし責任取れないよ?」
「いいよ。だから僕に譲ってよ」
「そこまでいうなら……はい」
ののかは問題の本を僕に手渡す。
「桜木さーん、ちょっといいかしら」
廊下からひょこっと顔をのぞかせているのは他クラスの子だった。
ののかの友人らしい。
「はーい! ごめん、湊。ちょいと抜けるねぇ!」
ヒラヒラと軽く手を振って返事をする。
そして僕は再び窓を見る。
少し曇ってきて、雨が降りそうにグレーだった。
ふと机に置かれた本に視線を落とし。
(どーすんだよ、これ)
悩むのだ。
ふわっと柔らかな、でもひんやりとした風が吹き、身を縮める。
「藍川 湊」
自分の名前を呼ばれたことに気付き、はっと振り返る。
そこには古……いや、霜月が立っていた。
どうやら声の主はこいつらしい。
「何だよ」
「その本」
「それ!」
珍しく驚いたらしく、表情を引きつらせる。
構わず続ける。
「この本は、さっきののかからもらったんだけど……」
ののかから聞いた話をそのまま霜月にも伝える。
まぁ聞いていたのだが。
「もしかして、その視線ってのはお前なのか?」
「ええ」
短く応え、腕組をする。
「普通はただの人間が視線に気付くことはないのよ。きっと桜木さんは何か持ってるのね」
「あいつはヘンだから」
「そうよね」
おい。
で、と続ける。
「あたしはどのこの世にある全ての本を管理しているわけではないのよ。これから古本化しそうな本を監視しているの。道路とかに捨てられる確率が高いからね」
「そうなのか……」
残りの昼休みはこんな感じで過ごした。
ぞろぞろと部活やらを終えた連中が帰ってきて、また騒がしい雰囲気へと転換した。
改めて「放課後」とだけを言い残して、霜月も自席へ戻った。
午後の授業はいたって平凡で、何事もなく終了した。


運命の放課後になった。
すでに姿を消していた霜月を確認し、急ぎ足で廊下を駆ける。
ののかには、用事で帰れないと言うことは、昼休みの伝え済みだった。

「はぁ」
最近少しの距離走っただけでもすぐ疲れてしまう。
年かな……。な、なんだよ。
「遅い!」
またもや後ろから唐突に大声で怒鳴られる。
お察しのとおり、やはり古本少女だった。
片手には本を抱えていた。
見覚えのあるタイトルだった。
「あ!ののかから昼休みにもらったやつだ!」
いつの間に取ったんだよ!
「なんだ?いつ取ったの?って聞きそうな顔をして」
「そのとおりだっつの」
あらそう。と軽く受け流す。
「で、用件はなんだ?仕事でもあるのか?」
「そうよ。この本が今回の仕事よ」
「仕事って……ただ単にお前がその本の監視をやめれば済むんじゃないの?視線を感じて気持ち悪いから読めなくて捨てるんだからさ」
「ぐぬっ」
「これは他の本にも言えることだと思う。別に管理……いらない、」
「それ以上はやめなさい!」
息を切らして方を上下させる古本少女。どんだけマジなんだよ。
「あんたは事の重大さがわかってないようね、やっぱり」
僕はむっとして言い返す。
「なんだよ。古本が溢れたって誰かしらが対処してくれる。そうしたら僕たちは平和に普通に暮らせる。違う?」
「違うわ」
今度はきっぱりとした、力強い声だった。
「前に本によって滅ぼされるって話したわよね?それはまぁ最終段階で、そうとうなことがないかぎり、ありえないわ。でもね、
もしあたしたちの古本管理人がかけてしまうなんてことになったら……
考えてみなさいよ。そこらへんにでもゴミ箱でも、どこでもいいけど
ある人が本を捨てる。古本になる。そんなことが日本だけでも一日何十万箇所で行われていたら。一ヶ月だけでも相当な量の古本が溢れる。
ごみ集取捨が持っていっても、どうせ細かくして埋めるだけ。
仮に埋められなかったものはどうなると思う?」
「そのまま溜まっていく?」
「ええ。つまり何人もの人が適当なところに捨てて行ったら、その分は処理に困るわよね?」
「そりゃあ、まぁ、ねぇ」
「でしょ?それらを片付けることが!」
大きく息を吸って、
「あたしたちに義務なのよ!」
話大きくしたよ!義務って……重。
「とりあえず、この本を練習だと思って分析とか教えるから、今日中に覚えること!明日からは自分で担ってもらうわよ。
それから、あんたが指令を出さない限り、あたしは動かないの。
だからくれぐれも指令出すのを忘れないように! もしそのときに争いが起こったら大変だしね」
「わ、分かった」

それから、僕は古本少女と一緒にあの場所へと向かった。
その後はみっちり遅くまで、不思議な空間の中で仕込まれ、なんとか担い手マニュアルの大半を覚えた。
寿命がきっと縮んだってぇ……。なんてことも思ったりしたが、それはない。
そう信じたい。ああ。
 帰り方法はまたしてもベッド。光が見えたらすっと目をあける。
いつもの場所から起き上がる。
家はない。でも古本少女は存在するという証拠が、今日はたくさん見つけられた。このトリックは未だ分からないが、存在が確認された今、
目を逸らすわけにはいかなくなった。
でも、僕は無性に今、自宅のベッドで寝たくなった。
———こういうのを現実逃避っていうんだろうな。
少し大人の考えに近づいた僕、藍川 湊、高一。
なんだかいやーな毎日で、青春も、もどきでとどまっている。
そんな平凡な僕が世の中の人々を救う日がくるなんて。
今まで想像したことなかった。
というか、本によって破滅っていう発想事態浮かばないだろう。