コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 古本少女!【参照1000突破ですの!!】 ( No.228 )
- 日時: 2011/10/25 19:41
- 名前: 月読愛 ◆YUGvIhJsVY (ID: F/CIbMuI)
古本少女は出てきたパネルなんかをすばやく戻すと、僕に先に外へ出ているよう伝えた。この奇妙な宇宙空間のような家から入り口を利用して出るのは初めてだった。いつもは窓さえない部屋の布団に寝かされ、目が覚めると、あの大きな木の前で寝てしまっている。
分かった。と軽く返事をすると、すっかり渡りなれた三日月型の階段を駆け下りる。右手にある扉を出て、少しあるけば出口が見える。
「内側はこうなってるのか……」
いつも入ってから振り返りさえしない扉の前で、足を止めた。月の光がそこに集まっているかのように、扉は薄く輝いていた。外からの太陽ではない、部屋の照明でもない、まさに扉自身が輝いているみらいだった———いや、本当にそうなのかもしれない……。
古本少女の家ならば、非現実なんてありえない気がしたから。普段の生活においては不可能でありえないことでも、ここや彼女の周りでならなんでも起こりうる気がする。世界中に数人しかしらない現実の背景や形。僕はその一人なのだ。
「よし」
深く深呼吸をし、表情を引き締めた。そして強く、その扉を開いた。
「どうしてこっちに寄こしたのよ」
古本少女はパネル作業を続けながら身を隠していた実の兄に静かに話しかけた。
「どうしてって……不必要だったか?」
いえ、古本少女は即答した。画面の地球儀を回しながら、彼女は続けた。
「どちらかというと感謝している……しかし……このタイミングでよかったのだろうか。私は今、十分な力を発揮できない。いや、これから先も以前のように、一人で管理をする力を得ることはないのかもしれない。勿論仕方がないことは分かっているつもりだ。今しかない。あと一日でこの戦争が終わらなければ、人類は……今までの努力が消え去ってしまう。多大な迷惑が生じる……兄さんや同じ管理者、それぞれの担い手、湊、そして何より、私達の基礎を保ってくださった……湊の父親に対してもだ」
「……」
一通り話し終えると、古本少女は画面の主電源をオフにした。大きなパネルから後方のパネルへと順に暗くなっていく。天井からつるされた小さなライトだけが虚しくヒカリを放っていた。
「そら」
「……」
「またな」
古本少女は壁のスイッチに手を置いた。パチッというかすかな音をたてて、唯一の明かりを消した。残光で見えるライトの影を見つめながら、お互いに相手の姿を察していた。やがてその気配は一つになり、残ったのは古本少女自身。雄が退室したのを確信し、その場に身体を小さくしてしゃがむと、思わず溜息が漏れた。
「さよなら」
心の中で静かに呟いた。
ゆっくり立ち上がると、何事もなかったかのように、暗い階段を降り始める。湊と同じ道のりを通り、光を放つ扉に向き合った。
「……後23時間……」
沈黙へのカウントダウンは既に時を刻みつつあった。