コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 古本少女! ( No.59 )
- 日時: 2011/03/22 22:07
- 名前: 月読 愛 ◆o9WCM38pVQ (ID: OJbG5PHc)
「……湊……」
バレないと思っていたらしいが、今回は限界だ。
僕の母は父が死んだのと同時に愛人をつくってこの家と、僕を捨てた。
以前にも同じようなことがあったのだ。
中学生のとき、僕は誰もいない家に帰ってきた。
見覚えのあるハイヒールが置いてあった。
その頃の僕は今よりもっと素直で、純粋な性格だったからかもしれない。
今すぐにでも母の元へ駆け出して「おかえり!」
って言いたい。
でも、今はダメな気がする。いや、これから先、ずっと……
そんな感情が僕をその場から動かさなかった。
さらにそんな出来事はないかのように胸にしまっておいた。
あの時に思いっきり言ってればよかったのかもしれない。
「もうここはあんたの来る場所じゃない」って。
今頃後悔しても再びおきてしまったことは仕方がない。
僕にも責任はあるのかもしれない。
でも……だからといって、いやだからこそ、今回は言わなければならない、実の母に、面と向かって。
「何やってんの?」
母さんはおどおどしていて、戸惑っていたが、この空気に耐え切れなくなったらしい。
その場に情けなく崩れ、弱弱しい声で僕に尋ねるのだ。
「どう?最近学校は、楽しい?」
「……」
「勉強ははかどってる? 高校も合格したし、とりあえず安心ね」
「……」
「あ、ののかちゃんはどう?最近は家に来ないのね」
「……」
「もしかしてけん……」
「いい加減にしてくれよ!」
「……」
「僕の前から勝手に消えたくせに、なんでこんなことするんだよ!」
「違うの、これは……」
「知らないよ!……今回だけじゃない。僕は知ってるよ、母さん何回か同じことしてたよね」
「それは……」
「いいよ。今回も許すよ」
「! みな……」
「でも!もう僕の前に二度と現れないでくれ! どうしてこんなことばっかりするんだよ。意味が分からないよ」
「みな……」
「迷惑なんだ! どこから情報を入手したかしらないけど、やめてくれよ、そういうの!困るんだ!」
なんて僕は子供なんだ。
「迷惑なんだ!」
言っても仕方がないのに。
「新しい家族だっているくせに」
止まらないんだ。
「僕を巻き込まないでくれええええええ!」
涙が止まらなかった。流れるのを止めようともしなかった。
自分でも分からないけど、自然と流れた。
でも、一つだけ分かったことがある。
それは———
人間なんて所詮こんなものなんだ
ってことだ。
儚くて、もろくて、でも頑張ってて、
どうにかしてでもすがりたい、優しくされたい、
そしてあの人のように孤独を抱え、ついには見放される。
様々な感情が交錯する。
本当に僕はついてない人間さ。
平凡重視の凡人だ。
……あいつにあってから、もっと運が減った気がする。
別に罪を擦り付けたりはしない。でも……
今だけは無性にそうしたい気分だった。
夜の街灯に照らされた誰かの人影がカーテンに映った。
僕は明かりもつけずにその影を見ていた。
そうか……あいつはこんな感情も察知してくれるのか。
ならいっそ、僕ごと捧げてしまおうか?
それもいいかもしれない。
「なんだか今日は興奮する……」
僕はそのままベッドにも潜らず、床に寝転び、静かな時計の針の音だけの世界で、なんともいえない心地に堕ちる。
「今日はさすがに来なかったか。用はないようだな」
一人の少女が暗い道でつぶやく。
(しかし……)
彼女は恐怖を感じていた。
「藍川 湊……心だけは壊れないでくれよ……。
もし……もし壊れてしまったら!うっ」
頭がうずく。呼吸も荒く、うまく出来ない。
「くっ」
足がバランスを崩し、大きく倒れこんだ。
ヤバっ!
「無理しすぎ」
「!」
優しい声の男性が視界に映る。
(誰?)
そんなことを考えている余裕もなく、完全に少女は気を失った。
「よく眠るがいい。後は俺に任せろ」
男はある一軒の家を見つめる。
その瞳は冷酷ともいえるほど青白く、しかし綺麗であった。
(藍川 湊……今からこんな調子じゃ……ダメかもしれないな。)
「期待はずれってとこか」
男は軽々少女を抱え、あの場所へと歩みを進めるのだった。
「そう思わねぇか?……古本少女さんよぉ」