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Re: 古本少女! ( No.62 )
日時: 2011/07/06 00:25
名前: 月読 愛 ◆o9WCM38pVQ (ID: akJ4B8EN)

第三章

 僕は次の日学校を休んだ。
どうしても行けなかった。こんな気持ちのままじゃ、授業だって無駄なだけだ。ならば行く意味なんてない。こんな感じだ。
 あの後、母さんは嗚咽をもらしつつ靴も履かずに、自分の家庭に帰っていった。
 玄関に立ちすくむ。そこにあるビビットの見慣れたヒールを見下ろす。
「これ、どうすんだよ……」
僕には一生必要のないそれを持ち上げ、今日捨てるはずだったゴミ袋へとぶち込む。
 僕の靴しかない玄関。三年前までは三人の靴がそこにはあったんだ。
そう思うと、一層あの人への憎悪間が深まった。
でも、今そんなことを考えていたって仕方がない。
僕は居間に戻った。
 テレビを見ても、雑誌を広げてみても、音楽も、勉強も、何もかも無意味に思えて、自分になにも利益なんかないんじゃないか
とまで思い始めた。
どうして僕はこんなになってしまったのだろう……


 気分転換にはここしかない。
そう、あの場所だ。
僕は大きな木のそばに座った。
そしたらだんだん睡魔が襲ってきて、僕はあっという間に眠りにおちた。


 気がつけば、そこはいつもの野ばかりで、家など存在しなかった。
(こういう日もあるんだ……)
 初めて彼女に会った日から、一度も担い手の仕事をしなかった日はなかった。
(別にいいけど……)
僕は再び眠ろうとする。
しかし一度目が冴えてしまうとなかなか眠れないのだ。
 僕は仰向けに寝転がり、どんよりとした灰色の空を見上げた。
今にも一雨降りそうな天気だった。
風はさすがにぬるくはあったけれども、僕の心は相変わらず冷たくて。
「みなとぉ〜!」
「うわあっ!」
にこぉ〜と顔を歪ませて僕の顔をのぞいてきた。
「何すんだよ、ののか!」
「それはこっちの台詞よ! 何で今日休んだの? 風邪だったらどうしようって悩んでたらこんなところにいたから、きっと違うのよね?」
僕は言葉に詰まってしまう。でも、ののかには話すべきなのかもしれない。
 僕は昨日の母とのことを話した。ののかに古本少女の話はできないからな。
「そうなんだ……」
どこか残念そうに彼女は俯いた。
「でもさ……湊はそれでいいの?」
「へ……?」
「お母さんきっと今、凄く傷ついてると思う」
「そんなの、ののかに分かるわけ……!」
「あるよ!」
 あまりの勢いに僕は思わず足がよろめいてしまった。
「あるよ! あたしだって、そういうことあるんだから!
いつもヘラヘラしてるんじゃないのよ……ただ、ああでもしてないと、
あんたが……」
「僕が?」
「っ……何でも……ないよ。湊が元気でよかった、安心したよぉ〜!
じゃあ明日は学校来るんだよ〜?金曜日だから一日行けば休みだし!
がんばりましょう!」
去ろうとするののかは足を止めると、僕を見据える。
「あのね、もう一つ……」
「……」
「今日ね、霜月さんも欠席だったの」
「え?」
「それだけ、じゃあね!」
「ちょっと!」
さすが陸上部に勧誘されるだけはある、逃げ足も速い。
 それにしても……
「古本少女……どうしたんだよ?」
というか。
(ののかはなんでここの場所を知ってるんだろう)



 角を曲がったところで、足を止める。
「はぁ……はぁ……」
額の汗を右手でぬぐう。そこには運動のためにかいたものでは
ないものも混じっているのかもしれない。
「あたし、バカじゃないの? あいつにこんな情報教えたって……
自殺未遂じゃない」
 征服のポケットから鏡を取り出す。
自分の顔を映しては見つめる。
「そうよ、この姿なんだから、利用しなきゃもったいないわ」
「これはこれは、お久しぶりね」
「!……古本、少女」
「覚えてていただいて光栄だわ。ふふ、感謝しなきゃね」
「……まだ邪魔をする気?」
「邪魔?失礼ね、邪魔なんていつしたっていうのよ、このあたしが」
「ふん。担い手を殺されたのにヘラヘラしてられるなんて、すばらしい根性ね。もう立ち直れないかと思ったわよ。
今だって新しい担い手に会ったけど……あんなへたれがいいの?
あんたも趣味が変わったわね! あははははははは!」
「うるさいわ」
「あら、そろそろティータイムの時間だわっ。また会いましょう。
see You!」
 彼女は首に下げたスプーンをモチーフにしたネックレスに軽く接吻。
眩しく光が溢れ、姿を消した。
 古本少女はどっと疲れがましていたが、なんとかこらえた。
ずっと目眩が凄い。
「だから、無理すんなって言ったのに」
「……うるさいわね」
 近くの屋根の上から全てをみていた、七島 雄(ななしま ゆう)
は降りてくるなりそう言った。
「さっきのが、三年前の?」
「そう。三年前にあたしと……湊のお父様を殺した、メルヘン童話少女、莉乃(りの)。最悪の相手よ。今は湊の幼馴染の姿を借りてるけど……いいえ、ののかは最初からいない。三年前にあのイカレ女にやられたのよ。あたしが混乱がないように、日常を構成しているだけよ」
「なるほどねぇ〜。でも、仕方がない。古本管理人の仕事が世界の古本回収なんてのは嘘だ。口実にすぎない……。だが、人間の世界を構成するには、こうするしかない」
「分かってるわ。古本っていうのは、本当は罪を犯してしまった人間の過去の履歴」
「そういうことだ」
雄は面白そうに唇をなめる。
「でも、あんたの担い手が今のままじゃ勝てるはずないぜ。また振り出しかもしれねぇ」
「分かってるわ、そんなこと。ねぇ……」
「どうした?」
古本少女は雄の顔も見ずに問う。
「なんで……あたしのところに来てくれたの?」
雄は彼女の頭を軽くなでた。
「そりゃあ、俺はお前の兄貴じゃねえかよ」