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Re: 古本少女! ( No.76 )
日時: 2011/03/27 21:39
名前: 月読 愛 ◆o9WCM38pVQ (ID: OJbG5PHc)

「おはよう、みなとぉ〜」
「うん、おはよう」
 僕はののかと待ち合わせしていた。
これはいつもどおりで、でもなんだかぎこちなくて……
昨日ののかはどこかヘンだった。
僕自身がどうかしてたから、そういうふうの見えたのだろうか?
だとしても、あの言葉。
『今日ね、霜月さんも休んだの』
古本少女が欠席するなんて、まずありえない。
それに、なぜののかはそんなことを
いちいち僕に知らせたんだろう。
疑問が絶えない。
何より、気になっているのは、
どうしてののかはあの場所を知っていたのかってことだ。
そりゃあ学校の近くではあるし、偶然知っていたのかもしれない。
でも、真っ直ぐに僕を見つけられる?
一人であんな場所へ行く?
ののかはあきらかに、僕に用があって来たように思えた。
僕があそこにいるなんて……わかるはずがないじゃないか。
しかしののかは迷うことなく、真っ直ぐに、僕のところに来て
用件を告げ、去り際に謎の台詞まで残していったのだ。
(おかしすぎるよ)
まるで、誰かから聞いて現れたようだ。
だから僕は、今日のうちにタイミングを計ってののかに昨日のことを聞こうと思っていたのだ。
これはもう決定したことなんだ。


午前の授業が終わり、昼休み。
みんなが購買などに散らばるなか、僕はののかの席に真っ先に向かう。
彼女は僕に気付き、にこっとエンジェルスマイルを返す。
「どうしたの? あ、今日は用がないから一緒にお昼食べよ♪」
「う、うん」
なかなか言い出せないのが、僕の短所。
特にののかには、なぜか言い出せない。
(情けない……)
とりあえず、ののかの隣の机を彼女の机にくっつけ
向かい合うような状態で昼食をとる。
僕は弁当の包みを開けつつも、チラチラと前にいるののかを見ていた。
特に彼女も気付くことなく鼻歌などしながら自身の弁当を相変わらずマイペースに開けていた。
僕は一口ご飯を食べ、飲み込んだ。
「ねぇ、のの……」
「そうだ!きいてよぉ〜みなとぉ〜」
「え、あ、う、うん、どうしたの?」
クソ! タイミングを逃した。どんだけ僕は不幸なんだよ。ってか最近こういうの多いって。
「あのね。前に買ったでしょ?『恋は友達から!』」
「えっと……」
確か彼氏が欲しいと言い出したののかに恋愛感情を勉強させるために、買った少女マンガだ。
これは古本少女の意見であり、僕が薦めたのではない。
思考が追いついた。
「あ、あれね。どうかしたの?」
「うん。あの続巻が、二ヵ月後にしか出ないらしくて、しばらく止まっちゃうなって気づいたから
あたし、昨日亜美ちゃんにアドバイス受けて新しいの買ってみたの」
「榊原と?」
「うん。帰りに教室で勉強してたら亜美ちゃんが来て、今帰るって言ってたから一緒に。ついで〜みたいな。亜美ちゃんの妹が少女マンガ好きなんだって。
だからいろいろ詳しくて」
「へぇ。なんか意外だな。で、それは面白かったの?」
「なんか、少女マンガっぽくない感じ。ダークで、シリアス?主人公は女の子なんだけど」
(そりゃそーだ)
「世界が古本で滅ぼされることを防ぐために、担い手と一緒に敵と戦って、最終的には……」
「……」
「みんな死んじゃう。っていう、なんか少女マンガにしては暗すぎる話で。でも、人間の葛藤とかよく現れてて、凄いと思ったよっ!亜美ちゃんに感謝しなきゃ」
ふふっと嬉しそうな彼女を僕は見つめた。
「ねぇ、ののか」
「うん?」
「その本のタイトルって……もしかして———」



僕は学校の図書館に来ていた。
桜霞高校の図書館は、校舎内にはなく、別館として
少し離れた場所に位置している。
夕方なこともあり、あちこちでカラスがないていた。
 図書館の辺りは薄暗く、きっと昼間でも不気味な雰囲気をかもし出しているんだろう。
 僕は図書館に入り、少し古臭い匂いを感じながら
二階への階段をのぼる。
一階は事務室になっているのだ。
 階段をあがると、透明のガラス張りの扉があった。
中にはたくさんの本が所狭しと並んでいた。
古本少女の自宅とは偉い違いだ。
あっちは何があるのか分からない。
 僕は入ってすぐのカウンターを横切り、一番奥の
スタディールームへと向かった。
あまり来た事はなかったので、やたら新鮮である。
見慣れない本の数々が本棚に収まっていた。
 スタディールームは主に大学受験のためのテキストやらが置いてあるため、受験生が多かった。
しかし、その中にちらほらいる同じ高校一年生。
同じ学年のうち、そこに女子はたった一人。
———榊原亜美である。
僕は他の人に迷惑のかからぬよう、ゆっくりと彼女に近づき、ルームの外へ出すことに成功した。
「どうしたの、湊くん?あ、生徒会にはいってくれるの?」
「……そればっかりだなぁ……いや、今回はまったく違う用件で」
「? 何かな?」
「昨日ののかと一緒に少女マンガを買いにいってくれたって本人から聞いたからさ、ちょっとお礼を」
「ああ、なるほどね。いいえ、私も丁度帰るところだったし、聞いたかな?妹が少女マンガ好きだから、結構私まで詳しくなっちゃって」
「うん。それで、質問なんだけど……」
「何?」
僕は昼休みのののかとの会話を思い出す。
『その本のタイトルって……もしかして古本少女?』
『そう!凄いね、湊ぉ!よく分かったね。どうして分かったの?』
『あのさ、ののか。そのマンがさ、担い手が出てくるんだよね?』
『うん、名前は”かなで”だって』
『ちょっと見せて!』
『あ!もう……』
『ののか、違うじゃん、これ”かなで”じゃないよ。かなでは”奏”だけど、これはさんずいがついてるじゃないか。つまり……つまり……』
『”みなと”?あ、湊と同じ名前だぁ!偶然ってすごぉ〜い♪』
『僕と同じ名前……』
「古本少女って知ってるか?」
「それなら、昨日ののかちゃんが買ったマンガのタイトルだったと思うけど」
「あのさ、それも妹さんが読んでたの?」
「ええ。面白いよって私にも貸してくれたの」
「そうなんだ……」
「? それがどうかしたの?」
「いや、その……今日、今から榊原の家に行ってもいいかな?」
「ええ……構わないけど、どうしたの?急に」
「その……マンガの情報を発信した本人にも直接お礼がしたくて」
「そう。いいわよ、じゃあこれから一緒に行きましょうか」
待ってて。と再びスタディールームへ。出しっぱなしのノートやらを片付けているのだ。
ののかが買った古本少女というマンガは、きっとこれから起こることなんかが描かれているんだ。
だとしたら、それを持ってた榊原の妹がどうも怪しい。そう思ったのだ。
僕は近くの本を手に取り、緊張感からの溜息が出た。


亜美はカバンにしまっておいた携帯の電源を入れる。
周りに気付かれないように、そっとカバンのなかで作業を進める。
メールを打っているのだ。
『今日はついに来るわよ。あのマンガに正体に気づいたみたいだわ。今から家に行くから、リビングにあるアレとか、片付けておいてね。よろしく、莉乃。
                
                亜美姉』