コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: トゥモロー&トゥモロー&トゥモロー(短編小説) ( No.1 )
- 日時: 2011/09/30 23:45
- 名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: GPHHIdp4)
プロローグ
この前の桜咲く季節、俺が高校生になった直前のこと。その時、俺は地元の、まぁ少しばかり名の通った進学高校にぎりぎりで入れることが決まった。そう、俺はこれから花盛りとも言えような青春に塗れた場所に一歩踏み入るのだ。
このプロローグはその入学式が無事終了し、先ほどその式の直前に説明を受けた新しいクラスに、また一歩踏み入れようとする瞬間を契機とし、始まる。
教室の扉の影に潜んで、また俺は立ち止ってしまう。
本日二度目の思案タイムin廊下。先ほどはこの時間を使い切って、ちょうど入学式の説明に来た男性教師に無理やり教室に入れられてしまい、変にクラスメイトの注目を集めてしまうという惨事にあった。同じことを繰り返さぬようにも、ここは早めに腹を括らなくては。
中の人たちに気付かれないように、胸元あたりに付けられたガラス窓越しに中の様子を探る。……やはり、教室は喧騒に包まれていて、実際にも笑い声や耳障りなほどのはしゃぎ声が聞こえてくる。
俺はそれらの声たちの主に、誰にも分からないように小さく嘆く。
「やっぱり、皆知らない人だ……こりゃ参った」
中学の連中はほとんど就職専高校に行ってしまったため、この有様。
前から覚悟していたが、ここまで気持ちがいいほど知人が居ないとは思わなかった。
幸先わりぃ……そう思う。だって、もちろんながら俺を初めっから知ってるの一人も居ないってことで……自然と体が身震いする。
おっとごめんよ〜。
と、一人の生徒が何気なく俺の隣をすり抜けようとする。が、途中何かに気付いたように、次に俺の顔を神妙そうに一瞥してきた。それに心の中でギョッとしながら生徒が通り過ぎるのを待つ。
「いつまでもここに居るわけには……いかないからなぁ」
自分にそう言い聞かせてから、とりあえず、先ほど座っていた自分の席に向かうことに。
教室の奥の方へ侵入。なるべく知らん顔しながら教卓の前を通った。その辺りから教室のあのバラバラだった喧騒の内容がはっきりする。
------------そう言えばさ、あの子誰? 知ってる------------商中の子じゃない? 他に来るの
------------でも、結構可愛いよね〜うらやましいなぁ
----------でもなんで男の制服着てるんだ?
------------男なんじゃね?--------------よく見ろってアホ
……びくっ!
ヤバイ、突然寒気が。てかやっぱ注目浴びてるっ!
早くこの晒し場所から離れようと、小走りになる。体を縮ませ、頭を俯かせて、早く、早く席へ。
どふっ!
突如、衝撃音がした。最初は何の音か分からなかったけど、頭部に感じる鈍い痛みがきっと俺に関係あることだと知らせる。
「いった! 何すんや、ワレ!」
……え? 顔を上げる。
「下や、下!」
下を見る。人が仰向けに寝っころがっていた。
……え? 何コレ? ね、寝ていたの? ゆ、床で!?
「あの〜、えっと」
「……なんや、なんか言うことあるやろ?」
それは難しい質問だ。
床に寝ている人が立ち上がりながら俺を睨めつけ、関西調で難題を押し付ける。
……どうしたらいい? とりあえず、ここは無難な回答を。
「えっと、床は上履きが歩くところなんで……ほら、そこは学校あるあるでさ。あまり寝っころがるってお兄さんあんまり勧めないって言うかあまりやらない方がいいかなっていうか……ア、アハハ」
そして笑って誤魔化し。
「アハハ、こりゃ失敬しました〜今度から気を付けはります〜。……って人に頭から突っ込んどいて何笑っとんのやぁ! しかも何言っとるんだか訳わからん」
あ、あれ、笑った? お、お、怒った?
訳わからん。ちょ、無理だこの人。
……無理だ
…無理……
む、無理無理無理無理無理無理ぃぃ!!!
参)無理の言葉が蓄積していくほど、感情表現が如実になるよ☆
「あの、その」
「なんややっと言う気に」
「ご、ご、ごめんなさいっ!」「っお?」
謝罪の言葉をあろうことか、“吐き捨て”ながらそのまま自分の窓側の奥の席へ席へダッシュ。
勢いを殺さず、素早く席に座り、両腕を枕にタヌキ寝入り。
というか実際はあの関弁の人の様子をちら見。
------------あー、吉野あれ泣かしたわ
泣いてません!
---------------ワイのせいか!?
違う!
------------“女の子”なんだからもう少し丁寧にだなぁ
それこそ違う!!
-------------ちょっとはワイにも同情してーな。ホントに女に
まだ言うか!!
------------振られたみたいで
あ、ごめん
それから本格的に机に突っ伏す。枕にした腕に、目の前に広がった暗闇に俺は問いかける。
……ほんとにごめん。
だからって訳でもないんだけど、何も言わないでほしい。ほっといてくれれば良い。
だって、分からないんだから。あんたらが分からないのだから。
前から思っていた。どうして人は言葉で通じ合えるのだろうと。決して相手は自分と同じ感覚を抱いている訳じゃないのに、どうしてそこまで人は会話という形で通じ会えるのだろうか?
俺にとっては誰かとの会話が成り立たない。相手の人が自分とは違う一種の生命体に思えてしょうがない。それが普通なんじゃないだろうか? っとやはり誰にも聞こえないように、心の中で自問する。
それからと言っても、することもないので持ってきた音楽プレイヤーに耳をふさいでもらった。誰の声も聴きたくない。今はとてもその感情は大きい。しかし、意地を張ったところで首が少し疲れて来るのは抑えきらない。顔を横にして寝かせてみる。
窓側の奥の席。ここなら誰かに干渉されることは少ないだろう。それに外の眺めも良い。
……おや?
ちょうど、視界に入ってきた妙な光景。隣の席に女の子が座っていた。それはいいんだけど、その子は首からフィリップのようなものをぶら下げている。彼女は外を眺めていた。が、ぶら下げている物の重さで同じく首が疲れるのか首を回して……目があった。
「あ……どうも」
コクリッ 彼女は微笑みながら頷いて答える。
それから、胸元のフィリップを見せてきた。内容は事前に書いてあったようだ。
えーと何々?
-------- こんにちは 清水 美玖 と言います------------
……はい?
「あ、あぁそうですか」
文字? レター? なして?
彼女もうん? と疑問に思ったような表情をして、次いで自前の左手で何事か書き込む。
そして見せてくる。
--------お名前 は ?--------
「……あ〜。名前っすか。河合雄次って言いますですよろしく」
……なんだろうか、この緩いやり取り。こんな馬鹿にしたような会話っぽいものがあるのだろうか?
まるで小学生がお隣の女の子に名前を尋ねるようなもんじゃないの?
そんな俺の感情を知ってか知らずか、彼女は笑って誤魔化すという俺が先ほど使った荒技を使って見せた。しかし、その表情はぎこちなくない。純粋に笑っているそんな印象を俺に与えるものだった。