コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: トゥモロー&トゥモロー&トゥモロー ( No.26 )
- 日時: 2011/05/10 23:37
- 名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: LMtRhfuT)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
さっきまでの自己紹介はすらすらいっていた。でも、ある少女になった途端、場に束の間の静けさがある。もちろん彼女が原因、でも誰もその少女は責められない。彼女は一生懸命、自分の事を伝えようとしているのだから。俺たちはそれを見守るくらいだ。
次の自己紹介は清水だった。今回も指名された時に大きく手を挙げてアピールしていた。あの入学式の時と一緒さ、だから俺や吉野以外少しびびったんじゃないかな。
自分の紹介のあと、吉野の状態を確かめるためにこちらに来ていた純一の表情を見たが、特に驚く素振りはなかった。というより、彼女のこの行動やフィリップに書き込む姿をじっと見つめている。
清水は少し移動した後、自己紹介を行う。フィリップが反射しないように、部室のロッカーで作られた少し陰になったところを選んで。丁度その奥には大量に山積みされたダンボールが目に入る場所。それはロッカーの扉を幾つも塞いでいて、さぞかし使い辛いだろう。不自由ではないのだろうか?
— 1j 清水 美玖 と いいます 宜しく お願い します —
「あぇ、うん。はい、よろしくっ!」
何故かそれに少し不意を付かれたように答えるのがユトリ先輩。
「おっす。あんましここには居ないけど、副部長なんで」
ちゃんと冷静に返事をするのが純一だった。彼女をじーと見ていたんだから当たり前か
ん? じゃぁユトリ先輩はどうして遅れたんだ?
そう言えば俺の紹介の後半あたりから声しか聞こえなかった。
ユトリ先輩は……後ろを向くと部室窓側の端にある床下の扉が開いていた。そこからひょっこり顔をだしてニコニコ。そこから清水を見ていた。どうやら何かを中で探しているようだ。あの床下収納は普通のとは内側から閉められる様になっているらしい、どうやって改良したのだろうか? つまりあのまま床下閉めてもなんでもないってことですね☆残念ザンネン。
部員たちの自己紹介が一通り終了したので、俺は気になっていたので、とりあえず床下部室を覗いて見た。
がさごそっと何かを取り出すように、ユトリ先輩が擬音を口にする。
「がさごそ〜」
「……」
「ごさがさ〜」
「……」
「がっさごぉそぉぉ!!」
「だぁ、わかりましたっ! それ出すの手伝えば良いんでしょ!?」
こんな感じで俺も床下に降りて先輩と一緒に何かを引っ張り出すことに。
それは…大きなダンボールだった。中身が重いせいかダンボールのとってが歪んでしまった。なんなんだよ、これ。あまりの重さに手を離してしまう。
「先輩、重過ぎます」
「ん〜〜あっ。なんだとうっ!?」
「いやいや、先輩の事じゃなくて、これが」
俺は横に居るユトリ先輩に目の向きを合わせた。すると、彼女の口の周りになんかのインクが馬のヒヅメ状に取り巻いていた。どっかの強盗のような感じ。こっちもなんなんだ?
「ほれぇお前もぉ!この積みあがったダンボールの山を除去して、床下帝国を広げて明るいシャバにでんぞぉ!!」
「脱獄はよくないと思います。それと雰囲気に便乗しないで」
「なん……これじゃぁ皆入れないジャン!!」
「皆を入れる気ですか!!」
はぁはぁ、引き疲れたのかユトリ先輩は息を切らす。しかし、その間もハッキリとした口調が俺の耳に入る。
「だって、ここしかないもんさぁ。だから、皆入れるようにしないとっ。」
「はぁ。それより、高さが問題ですよ。俺とユトリ先輩が丁度座れるくらいじゃ、あと清水しか入れませんよ」
「後の二人にはホフク前進態勢で居てもらうからっいい!!」
「……二人は良くないですよ。」
それに貴方の場合、報復の後進がお似合いですよ。現に仕返し何人死にかけてると思ってるですか、自重してくださいという意味で。
それにしても、本当になんて人だよ。そんなにここでやりたいのかね。いや、そんなことはあるまい。こんな暗くて、首痛くて、お化けでそうな……とりあえずっこっちから願い下げだ。俺はそんなとどまらない不満の一つを先輩にぶつけた。
「吉野が居るし、それに生徒会長でしょ? 二人で諮ればいいじゃないですか。
それに部員が5〜6人居るって言えばナントか倉庫でも借りられる筈ですよ」
こんな狭いとこは誰だって嫌なんだから、そいつ等にも聞き入れてもらいたい。
「……吉野と?」
「ちょ、なんでそこに引っかかるんですか?」
「……でも」
「はぁ。そんなに吉野がキライなんですか?」
ユトリ先輩の表情がイキナリ暗くなった。まぁ、感情の上げ下げが激しそうだとは思っていた。でも、このしょげ具合には流石に参ってしまう。どうしたものかなぁ。
「そんなことは……」
あ〜だめだ。完全にしょげてしまった。ここまで来て敵の助けを借りなければならない、か。まぁ、確かに誰でも悔しいだろうなぁ。
しかたないっ。ちょっとウザキャラもーど全開といくかぁ? やりたくは無いけど、これからこんなとこに居るのも御免だし。
「このダンボール、何入ってるんでしょうね」
「え? 何って剣道の防具とかじゃない」
「……やっぱ、そっすよね」
俺は床下扉から屈んでいた体を伸ばして、そのまま伸びをする。それから周りを見渡してクスッと笑い、ユトリ先輩を見つめる。
「正直。あ、いけねぇですよ。これ」
「どうしたの?」
「ん? あぁ、いやですね。あの部室ロッカーの奥に追いやられている荷物。きっとここの床下収納に収まるんだなってねぇ」
ユトリ先輩も立ち上がってその様子を見る。
「ちょっと、これは剣道部には迷惑だったなぁって」
「あ……そうだね」
「思うんですけど、ボランティア部が初めっから迷惑かけたんじゃ、面目がたたないじゃぁいですか」
「うん」
「それに……先輩が一生懸命やってる姿。ここに初めに来た、この生意気な後輩なら結構知ってるつもりですし」
「……エイジ」
「良い機会じゃぁないですか。新装開店。改めて部室作ったって。罰あたんないし、それ以前に剣道部も嬉しく思うでしょうしね」
それから少しの間が流れる。でもそれは清水と話している時の間とは、明らかに違う、何かが止まってない、動いていて生きている。
「そっかぁ。そう言われれば、そうだよね」
なんて言って、ユトリ先輩がクスッと笑う。それは何処かやさしく、観念したような柔らかい笑い。不思議とこれからこの笑みは、この部活の肥料となっていくに違いないとふと思った。
「私、いつも誰かに気づかされてばかりだねぇ、ホントに」
「大概そんなもんっすよね。いや俺も」
「……あのさぁ、部室の件さぁ。エイジの言う通り、吉野とちょっと検討してみるね」
「ん、あぁそっすか」
先輩。まぁ、爽快に言ってくれるのはいいですけどね、その口周りじゃ説得力ないっすよ。