コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: トゥモロー&トゥモロー&トゥモロー ( No.39 )
- 日時: 2011/05/29 18:54
- 名前: そう言えば、こしょうの味知らない (ID: LMtRhfuT)
「やっぱ病院の友って奴は湿っぽい話しかしないんだなぁ」
— ごめんなさい —
「あぁ、そういう意味じゃ……あーでもそんなとこか。いや呆れてるわけじゃないんだけどな、なんでそう聞こえちまうんだか」
まるで弁解するように先輩は買ってきたオレンジジュースを差し出しながらそう言った。それをありがたく受け取って手に包んでひざの上に置く。それから隣に座った先輩がコーラにストローを刺し、一口飲んだ。
「……あ〜、辛い」
ため息を交えながら味の感想を述べる先輩。その彼の目はさっきから何処かうつろで遠くを眺めているようだった。少なくとも真横の私はそこに映し出されてないようなんだけど。
「アイツのことさ。浩太のこと。どうだったかなぁ」
やっと焦点があったのか、ちゃんと私を横目で見据えて会話をする。
ボーとしているところは心配だけど、とりあえず陽気に答えてみる。
— ちょっと やんちゃ みたい ですね —
そう言えば最近、普通の会話となんの劣勢のないスピードでフィリップに文字を書いている気がする。始めの頃は結構苦労したんだけど。うむ、慣れっていいものですね。字が綺麗ならあとはもう申し分がないね。だったらスピードを殺すしかないけど。
— 明るい 性格 なんですね —
「そっか。やっぱそなんだよな。……あのさぁちょっと質問いいかな」
書き書き。
— なんですか —
「美玖ちゃんなら分かると思うんだけど……さ」
先輩の目がまたうつろになり始めた。今度は遠くじゃなく、手元のストロー付きコーラを見下ろしている。何か悩み事なのかなぁ、でも私に聞くってあまりにも頼りない気もする。返事文字だし。強調しようとしたらキャラ崩壊が一番置き易い設定だし。
「あいつ、ムリしてるんじゃないかなって思うんだよ最近になってさ」
そう言った先輩は手元のコーラのストローを取って、空いた穴を押さえながら振り出した。
「テレビのドキュメントとかでさ、がんや白血病にかかった子供をよくみるんだよ。……そしたらだいたいの子供が死んじゃうんだよ」
コクッ。頷いてみた。
「いやぁ、ね。その死んじまった子たちさ。ムリして笑ったり、明るく振舞ったりしているじゃないか……それが浩太に似てるんだ」
先輩はコーラを十分に振りおえたのか、それから天井を見つめ動きを落ち着かせる。
「そういう子供ってさ、浩太もそうなんだが。みんな死ぬのかなってね。ぜひとも“生還者”に聞いてみたいと思ってね。ここまで連れて来たまでなんだ。……どうなのかな」
クいクい。まず先輩がこちらを向いてくれないと始まらないので、遠慮なくワイシャツを引かしてもらいます。
反応してこちらを向いてくれたので書き書き。
先輩が言いたいことは分からないでもない。だから、うじうじ言ってないで信じて待ってやれ! とか全面的に突き放した物言いはないよ。だからって云々ってのは実は分からないけど。せめてこう言うしかないと思うから。
書き書き。
— 彼だけの ムリ じゃ ないです —
「……え?」
消し消し。書き書き。
— 今の 先輩 の みたいに 皆 ムリ してます
だから 彼も ムリ したように 思えちゃんです —
消し消し。書き書き。
私がそうだったように。お父さんやお母さんが影で泣いてるなんて考えると悲しくなるのは当然だと思うから。だから、そこにムリが生まれる。誰もが耐えなきゃならなくなる。そーいうことなんじゃないかなって今の先輩に伝えたいって思う。
消し消し。書き書き。
— 私は お医者さんに 何を 言われようと
みんな 笑顔で 良いって 思ったんです
そうすれば ムリ しなく て いいって —
消し消し。もしかしたら先輩は勘違いしているのかもしれない。書き書き。
— もし みんな そうなら コウタ 君 は ムリ していない —
……文法上おかしなところもありますが、とりあえず伝えたいことは伝わった、はず。う〜左手が痙攣起こしてるぅ。
「……っ」
石のように固まっている先輩はそのまま目を剥き驚いている。
「そうか、そうか。そうだよな……俺がムリしちゃいけないってことか。確かに全く考えたくないこと考えてたし」
それから先輩の表情は重いお面を取ったように一変した。
「ごめんな、こんな時間にまで。付き合ってくれて……ジュースじゃたりないからまた今度お礼する」
いつも通りの笑顔のあと、先ほど振っておいていたコーラにストローを挿し、また飲み始めた。私の奇異の視線に気づいたのか彼はこういった。
「あ、これ? さっきみたいに振って飲むと炭酸が抜けて美味くなるんだ。友達に教えたらやっぱ美食家だなって鼻で笑われた一品」
それは……そうでしょうねぇ。
○
そろそろ帰ろうかっとそれから先輩がいったのでそれについてくことにした。途中、思い出したから来週の土曜日のことについて話したら。
「あぁ、プリントに書いてあるからいいよ」だって。
…………ばか