コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: トゥモロー&トゥモロー&トゥモロー ( No.42 )
- 日時: 2011/07/10 12:22
- 名前: そう言えばこしょうの味知らない (ID: PDV9zhSY)
それから徒歩10分。俺たち、県立桜高校ボランティア部が到着したのは海岸沿いにある建物だった。その暖色系の色を多めに用いたコンクリート壁は介護施設というよりも幼稚園模様とでも言おうか……場違いな幼さが滲み出ていた。
その佇まいを、砂利を含んだ駐車上から睨みつけながら、俺は隣から横着に倒れこんでくる先輩を支える、と同時に会話することにした。
「うぅ、めるし〜」
「バス酔いってホント辛いものなんですね(笑)」
「ほんとっ可愛くない病よね」
「逆に可愛い病気ってなんですかっ」
「風邪とか虚弱な面ありで、早く治る。ポイント高いし、結構お手頃じゃない?」
「……誰も虚弱な先輩を愛らしく思いませんよ。それに、その観念ならバス酔いも同じじゃないですか?」
「程度によるの」
確かに。
「……あんじゃこりゃ、これが介護施設なのか?」
と、そのまた隣にいる純一が言うと純一の隣の清水も頷いてそれに答える。
ふ〜んと吉野も興味なさそうに眺める。
ということで現在、俺たちは駐車上の邪魔にならない隅の方で立ち往生……て訳でなく、担当の“亀島さん”を待っているのだと、先輩が瀕死(笑)の状態で話してくれた。
その人は例のファックスを送ってくれた方らしく今日一日お世話になる人だ。
「純一もそう思うかい? 彩が幼稚というか……」
「あぁ、せめて肌色の方が雰囲気でるだろうに」
苦笑して純一は語った。そうかなぁ、俺は白がいいと思う。誰にも会いそうなユニバーサルデザインである。しかしまぁ色の感覚は人それぞれかな。ついでにこれをゆとり先輩なら以下のようになる。
「逆に灰色とかまたは白と黒のグラデーション」
先輩からカリスマ性が失せるのももう一息だと思った。
その直後、俺たちに一風が吹いた。前から押されるように埃が飛んでくる。それを目を閉じて回避すると……止むと同時に目を開けると前から急いで近づいてくる人影が見えた。
彼が例の亀島さんだろうか? 日に焼けた褐色の肌に茶髪で覆われた顔。若作りキボンヌなのは分かるが、やはりどこかくたびれた感が漂う……聞いてもないのに年齢をいうというのも不躾だが、40代の中年男性といったところだ。
そして俗にいうオッチャンが微笑みながら小走りしてこちらに来る。
「こんちはぁ〜やぁ、ごめんね〜待たせちゃって……えっと、桜高校のボランティア部のみなさんですねぇ? 」
「こんちは」
「ども」
「うぐぅ、ぼ、ボンジュール」
「あ。え、大丈夫君?」
「こんちわ、まぁ水でもぶっかければ治りまっせ?」
「あ、そうなの? へ〜最近の若い人はすごいね〜ワカメみたい、あはははははっは」
走ってきたせいか亀島さんの額には汗が染み出ている。それをハンカチで吹きながら亀島さんは大笑いする。なるほど、立派な中年男性だ。この間抜けたところも、そしてどこか憎めない雰囲気があるところも。人生いくえの修羅場やプライドがぶつかりあった結果の進化なのかもしれない、誰からも好かれる中年メンズスキルはそう簡単に手に入るものではないっと親父が言っていたと思う。……何が言いたかったのかいまいち分からないところである。
— こんにちは —
「おや? 君は……風邪か何か?」
「あ、いや」
俺が説明するのか……こいつが話せないことを。もし、それで清水が敬遠でもされたら俺の責任になりそうだ。そんなことを恐れてるわけじゃないが、なぜだろう。言いあぐねる。
— 私 しゃべれないんです —
それを提示する清水の顔は笑顔だった。
「あ、あはは、そうだったんだね。大丈夫。ここにはシャイな人はいっぱい……って訳じゃないかな?」
亀島さんと清水は見つめあう。しかし、俺は亀島さんが清水から一瞬目をそむけるのを見逃さなかった。
「そっか。でも大丈夫だと思います。ここの方は皆優しいですから! さぁ、早速。事務室でお互いの自己紹介の後、お仕事内容を確認しますので、今日はよろしくお願いします」
それに各自同意を示してから、吉野と純一、ユトリ先輩は亀島さんの後に雑談を交えながらついていく、もちろんその内容には亀島さんの話題もある。その姿を一メートルくらい後ろから俺と清水はついていく。
「なにか手伝えることあるなら伝えてくれよ?」
コク、清水が頷いてそれに答える。三時のおやつの前に少量のこしょうを舐めた感覚の、楽しみだったボランティア活動の前に味や質のわからない薬味を与えられ、どこか苦々しい表情を笑顔で殺す清水がそこに。
あの人はできる限り気を使ってくれたんだと思う。だから後は……
— 雄次 —
「……なんだ?」
— 雄次
私も できる限り 頑張って 手伝うね —
懸命にやってる姿を可視化して証明するしかない。