コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Cherrytree road 〜桜の道〜 ( No.86 )
- 日時: 2011/04/13 19:29
- 名前: ハルナ (ID: WPJCncTm)
第十章 樹里との花苗の誕生日
私は今、車に乗っている。
なぜかと言うと—私の乏しい国語力ならまとめられないだろうから、会話や行動をそのままさかのぼってみよう。
あの後、私たちはいくつかの言葉を交わした。
冷たく思えた 樹里が元通りでほっとした。
「今日は遊園地でいい? オッケ。」
樹里は喋りながら携帯を操作し、慣れた手つきで携帯電話をかける。
「じじ、伊吹おじさんに頼んでおいたよね? 今来て頂戴。 あと、今出かけるから。」
短い会話をして、樹里は「さあ、行きましょうか」と言った。
さっきの石段の上で、待つ。
5分も経ってないうちに光沢のある真っ黒の車が見えた。
中から出てきたのは、細身でおそらく20代後半くらいの男性。
黒の制服—私にはこう見えたがそういうものに身を包み、きりっと立っている。
「樹里さん、今日はまた宜しく。」
その男は、深々と頭を下げた。
樹里は私のほうを向き、彼のほうを指して言う。
「この人は伊吹おじさん。私お父さんの兄弟の子供さんにあたるかな。そして 車の運転を主にする職についているから、今日の運転手としてお願いしたの。」
伊吹とやらいう男が軽く頭を下げ、言う。
「叔父さんにはお世話になっているので、少しでもご恩を返せたらと。」
2人は幾つかの会話を経て、樹里が私に「この車にどうぞ。」と指した車は、自分の家に止まっている、赤色の車。
ハンドルが左だから外車であろう。
中は広くて快適—そんな空間に 伊吹と樹里、そして私がいる。
思った通りの沈黙。
だが、沈黙ってこんなに辛かっただろうか—そう思いながら、車内では外の景色を、ずっと見ていた。
☆ ☆ ☆
「夕歌 ハイランドパーク」
ど派手に書かれた、看板の前でやっと着いた〜!!というように大きく伸びをする。
「花苗ちゃん…楽しもうね…!最後かもしれないし—」
このときの私は、「最後」という意味が分からなかった。
「まずは、なんか買ってこよう!」
「ポップコーンとか、売ってるかな!?」
「あったら、買おっか♪」
私たちは笑顔だった。
☆ ☆ ☆
「ふぁ、楽しかった、ね!」
私たちは適当にお昼を済ませ、遊びに遊びまくった。
こんなに楽しかったのは、はじめてかもっていうくらい。
樹里はぼぉっと遥か遠くを見ている。
「うん…!次、観覧車行こうか。」
視線を移し、まっすぐ私の目を見て 樹里が言う。
どくん・・・体全体が緊張状態に陥った。
咄嗟にきりはらう。
「じゃあ、早く並ぼ!」
観覧車の中に2人で入ると、さっきまでとうって変わり、ぴりっとした空気が流れる。
空気の重圧は 時間が経つにつれ、増すばかり。
「花苗ちゃん……じゃ、話すね。」
私がゴクッと生唾を飲む。
「私は花苗ちゃんとはもう友達ではいられない・・・花苗ちゃんだって、分かってるでしょ?」
樹里の声は、涙声だった。
「花苗ちゃんは、真琴くんのことが好きだよね—?」
胸にその言葉がずしんとのしかかる。
ついにこの時が来た。
覚悟しておいたのに・・・私もつられて涙が溢れ出す。
「ごめんね—樹里ごめんね・・・。」
私にはもうこれしか言えなかった。
「私は—花苗ちゃんに諦めて欲しいよ。 だって絶対私のほうが好きだし、ずっと真琴くんだけを思ってきたんだから—!しかも私は花苗ちゃんと友達でいたいから。」
そっか…あきらめる—
いままで避けていたのかもしれない。
「花苗ちゃんはもてるんだからとられちゃうよ—!」
2人ともぽろぽろと涙が止まらない。
樹里の訴えを聞いても、私の気持ちは決まっていた。
「ごめん・・・私も真琴くんのこと好きだから—。」
2人にこんなにも好かれてる真琴は、幸せ者だね。
こんな残酷で辛いやりとりがあったとは知らずに—。
私は終点までの間、そう思った。
続きを話そうと、近くのベンチに2人で座った。
じろじろ見てくる人達の視線なんて気にしない。
「もうこうして話したり笑いあったりはできない。だって、ライバルだからっ。」
「私だって樹里はいつでも、最高のライバルだよ— 。」
私たちは、しっかりと抱き合った。
これが私たちが友達から、ライバルへと変わった瞬間だった。
—樹里は小刻みに震えていた。
これで本当に さよならだね、樹里—。
帰りは、4時に伊吹がまた迎えに来た。
目が腫れていて、泣いたって分かる2人を気にも留めぬ様子だった。
そして私の家を知っていたかのように降ろす。
車の後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。
「樹里さん。花苗さんと、これでよかったのですか?」
「……よかったのよ。伊吹おじさん。」
遠くを見つめる樹里の目は、とても悲しそうだった。
私たちはこうして、たった一人のために友情を壊し、本当に良かったのかな—?
自分に問いかけてみる。
間違ってない—?
どっちにしても、取り返しのつかないことをしてしまったのだから・・・。
乾いた頬が、もう一度涙でぬれた。