コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Cherrytree road 〜桜の道〜 ( No.93 )
- 日時: 2011/04/19 19:12
- 名前: ハルナ (ID: WPJCncTm)
第十一章 蓮華の告白
夏休みも終わり、また普通の日々が戻ってきた。
最初から、分かっていたのだ。
長い夏休みになることは・・・。
あの樹里との最後からは、校庭へも行く気はしなかった。
ただ、家にいて 思いに耽ることしか出来なかった。
そして始業式から3日も経っていない今日、圭吾からの誘いがあり、週末に圭吾のバスケを皆で見に行くことになった。
夏休み前から、聞いていたのだが 夏休み中に日程がはっきりしたそうだ。
私がいつもより口数が少なく、暗いことを 保田は、気づいていたのかもしれない。
とにかく バスケを見て、この気持ちを吹き飛ばせたらいいなと思った。
☆ ☆ ☆
8月27日 篠田小学校、体育館。
体育館は、だいぶ人で埋まっていた。
小さい子供がきゃあきゃあ走り回ってたりするくらいだ。
花苗は時計を確認する。
午前8時10分。あと20分くらいで試合が始まる。
なんでか、早く着いてしまった。
暑くて、七分丈のTシャツを腕まくりをする。
しゃらっ。手編みの腕輪は、何度も私に樹里を思い出させた。
あの日のベンチで、樹里は誕プレとして私にくれた。
ミサンガだと、すぐ切れちゃうからって。
もっと長く、大きい夢を叶えて欲しいから……
その言葉は、単純に嬉しかった…。
その中に通っている星の飾りは、前にお揃いで買ったストラップの一部だったのも、私は覚えてる。
隅っこで壁によっかかり、持ってきたケイタイ小説を広げる。
私は思う。
こんな素敵な恋には、ならないこともあるんだって・・・
暗い気持ちだからか、マイナスのことばかりが頭に浮かぶ。
そのせいか、10分ほどで2ページしか進まない。
「花苗さん…待ってましたか??」
上から、蓮華が覗き込む。
「そ、んなことないない!!来てくれてありがとう。」
私は、にこと笑う。
そう、夏休み前から蓮華をよんでいたのだ。
正直、誰かと一緒にいたかった—というのが本音だった。
樹里はというと、芽衣とよくいるのを見かける。
芽衣は蓮華とも、樹里とは別に 話してはいるけど…。
「あの、花苗さん…勇気がなくなる前に、言いたい事があります。」
「いい よ—?」
いつもの6の3の教室に入る。
黒板の前に、私と蓮華が二人きりでだ。
「ごめんなさい、急に。全部、話します—」
下を向いていた蓮華が、ばさっと黒髪を上げ、唇をかみ締め私を見ている。
空気から—重要なことなんだろうなと私は察知する。
「私、芽衣ちゃんに 花苗さんを監視しておいてって言われていたの。それは、芽衣ちゃんが保田くんのことが好きだから。理由は、たまたま 席の近くだからというだけで。私はなぜこれだけの理由でこんなことをするのだろうかと不思議でした。でも、芽衣ちゃんは何かを感じていたのかもしれない。」
蓮華は、言葉を切る。
そしてまた再び、語り始めた。
「私は、たった一人の友達を失うのが怖くて 言われたとおりに動いてきた。
そして、ずっと命令どおり花苗さんを見ていました。
いつも笑って、気さくで、楽しそうで—。
それがだんだん 憎くなって、いつしか悪いイメージを持っていました。
芽衣ちゃんの狙いは、ここにもあったのかもしれませんが・・・。」
「それで、この間の運動会で優しくしてくれて—。いろんな感情が駆け巡った。こんなにいい人なのに—最低ですよね。」
今にも泣き出しそうな蓮華を、私はあえて止めずに、黙って聞いていた。
「そして、今 芽衣ちゃんが 尾崎さんと楽しそうに話すのを見て、友達ではなかったんだって、思い知らされました。私は、利用されていたんだって。」
—そうだよね。
私は、気付いていたのかもしれない。
自分のことで精一杯で、頭によぎった感情も、流されていたんだ。
たった一言、
「口に出すのも辛かったろうに・・・。」
そう言って私は蓮華の肩にやさしく触れたんだ。
シ———ンとした教室に私たちは一言も口を利かずに、それぞれの思いに浸っていた。
「—ごめんなさい。今まで黙っていて。」
蓮華がこういうまでは、時が経つのさえ忘れていた。
「苦しかったんだね、苦しかったんだね— 私、気付いてた・・・今まで言えなくて、ごめんね—」
ごちゃごちゃな気持ちの中に、ぽつりと明かりが灯った。
この子のことをもっと知りたい、分かりたい—。
私は蓮華の手を握る。
お互い、汗をかいて湿っていた。
「友達の、握手ね。」
蓮華が可愛く笑い、握り返してくれた。
蓮華が笑うと、こんなにも可愛いんだ—
つい見とれてたなんて、恥ずかしくて言えないや・・・
ハッ! 私は今日の目的を思い出し、我に返った。
☆ ☆ ☆
「まだ 間に合うかな—?」
「どうでしょう—。ごめんなさい、私のせいで。」
「いいんだってば。それよりタメ口でいいからね??」
「う、うんっ!」
階段を駆け上がり、ギャラリーに行ってみる。
すると、まさに試合の真っ最中だった。
人がぎゅうぎゅうではないが、けっこういる。
きょろきょろと周りを見渡すと、真琴と陽翔がこっちと手招きしているのを見つけた。
「おせーぞ!!」
と口ぱくで言っている・・・のかな??
蓮華と私は顔を見合わせ、テヘとでもいうように笑った。
あとから思い返せば蓮華の告白は、よく冷静に聞いていられたな と思う。
そして、この会場には当の二人の姿もあった・・・。